落語自由自在(76)

「渋谷らくご」立川寸志の落語基礎演習~寝床編~

公開日:2023.12.05

立川寸志の落語基礎演習は、3か月に1度のお宝公演です。今回の演目は、爆笑古典落語の名作中の名作「寝床」。初心者も落語通でさえも、これを聞けば、落語の見方が劇的に変わります。

お店物(おたなもの)の落語

授業開始のチャイムが鳴りました。

パソコンの画面が大きく映し出され、寸志さん登場です。

お店とは、売り物を並べるための棚(たな)のことで、その棚は行き交う人に見せるもの、つまり見世棚が、店となりました。

お店物の落語には「金明竹」「猫と金魚」「百年目」等があります。

店の奉公人には、番頭手代小僧がいて、表向きの御用をします。番頭は、帳簿管理・取引・渉外・人事が主な仕事で、手代は実務、小僧は商売上の雑務を引き受けます。

奥向きの御用をするのは下男下女で、食事の支度やお風呂、裁縫などを担当。噺によく登場する飯炊きの権助や、女中のお清です。大変分かりやすい説明で、惹き込まれます。

「寝床」立川寸志

ここで高座に上がります。

義太夫の会に誰も来ないと知った旦那が怒り、それなら茂造一人に聞かせると言い、困った茂造が、仲間の元に行く件で高座を降ります。長い噺なので「素人義太夫」までです。

なぜ定吉は泣いたの

ここからは、高座下であらすじを語ります。

結局、旦那の機嫌をとり、皆で義太夫を聞くことになりますが、皆飲食に夢中でやがて寝てしまい、定吉が1人泣いています。驚いた旦那はどの演目で泣いたのかと聞きます。

「あすこでござんす」

「あすこは、あたしが義太夫を語った床じゃないか」

「あすこがわたしの寝床でございます」

なぜ定吉は泣いたの

当時は、奉公人に対して書かれたルール(家法・店定目)があり、その中には寝る場所が決められている店もあって、眠ければどこでも寝られるわけではなかったのです。

いつもこの噺を聞く度に、どうして定吉が寝床にこだわったのか、不思議に思っていましたが、その謎が解けました。

人情噺「藪入り」の真実

初めての藪入りで、息子の財布を覗き見た母が大金を発見、盗んだと疑った父が激怒します。

実はペスト対策の鼠駆除の懸賞に当たったもので、サゲは「チュウ(忠)のおかげだ」となりますが、元の噺は番頭の言う事を聞いて、稚児的に可愛がられた手当、代償の金でした。

そんな金を親が喜ぶはずはなく、あんまりな噺なので、初代柳家小せん師が鼠の懸賞に改作、三代目三遊亭金馬師が継承しました。

定吉が泣く背景には、厳しい商家の家法の存在があり、過酷でみじめな生活が見え隠れします。爆笑噺の裏に、ジャ○-○のような闇の部分があったとは、今回初めて知りました。

渋谷らくご」はアーカイブが24時間と短いですが、もっと長くして落語基礎演習を多くの方に観て頂きたいと思いました。心に響く素晴らしい授業でした。

主な参考文献 

石井良助 『商人と商取引その他』自治日報社出版局
田村栄太郎『江戸時代町人の生活』雄山閣出版

人情噺「藪入り」の真実

■もっと知りたい■

さいとうひろこ

趣味は落語鑑賞・読書・刺しゅう・気功・ロングブレス・テレビ体操。健康は食事からがモットーで、AGEフードコーディネーターと薬膳コーディネーターの資格を取得。人生健康サロンとヘルスアカデミーのメンバーとなり現在も学んでいます。人生100年時代を健康に過ごす方法と読書や落語の楽しみ方をご案内します。

マイページに保存

\ この記事をみんなに伝えよう /

注目企画