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- 乳がん告知を受け、なんとしてもまだ生きたいとの思い
56歳で念願の大学入学を果たし、今年(2021年)3月無事卒業式を迎えた 、あ・らかん です。意気揚々と大学生生活が始まった4年前の夏に乳がんの告知を受けました。そのとき、私がどうがんに向き合ったかをお伝えします。
乳がんの告知を受けたときの気持ち
卒業式当日、宝塚歌劇団の卒業式姿と同じ黒の五つ紋付きに濃緑袴を着付けました。ずっと憧れていた卒業式の袴姿です。
思い起こせば、がんの告知を受け、闘病生活が始まり、術後はコロナ禍のなかで実習や国家試験があり、本当に大変な4年間の大学生活でした。
念願の大学入学を果たし、意気揚々と大学生生活が始まった4年前の夏(2017年8月)に乳がんの告知を受けました。左乳房の浸潤(しんじゅん)性乳がんでした。
医師からは「HER2タイプといって進行が早く、あまりよくない方ですね……」と言われ、HER2タイプの説明と治療についてのお話をうかがいました。
「標準治療として基本的に左乳房の全摘手術と術前・術後の抗がん剤治療になります」との説明を受けました。
「全摘」。ショックを受けたのは当然のことですが、まさか全摘なんて……。言葉を無くすってこういうことなのかと思いました。
希望が持てたのは、「ただ、このタイプにはとても効果の高い良い薬ができて、他のタイプより治癒率が上がっているので、最近では『こちらの方が治りやすいから、このタイプのがんでよかったですね』と言うドクターもいるほどですよ」との主治医の話でした。
自分の中で、「あぁ。やはり」という絶望感と、「見つかってよかった」という安堵感が交錯しましたが、それよりももっと感じたのは、「罹患したのが娘ではなく、自分でよかった」と思いでした。
「セカンドオピニオンをしてもいいですよ」と言われる主治医に対して「すぐ治療を始めて下さい」と即座に言い切る自分がいました。
娘はあとで「取り乱すかと思っていたけど案外冷静だったね」と言っていましたが、今になって考えてみると、患者の椅子に座っているのが娘ではないことに安堵する気持ちが、冷静さを保たせていたように思います。
セカンドオピニオンってよく聞く言葉ですが、もう一度別の病院で検査をして結果を見直すということではなくて、受けた検査結果などの情報を提供してもらい、別の病院にかかり、その情報を元に別の医師の診断を受けて意見を聞くということなのですね。
画像や血液等の検査結果を説明された結果、主治医の下した診断に迷いや不信感はまったくありませんでした。そしてセカンドオピニオンを受けるには、ここからまた何日も過ぎてしまいます。「何より生きるために少しでも早く治療を始めるべきだ」という思いが先にたっていました。
私のケースは浸潤性(乳腺の中だけでなく外側にがん組織が増殖している状態)のため、術前の抗がん剤投与で、がんをリンパに飛ばないようにして、なるべく小さくしてから、全摘手術をするのがベストだという結論でした。
私自身は、「抗がん剤で小さくしたら部分切除ですむのかな」と希望的に思っていたのですが、浸潤性ですので全摘は免れないとのことでした。
「手術まで少し時間があるので、どこの病院で、どんな手術にしたいかをゆっくり考えたらいいですよ」という主治医の言葉に「先生が執刀して下さらないのですか?」と問うと、「まだ若いし再建したいでしょう?」「再建術をするのならそれに適した切り方がありますが、ここの病院では再建術ができません。再建を希望するなら、再建術のできる病院で摘出手術もした方がいいです」との返事でした。
つらい告知のなかで、50代半ばを過ぎた私に「まだ若いから」と言って下さった医師の言葉に救われた思いでした。
どんなことがあっても死ねないとの思い
私は幼い頃、実母と生き別れており、自分の出産の折にとてもつらい思いをしました。女児を授かりましたので、日頃から「この子が結婚して出産するまでは(産前・産後の世話をするまでは)、どんなことがあっても死ねない」との思いがありました。
仕事を休んで病院に同席してくれた娘と、初回投与のための入院予約を済ませて帰宅し、「連絡しなければならない人って誰かな?」と考えてみましたが、娘・息子・当時お付き合いしていた現在の夫しか思いつきませんでした。いざとなると本当に頼りになる人、頼りたいと思う相手ってそんなに多くはいないものだと実感しました。
元々縁の薄かった親兄弟や親戚とは、離婚をしたことでますます疎遠になっていました。がんになったと連絡すれば、治療費や生活費の無心がしたいのかと継母に思われ、痛くもない腹を探られるのは目に見えていました。病気を受け止めることで精一杯の自分が、精神的にこれ以上疲れてしまうのはつまらないと思い、連絡はしませんでした。
病気すらもポジティブに捉える原動力とは
本音を言えば、職場には隠しておきたいと思いましたが、頭の片隅に「これを理由にブラックな職場を円満に退職できるかも」との思いもありました。翌日、上司に診断書のコピーを渡し、有給休暇の申請を出しました。そして円満退職どころか、ひょっとしたらこのまま出勤できなくなる可能性もあることに気が付きました。
それも視野に入れて、入院までの10日間に一番重要な請求関連の仕事を仕上げ、私物を少しずつ持ち帰り、ひっそりと引き継ぎ帳を作って、引き出しのわかりやすいところに入れました。明日は入院という日に、職場のキッチンや自席の掃除を済ませ、心の中で職場にお別れをして、定時に退社しました。
「これからどうなるのだろう、治療がうまく進むのだろうか?」
「死ぬ可能性もある? 生活費は? 治療費は?」
私自身ががんになるなんて思ってもいなくて、保険は自分が掛け金を払っている小さな医療保険だけしかありません。離婚したときに相手方にすべて解約されてしまっていました。
電車の窓から見える風景、周りにある何を見ても見納めになるかもという思いになりました。そんな気持ちで見ると、通勤途中の道端に咲く野の花の生命力にすら感動して、涙がこみ上げてきました。
それでも「なんとしてでも生きたい」と思ったのは、やっと自分の人生をやり直せると思ったところだったからです。
大学卒業をはじめとして、娘のお産の世話など、やり残したことがまだまだたくさんあって、やりきるまでは死ねない、死ぬことはできないとの思いが強くありました。この思いが、病気すらもポジティブに捉える原動力になりました。
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