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- 辰巳渚さん「今の人生でいい?迷う時こそ学び直しを」
2018年に急逝した、片付けのプロ・辰巳渚さん。「人生100年時代」は、物事の明るい面を見ることが大切と、「家事塾」を主宰。発想を転換し、新しい生き方の探り方を教えてくれる辰巳さんの言葉を伝えます。
辰巳渚さんのプロフィール
たつみ・なぎさ 1965(昭和40)年生まれ。お茶の水女子大学卒業後、出版社勤務を経て、93年に独立。「家事塾」主宰として、講座やセミナーなどで生活哲学を伝える他、2017年度から星槎(せいさ)大学にて社会人の学び直しのための「生活・地域ファシリテーター」育成プログラムの講師も務めた。130万部の大ベストセラーとなった『「捨てる!」技術』(宝島社新書)の他、著書多数。2018年6月にバイクの事故で急逝。
現在も「一般社団法人 辰巳渚の家事塾」では、辰巳渚さんの哲学を伝える活動を続けています。日常をよりよく生きる生活哲学を身につけ、人の困りごとの解決につなげる人材「家事セラピスト」を育成しています。「捨てる!技術」をはじめ辰巳渚の哲学を学ぶ「家事セラピスト養成講座」を開催中!
辰巳渚(たつみ・なぎさ)さんの人生と「家事塾」
※本記事は、2018年に辰巳渚さんに取材し作成した記事を再掲載しています。
「人生100年時代」といわれるこれからの生き方について、ご一緒に考えていきましょう。これまで片付けについて解説してきた私が、なぜ生き方についてお話しするのか。まずはその経緯から簡単に始めたいと思います。
普段私は、自身で運営している「家事塾」で、自分や家族の生活を整えられる人や、その経験を生かして、地域や社会の問題を解決できる人材を育成しています。これには、私の生活からの気付きが深く関わっています。
私は子ども時代を、東京郊外の新興住宅地で過ごしました。血縁も地縁もない場所で、母は女手一つで、私を一生懸命育ててくれました。ですが、私は大人になってから、つくづく自分には、生活の知恵がないと思う事態に直面しました。
一人暮らしをすれば、毎日の料理がうまく作れない。結婚して子どもを産めば、夜泣きに悩まされる――。誰にも相談できずにいましたが、あるとき、これは私だけの問題ではなく、社会全体が抱えている問題なのではないか、と気付いたのです。
例えば、行政の子育てサークルなど、今の社会にはさまざまな支援が存在しますが、それに辿りつけない人もいます。もっと気軽に、「子どもが泣きやまなくって」と相談できる人や場が、今の社会にはないのでは……。
そんな思いから「家事塾」を作り、さらに2017年度からは、大学で地域の課題を解決する人材育成プログラムを開講しています。このプログラムでは、これからどう生きて、自分をどう社会に役立てていくかを考えます。
「人生100年時代」は、物事の明るい面を見ることが大切
さて、みなさんは「人生100年時代」という言葉を聞いたことはありましたか? ニュースやCMなどでよく使われるようになりましたが、簡単にいえば、「長生き時代」になったということ。この言葉から、どんなイメージが浮かびますか?
老後資金が心配だ、病気になったらどうしよう……と、不安が先立つ方もいらっしゃるかもしれません。実際、100歳まで年金と蓄えで生きるには、80歳前後まで働くことが必要、という試算が出ています。また、親の世代と違い、国が私たちの面倒を最後まで見ることは不可能でしょう。
ずっと働いて自分の面倒を自分で見なくてはいけないなんて、世知辛い時代になったものだ、と思うかもしれません。ですが、私たちはつい物事の暗い面だけを見て「対処しなきゃ」と思いがちです。しかし暗い面は、必ず明るい面と表裏一体になっています。
例えば高度経済成長期は、女性の場合、学校を出たら早く結婚するのが一つの「成功」の姿でした。みんなが同じ目標を持っていたこの時代は、「どう生きたらいいか」という悩みはあっても、それ以外の選択をするには、よほどの覚悟が必要だったでしょう。
対して今は、「多様性の時代」といわれ、結婚も仕事も好きに選択できます。今は、自分の生き方に真摯に向き合えるチャンスが与えられているのです。長生き時代も、むやみに不安がるのはやめて、新しい生き方を探ってみましょう。
「ライフシフト」で、人生のステージを捉え直す
ところで以前、高校生の授業で「70歳では、何をしていそうですか?」という質問をしたことがあります。すると想像がつかないのか、「縁側で日なたぼっこする」と話す生徒も(笑)。みなさんは、70歳から100歳まで日なたぼっこして生きていきたいですか?
ここで知っていただきたいのが、今話題の、「ライフシフト」という考え方です。ロンドン・ビジネススクール教授のリンダ・グラットン氏らが提唱し、『ライフ・シフト』という本が邦訳されています。要約すると、「人生はマルチステージ化する」と言っています。
図を見てください。上は、従来の人生のステージの考え方です。20歳前後までは学びのステージ。ここで学んだことを元に、60歳前後まで「働き」ます。賃金が発生する活動だけを指すのではなく、家事や子育て、地域の活動など、生活知を駆使して「生産」する時期がこれにあたります。そして残り20年が、「余生」といわれる時間です。
下は、「人生100年時代」のステージの考え方。「働く」ステージが2回に分かれ、80歳まで延びます。この場合、たった20歳前後までの学びだけで60年間も生産し続けるのは無理なこと。自分の中にも「このままでいいの?」という思いが生まれるでしょう。そのため、途中で「学び直し」を行い、再び「働く」ステージに戻ります。
「学び直し」は何度でも、いつ行ってもいいです。子育てや介護が終わったときなど、環境の変化が後押しとなることも。次のワークで、自分の、今後の節目となりうることを書き出すと、発見があるでしょう。人生を間違わず、はみ出さず走るのではなく、何度でも走り直す。これがライフシフトの大きな観点です。
ワーク:これからの人生で起こりうることは ?
これからの自分の人生の節目になりそうなことと、そのときのポジティブ感情とネガティブ感情を想定して書いてみましょう。あえて両方の感情を書き出すことで、新しい考え方に気付くことができます。これからの人生を見通す下準備にもなります。
【記入例】
- 起こりうること
夫の定年退職 - ポジティブな感情
夫と好きなところに行ける - ネガティブな感情
年金生活になって不安だ
これまでの人生経験がすべて武器になる
わざわざ「学び直し」と銘打たなくても、しなやかにいろいろなことに挑戦してきた方もいらっしゃるでしょう。私自身も、常に新しい仕事に取り組んできてはいますが、不思議なことに、ただ目の前の現実に対応しているだけでは、先に行けなくなるときが来るのですね。
私の場合は、50歳を前に行き詰まりを感じ、2年間、通信制大学でこれまで関わってきた「家事」について、改めて学びました。マラソンだって、途中で水分を補給しなくては走り切れないように、人生も長くなれば長くなるほど、一度立ち止まって、また走り出すための栄養補給が必要なのです。
「学び直し」を行うなら、社会人向けにプログラム化されたものや、リカレント教育(OECDが推奨する、生涯にわたって教育と就労を交互に行うこと)課程などを受講する方が望ましいですが、もちろん、仕事をして、そこから学ぶ手もあります。ただし、趣味のようなことではなく、これから自分ができること、やるべきことを探っていきましょう。
つまり、「学び直し」に向かう前に、これまでの自分を知ることがとても重要になります。「今まで何をしてきたか」「どんなことが得意なのか」「自分らしさとは何なのか」など、自分を「棚卸し」して、自分の「武器」に気付きます。家事、子育て、仕事、PTA活動など、これまでの人生経験や生活知すべてが、あなたの武器です。それを元に、自分を生かせることを見つけるのです。
「ライフシフト」自体が、これからの生き方の正解ではありません。ですが、自分の中の「今のままでいいのかしら」という思いに気付いたなら、自分の「棚卸し」は必ず意義があります。次回、一緒に行っていきましょう。
取材・文=田渕あゆみ ※この記事は「ハルメク」2018年6月号掲載「こころのはなし」を再編集しています。
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