身長・遺伝・肥満も影響する?注意したい生活習慣も

乳がんになりやすい人の特徴┃胸の大きさは関係ある?

沢岻 美奈子
監修者
沢岻美奈子 女性医療クリニック
沢岻 美奈子

公開日:2024.02.22

女性のがんで最も罹患数の多い「乳がん」になりやすい人って?胸の大きさは関係ある?遺伝的な影響、女性ホルモン、身長、肥満や糖尿病など、リスクに影響する要因を詳しく解説。検査時に注意したい「デンスブレスト(高濃度乳腺)」についても紹介します。

乳がんとは?どこにできる?

乳がんは「乳腺組織」にできるがんです。

乳房には母乳を作る「小葉」という組織と、小葉で作られた母乳を乳頭へ運ぶ「乳管」があります。乳がんは乳管にできるケースが多く、約90%を占めます(乳管がん)。5〜10%は小葉にできることもあり、小葉がんと呼ばれます。

乳がんは日本人女性がかかるがんの中でもトップで、最近の乳がん罹患率は8人から9人に一人と言われています。

一方、肺がんや大腸がんに比べると進行がゆっくりで、生存率はかなり高いがんでもあります。早期発見し、適切な治療を受けることが大切です。

乳がん治療の基本はがんの切除と、抗がん剤などの薬物療法と放射線療法です。

しかし、早期に発見できれば「ラジオ波熱焼灼療法」や「凍結療法」といった切らない方法でも治療ができます。

乳がんになりやすい人の特徴は?

乳がんになりやすい人の特徴は?

乳がんになりやすい人には、いくつかの特徴があるといわれています。ここからは、乳がんになりやすい人の特徴について解説します。

なお、これらの特徴に当てはまらないからといって、乳がんのリスクがゼロになるわけではありません。乳がんは早期発見が重要となるため、定期的に検査を受けることが大切です。

家族に乳がん・卵巣がんの人がいる(遺伝によるもの)

日本で乳がんを発症する年間約9万人のうち、5〜10%は遺伝が大きく関係している「遺伝性乳がん」だといわれています。

そのうちの58%を占めるのが「遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC:Hereditary Breast and Ovarian Cancer)」です。

がん抑制遺伝子である「BRCA1」や「BRCA2」に変異が見られる人の発症率が非常に高く、HBOCの人は乳がんだけでなく、卵巣がんを発症する確率が高くなります。

これらの遺伝子に変異があるかどうかは「遺伝子検査」によって調べることが可能です。

過去に、アメリカの女優であるアンジェリーナ・ジョリーさんが両乳房、両側の卵巣・卵管を切除する手術を受けたことが世界的に大きく報道されましたが、これは遺伝的に乳がん・卵巣がんになる確率が高いことがわかったからだといいます。

アンジェリーナ・ジョリーさんの場合、母親が乳がんと卵巣がんで亡くなり、母方の祖母も卵巣がんで亡くなっていました。

そこで遺伝子検査を受けたところ、将来的に乳がんになる確率が87%、卵巣がんは50%といわれたことから、手術に踏み切ったといいます。

遺伝子検査はこれまでは全額自己負担でしたが、2020年4月からは要件を満たせば保険が適用されるようになりました。

30代以降

日本人の乳がん罹患率は、20代後半から徐々に高くなり、30代以降は大きく増加し始めます。

40代後半〜60代が発症のピークで、70代以降で発症するケースも少なくありません。近年はライフスタイルの欧米化に伴い、閉経後の乳がんが増えているといいます。

生理の開始年齢が早い、閉経年齢が遅い

乳がんには、女性ホルモンの「エストロゲン」が深く関係しています。体内でエストロゲンが分泌されている期間が長くなるほど、乳がんのリスクが高くなるといわれています。

生理の開始年齢が早いもしくは閉経年齢が遅い人は、エストロゲンが分泌されている期間が長くなるため、乳がんのリスクが高くなる傾向にあります。

出産・授乳経験がない

乳がんは女性ホルモン「エストロゲン」と深い関連がありますが、妊娠・出産や授乳時にはエストロゲンに変化が起こります。

出産や授乳経験がない人はエストロゲンの影響を長期間受けることになるため、乳がんのリスクが高まると考えられています。

ピル(経口避妊薬)やホルモン補充療法の長期使用

エストロゲンとプロゲステロンの二つのホルモンを含んでいる低用量ピルは、乳がんリスクを上げるという報告もあれば、上がらないという報告もあり見解は一致していないのが現状です。

しかし、低用量ピルは月経痛や月経前症候群の治療で多く使われており、卵巣がんの発症を減らすと言われています。

最近増えている月経痛の原因である子宮内膜症の進行を抑えることと関係がありそうです。

マンモグラフィー検査や乳腺超音波検査といった比較的分かりやすい検診方法がある乳がんと異なり、卵巣がんは早期発見が難しい病気で見つかった時にはすでに進行癌だったという方が多いのです。

ピルの処方を受けるために病院に定期的に通院して、定期的な卵巣の超音波検査を受けていたので早く見つかったというケースもあります。

更年期世代の治療であるホルモン補充療法でもエストロゲンとプロゲステロンの両方を使いますが、乳がんとの関係があるのはプロゲステロンの方だと分かっています。

プロゲステロンはホルモン補充療法による副作用の子宮体癌の予防のために使うので、すでに手術で子宮を摘出した方はプロゲステロンを使う必要はなくエストロゲン単独の治療になります。

エストロゲンには内服薬と塗ったり貼ったりする貼付薬があり、より負担の少ない貼付薬では乳がんのリスクは全く増えません。

プロゲステロンにも最近は天然型のタイプが国内でも使えるようになり、ホルモン補充療法をしていても、していない方と乳がんのリスクは全く変わらないと分かっています。

どの年代で、どのようなホルモン量で、どのような使い方をするかでリスクは異なりますのでかかりつけのホルモン補充療法に詳しい医師への相談をお勧めします。

飲酒習慣・喫煙習慣がある

喫煙(受動喫煙も含む)や飲酒は、乳がんのリスクを高める要因の一つです。

国立研究開発法人 国立がん研究センターの『喫煙・受動喫煙と乳がん発生率との関係について』によれば、タバコを吸ったことがなく受動喫煙もないグループのリスクを1とした場合、タバコを吸うグループでは乳がんリスクが1.9になったといいます。

飲酒もこれまでのさまざまな研究から乳がんのリスクを高めることがわかっており、飲酒頻度・飲酒量が多くなるほど閉経前乳がんリスクが高くなります。

肥満

さまざまな研究から、肥満も乳がんのリスクを高めるといわれています。

肥満の人は脂肪細胞が多くなりますが、脂肪組織にある酵素はエストロゲンの産生に関わっていると考えられ、これが乳がんリスク上昇に影響しています。

肥満は乳がんだけでなくさまざまな生活習慣病のリスクを高める要因となるため、注意が必要です。

座っている時間を減らし、身体活動を増やすと乳がんのリスクが低下する可能性が高いという海外の研究結果があり、肥満防止のためにも積極的に運動するのがおすすめです。

糖尿病

糖尿病の人は、高血糖や高インスリン血症の影響により、さまざまながんを発症するリスクが高まるといわれています。

乳がんもそのひとつで、さらに糖尿病は乳がんの予後にも影響を及ぼす可能性があると指摘されています。

デンスブレスト(高濃度乳腺)

「デンスブレスト(高濃度乳腺)」とは、乳腺の多い乳房のことです。日本人などアジア人に多いとされ、日本人の40代女性の6割はデンスブレストと言われています。

通常、年齢とともに乳腺は脂肪に変わっていくため、年を重ねることで高濃度乳腺でなくなる人が多いです。

しかし、未婚の人が増えて出産回数も減っている背景もあり、閉経後でも高濃度乳房のままの方も少なくはありません。

デンスブレストのままだと乳がん発症率がやや高くなる可能性があるといいます。

また、デンスブレストの場合、マンモグラフィで乳がんを見つけにくくなるため注意が必要です。

マンモグラフィでは脂肪は黒く、腫瘍は白く写るようになっていますが、乳腺が密集していると全体的に白く写るため、乳腺に腫瘍が隠れて見えない可能性があります。

アメリカでは検診時に乳腺濃度を通知する義務がありますが、日本ではまだ義務化されておらず、施設や自治体ごとに方針が異なります。

そのため、マンモグラフィの検査時は「私はデンスブレストですか?」と確認するようにしましょう。もしもデンスブレストだった場合は、マンモグラフィだけでなく超音波検査(エコー検査)も受けると安心です。

乳がんのなりやすさと胸の大きさは関係あるの?

乳がんのなりやすさと胸の大きさは関係あるの?

「おっぱいが大きいと乳がんになりやすいと聞いたことがある」という人もいるかもしれません。

しかし、胸が大きい・小さいなど、胸の大きさと乳がんの発症の因果関係は認められていません。

乳がんは乳腺の組織にできるがんのため、乳腺があれば乳がんが発症する可能性があります。乳房の大きさと乳腺の量は比例せず、大きいから乳腺が多く、小さいから乳腺が少ないということではないのです。

ただし、「胸が大きいとセルフチェックのときにしこりが見つかりにくい」可能性は考えられます。

セルフチェックの際は見逃しがないよう丁寧に行い、合わせてしっかり定期検診を受けることが大切です。

左右の乳房の大きさが違う場合は?

乳房の大きさの左右差は、健康な女性にもよく見られるものです。乳腺の発達、筋肉や脂肪の付き方によって左右差が起こることは少なくありません。

しかし、片方の乳房の大きさが急激に変化した場合や、極端な差がある場合は何らかの病気の可能性もあるため、早めに病院を受診して詳しい検査をするといいでしょう。

身長が高いと乳がんになりやすい?

一見関連のなさそうな身長と乳がんですが、近年「身長が高い女性は乳がんになりやすい」という研究結果が発表されています。

国立研究開発法人・国立がん研究センターの岩崎基さんによる2007年の報告では、日本人と対象とした研究で、「身長160cm以上のグループは、148cm以下のグループに比べて、閉経前で1.5倍、閉経後で2.4倍、乳がんのリスクが高い」という結果が出ました。

欧米の研究ではJane Greenさんらが2011年、英国の医学雑誌『Lancet Oncology』に「女性の身長が10cm高くなるごとに乳がん・子宮体部がん・卵巣がん・結腸がん・直腸がんなど、がんのリスクが約16%上昇する」と発表しています。

身長が高いとなぜがんになりやすい傾向にあるのか、はっきりと要因はわかっていませんが、成長ホルモンや性ホルモンが乳がんに関与すると考えられています。

乳がんのセルフチェック方法

乳がんは病院での「触診・視診」「マンモグラフィ」「超音波検査」などの定期的な検査に加えて、セルフチェックも行いましょう。

乳がんができる部位で最も多いのは「乳房外側の脇の下に近い部分」、その次に「乳房上部の内側」といわれています。

以下の方法でチェックしてみましょう。

  1. 鏡の前で「変形」「左右差」「くぼみ」「ひきつれ」「乳首のただれ・分泌物」「赤く腫れた部分はないか」をチェックする
  2. 立ったまま乳房を触り、うずを描くようにしながら指の腹で「しこり」がないかチェック
  3. 仰向けになり、外側(脇の下)から内側へ指を滑らせて「しこり」がないかチェック

乳がんは早期発見が大切。定期検診とブレストアウェアネスを!

まだブレストアウェアネスという言葉に耳馴染が少ない人も多いと思います。

「セルフチェックは難しいしなかなか習慣化できない。」「セルフチェックで本当に乳がん分かるんですか?」と多くの人がおっしゃいます。

ですので「普段の生活の中で自分の乳房のちょっとした変化を気に留めましょうね」という意識で過ごしてみてください。

乳がんは早期発見が大切!定期検診・セルフチェックを

乳がんは女性にとって一番身近ながんであり、罹患者も年々増え続けています。しかし、早期発見して適切な治療を受ければ、5年生存率や10年生存率は高いがんです。

乳がんの中には遺伝が大きく関係している「遺伝性乳がん」もあるため、乳がんや卵巣がんの家族がいる人は医師に相談の上、推奨される頻度で定期的な検査を受けましょう。

乳腺があれば、どんな人でも乳がんになるリスクがあります。今回紹介した乳がんになりやすい人の特徴に当てはまらない人も、定期的な検査を受けることが大切です。

監修者プロフィール:沢岻 美奈子さん

沢岻 美奈子さん

日本産科婦人科学会認定産婦人科専門医。神戸にある沢岻美奈子女性医療クリニックの院長。子宮がん検診や乳がん検診、骨粗鬆症検診まで女性特有の病気の早期発見のための検診を数多く行っています。更年期を中心にホルモンや漢方治療も行い、女性のヘルスリテラシー向上のために、実際の診察室の中での患者さんとのやりとりや女性医療の正しい内容をインスタグラムで毎週配信。

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