黒木瞳「美しさとは“朗らか”であること。何事にも愛のある人は美しい」
2025.01.21
公開日:2025年01月21日
私らしく、美しく。
西村宏堂「比べる美はコンプレックスを生み、私らしい美は自分を幸せにしてくれる」
僧侶、メイクアップアーティスト、そしてLGBTQ当事者。「ハイヒールを履いたお坊さん」として「平等」をテーマに発信を続け、2021年米国TIME誌「次世代リーダー」の一人にも選ばれた西村宏堂さん。「私らしく生きる」ことで花開いた西村さんの「美しさ」とは――。
取材・文=佐田節子 写真=岡本隆史 スタイリスト=Chris Isaza 企画・構成=橘美波(HALMEK up編集部)
「私らしく」生きられず、“あら探しマスター”だったあの頃
――自ら施したメイクとブラックの衣装を身にまとい、カメラをまっすぐ見つめる西村宏堂さん。その姿は、美しく自信に満ちあふれている。けれども、かつては自分らしさを押し殺し、劣等感にさいなまれ続けた苦しい日々があったという。
私はずっと自分のことが嫌いでした。自分が“普通じゃない”ことに罪悪感と劣等感を持ち、他人に笑われたり批判されたりすることにビクビクしながら、20年以上生きてきました。
私は同性愛者です。子どもの頃からお姫様ごっこが好きで、幼稚園ではシンデレラごっこをよく友達に教えてあげていました。自分のセクシュアリティが他の人と違うことはわかっていましたが、当時はテレビなどで“オカマ”“ホモ”などとからかわれたり、気持ち悪がられたりしているのを見て、男性を好きな自分は恥ずかしい存在なんだと思い込んでいたのです。
本当はおしゃれが大好きで、メイクもしてみたかったんですが、化粧品コーナーに行くと「いらっしゃいませ、お母様にですか、彼女さんにですか?」と聞かれてしまい、自分のファンデーションがほしいとは言えませんでした。それに10代の頃はアトピーがひどくて。顔が真っ赤で、手の皮膚からは汁が出ている。気持ち悪い、汚いって思われるんじゃないかと心配したり、なんだか心まできれいじゃないようにも思えたりしていました。
自分のことが嫌いだと、他の人も嫌いってなるんですよね。あの人だって、こんなことができてない、なんであんな無責任なことを……などと、悪いところにばかり目が行く“あら探しのマスター”になっていました。すると自分の悪いところもまたたくさん見えてきて、もっともっと自分が嫌いになってしまったんです。
「私らしく」を手に入れてから人生がカラフルに!
そんな私の人生が上向き始めたのは、20歳でニューヨークの美術大学に進学した頃から。LGBTQであることを隠さず正直に生きている人たちをたくさん見たからです。例えば大学の学部長がゲイで、そのパートナーも同じ大学にいる。学生もそれを普通に受け入れている。街のショップでは、男性の体で生まれた人がバチバチにメイクをして堂々と化粧品を売っている……。私も隠さなくていい、劣等感を持つ必要なんてない、自分に正直に生きていいんだ、と思えるようになってきました。
そして24歳のとき、一大決心をして両親にカミングアウトしました。母は私が子どもの頃から「もしや」と思っていたそうです。父はいつものように淡々と「わかった。宏堂の人生だから自分の好きなように生きたらいい」と。両親がありのままの自分を受け入れてくれたことで、モノトーンだった人生がカラフルに輝き出したかのようでした。

私はお寺に生まれましたが、僧侶の父や母から「お寺を継ぎなさい」と言われたことは一度もありませんでした。私自身はというと、仏教やお坊さんを毛嫌いしていたんです。でも、よく知らないまま批判だけするのはよくない、自分のルーツでもある仏教ときちんと向き合おうと思い始め、僧侶の修行を受けることにしました。
そこで気付いたのは、仏教は2000年以上も前から私のことを守ってくれる教えだったということ! 「自分の気持ちに嘘をつくのは罪である」という戒めを知ったときは、ハッとしました。私はずっと自分の心に嘘をつき続けてきたから。
また『阿弥陀経』という経典には、「青色青光、黄色黄光、赤色赤光、白色白光(しょうしきしょうこう、おうしきおうこう、しゃくしきしゃっこう、びゃくしきびゃっこう)」という一説があります。青い蓮の花は青く光り、黄色の蓮の花は黄色く光る。それぞれの花がそれぞれの色で輝いていることが素晴らしいという意味です。みんな、自分の色で生きていい、自分の好きな自分で正々堂々と生きていい。誰もが平等である、と。
おしゃれだって勧めています。『華厳経』という経典には、「ボロでは人は話を聞かないだろう。優れた高徳は優れた容姿があってこそ」という一説もあります。観音菩薩をじっくり見るとわかりますが、きらびやかな衣を身にまとい、冠やピアスなどの装飾品も身に着けていることが多いのです。
自分に正直に生きる、セクシュアリティに関係なくみんな平等、おしゃれは大切――。まさか、子どもの頃から身近にあった仏教が私をずっと応援してくれていたとは! ずっと毛嫌いしてたのに、ちょっと悔しい!(笑)
――留学をきっかけに「自分らしさ」を解放し、人生が色づき出したと語る宏堂さん。自分と向き合い続け、そして仏教の教えを学んだ宏堂さんだからこそ辿り着いた「美しさ」「美しい人」とは?今日から誰もが意識したい、美しく生きるヒントがそこにあった。
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