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- 告知後始まった「術前抗がん剤」投与の治療と副作用
50代で乳がんを告知され、いよいよ治療に入ることになった私。針生検を受け、がんの存在を確認した途端、それまで見た目にまったく変化のなかった私の胸に、いきなり病変が現れました。
見習うべきは立ち向かう強さ、不必要な情報に振り回されないこと
いきなり現れた病変。「見つかったからには暴れてやるぞ」という、がんからの挑戦状のように感じました。それは2017年の夏、アナウンサーの小林麻央さんが亡くなって間もない時期でした。
麻央さんががんばったことに励まされるとか、このような治療がいいとか、これがよくなかったとか……。何を信じたらいいのだろうと思うくらい、巷には乳がんに対する情報が溢れていました。私は麻央さんに関する情報は見ないことにしました。
また、同じ時期に地元TV局の同世代のアナウンサーの方が、自分の手術の様子などをオンエアされたときにも話題になりました。また、アイドルグループの方の罹患(りかん)と闘病も番組になりましたが、それもあえて視聴しませんでした。
自分を取り巻くあまりにも多くの情報に、自分に必要な正しい情報はどれなのか、冷静に判断できなくなることが怖いと感じていたためです。
ひと言で乳がんといっても、人それぞれでタイプや進行状況、病状はさまざま。その人自身の体質も関係し、まったく同じではないことに気が付きました。見習うべきは立ち向かう強さであって、他の方の症状や結果に惑わされ、それを自分にあてはめて余計な心配をしないことが大切だと思いました。
抗がん剤投与で通った化学療法室
私の治療は分子標的治療薬ハーセプチン(トラスツズマブ:分子標的治療薬はがんにだけ反応する比較的副作用の少ないお薬)とパクリタキセルの点滴。AC療法(アドリアマイシンとシクロホスファミド)点滴の併用でした。
抗がん剤投与は第1回の一泊入院からスタートし、その後は毎週1回化学療法室に通うことに。化学療法室は、患者のプライバシーに配慮がされており、一人一人がゆったり治療を受けられるようになっていました。私の通院先では、各席にTVが設置されイヤホンをつければ、好きなTV番組を見られる可動式のチェアーベッドでした。
抗がん剤の中にはアルコール製剤があります。私はアルコールに弱いので、消毒も非アルコールのものを使ってもらい、点滴後はしばらく化学療法室で休ませてもらっていました。コロナ以前でしたから、お弁当や飲み物なども持ち込みOKで、午前中の外来診察・採血検査の後、ここで点滴治療を受けながら昼食を取り、休んだ後帰宅するのが毎週火曜日の日課となりました。
化学療法室ではコロナの感染防止対策のような、長いビニールのエプロンやフェイスシールドを付けた看護師さんから点滴の処置をされました。「高価なお薬ですから大切に扱っています」とおっしゃっていましたが、今になって思えば点滴が漏れたりしたときに、看護師さんにかからないための予防策であったと理解できます。
抗がん剤はがんとともに良い組織までどんどん壊していく薬です。それは後に自分に起きた数々の副作用からも感じることでした。回数を増すごとに点滴針を刺せる血管がなくなってきて、手の甲に浮き出た血管にも点滴針を刺しました。痣だらけになった痛い腕を見つめながら、健康だった体ががんと抗がん剤の両方に蝕まれていくのを感じました。
つらい副作用だけど笑いに変えて病気を楽しむ
髪がすべて抜けました。覚悟はしていましたが、やはりショックでした。まるでハリーポッターに登場するヴォルデモート卿のような姿だと思いました。娘が「これが本当の医療用脱毛だね」と笑わせてくれましたが、うぶ毛までなくなって本当に全身つるつるになりました。髪やまつ毛、まゆ毛がないと汗がダイレクトに目に入って痛いものでした。
ウイッグを買いました。医療用ウイッグは人毛でできていて自然に見えますが、かなり高価(5~20万円)です。後に知りましたが、インターネットで安く買える人造毛やナイロン繊維のもの(3千円~2万円)もあり、帽子を合わせてうまく使えば不自然さをごまかせました。医療用ウイッグは、市町村によって補助金制度もあるようです。
髪がないのはつらいけど「治療が終われば必ず生えてくるよ」という言葉を信じ、普段できない髪型のウイッグをつけてみたりして楽しむ方向に気持ちを向けました。前髪付き帽子なんていうのもあります。帽子もいろいろ買いました。
手足の爪が変色し、足の爪が変形しました。がんだと知らない人から「爪どうしたの?」といわれるようになったので、爪のケアをして、手の爪は好きな色のネイルを塗ったりシールを貼ったりして、楽しむことにしました。
指先が痺れてペットボトルのキャップも開けられませんし、投薬された錠剤(PTP包装シート)を押し出す力さえなくなりました。教科書をめくることができないし、鉛筆を持って字を書くにも不自由しました。残存機能を使ってどうすればうまくできるのか色々考えました。大学の課題レポート作成には、スマートフォンの音声入力で文章を入力し、Wordに貼り付けてから編集するという方法を使いました。スマートフォンやパソコンの存在が有り難かったです。
がんになったら痩せると思い込んでいましたので、吐き気止めのステロイド剤の副作用で食欲が増して太るなんて思ってもいませんでした。ボタンも指先が痺れていれば掛けられませんし、足の痺れとむくみで歩くこともままならなくなってきて、靴も幅3Eサイズのローファーしか履けません。どんどん着る物がなくなり、おしゃれから遠ざかっていきました。
ここから何を学ぶべきか……病は人生を豊かにする
そんなときも子どもたちが、楽しめるようにとあれこれ気遣ってくれて、買い物に連れ出してくれたこと。大学のスクーリングの送り迎えをしてくれたこと。一緒に病気を楽しもうとしてくれたことがうれしかったです。
好き好んで体験できることではないですから、病をも楽しむという方向性を持って、これは私に何を学べということなのかなという受け止め方で見てみると、色々な発見があり意外と楽しいものでした。
私より少し前に、乳がんの治療をされた知人から「病は人生を豊かにするね」といわれましたが、本当にその通りでした。
次回は、翌年(2018年)3月の手術のこと、がん治療費と社会保険での医療費補助に助けられたことなどをお伝えしたいと思っています。
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