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- 落語自由自在10~小さん孫弟子7人会(中)~
落語が大好きなさいとうさんが、前回に続き5代目柳家小さん孫弟子の会の様子をリポート。今回は入船亭扇辰、柳家三三のお二方をご紹介します。まるで私たちも寄席の会場にいるかのような臨場感たっぷりのリポートをお楽しみください!
「茄子娘」 入船亭扇辰
扇辰師匠、出囃子の「から傘」に乗って高座に上がった途端 「左龍さん 短いよ」と、降りたばかりの左龍師匠に、苦情を言います。マクラもなしに噺に入り、あっさり降りたので驚いたのでしょう。「そんなに短くちゃ、心の準備が出来ないよ」と嘆きます。もう少し話してくれると思っていたのでしょうね。私たちお客もそう思っていました。
「我々落語の世界には階級制度というのがありまして、前座・二つ目・真打・ご臨終」と言って笑わせます(ご臨終は師匠が付け加えただけで、実際にはありません)。
「前座は辛いですよ。前座を別名『虫けら』とも言います。とにかく楽屋にいると、師匠方に聞かれます。『お前はどこの弟子だ』『いい師匠についたね。立派な噺家になりなさいよ』なんて言う人は一人もいません」ここで笑いが起きます。
「大概は、何かしくじりはしないかと、見ているんです。失敗しようものなら、いきなりお茶をひっかけられます。なぜ、お茶をひっかけるかというと、うちでは出来ないからです。楽屋で憂さ晴らしをしているんです」。ここまでくると、もうおかしくて、客席はみんなお腹を抱えて笑っています。
「小さん師匠とは前座の終わり頃、地方での会でお供することがありました」と、ちょっと遠い目をして、懐かしむように間を置きます。
「打ち上げの宴もたけなわ、そうなると標的にされるのは前座です。主催者が師匠に聞きます。「あの前座さんはどうですか?」「あっ。あれは、扇橋のとこの弟子だ」「なことは分かっています。どうなのかって思ってね」「う~ん。明後日、理事会があって、二つ目になるんだ」
はっきりと聞こえてしまいました。お喋りだなって思いましたよ。だって、人生で一番うれしい話を、こんなところでポロッと言ってしまうんですよ。
「その翌々日、扇橋師匠から電話があって『二つ目に決まったよ』と言われましたが『ああそうですか』って言っちゃったんです。だって知っていたからね。初めて聞くなら感動もしますが、そっけなく言ったんで師匠に叱られて、とんだしくじりでした」。きれいにまとめてから、噺に入ります。
「東海道は戸塚の外れ……」と言ったので「茄子娘」と分かりました。「茄子娘」はあまり演(や)る人がいない珍しい噺です。入船亭扇橋師匠・扇辰師匠・柳家小せん師匠それに引越しの手伝いをしたお礼に扇橋師匠から教わったという三遊亭鳳楽師匠くらいです。民話調の何とも切ない夏の噺です。
山寺の和尚さんが菜園で「大きくなれよ。大きくなったら、わしの菜(食材)にしてあげよう」と茄子に話しかけながら丹精込めて育てていました。ある夏の夜、若くて美しい娘が寺を訪れます。「私は茄子の精です。あなたが妻にしてくれるというのでやってきました」。菜を妻と勘違いしたのですが、その時遠雷が聞こえます。昔から蚊帳は雷を防ぐという言い伝えがありますので、和尚は蚊帳の中へ招き入れます。
夜が明けると娘の姿はなく、和尚は悪い夢でも見たのかと思いますが、たとえ夢でも仏につかえる身、まだまだこのような夢を見るようでは修行が足りないと寺を捨て、諸国行脚雲水の旅にでます。
こんなストーリーです。
蚊帳を吊るというくだりは、懐かしいです。私たちの子どもの頃は、夏はいつも蚊帳を吊りましたからね。遠雷まで器用に描写して、クライマックスからやがて5年の歳月が経ち、和尚は村に帰ってきます。いよいよサゲです。
寺の山門まで来ると中から「おとうさま」と呼ぶ声。見ると5才位のおかっぱ頭の女の子。「もう、夕暮れ。早くお家に帰りなさい」と優しく言う和尚に「いえ、わたしは5年前に畑の茄子から生まれた子です」。
和尚はすくすくと育っている女の子を見て「ここは無住の寺、そなた、誰に育ててもらった」「一人で大きくなりました」「なに、一人で、なるほど親はなす(なく)とも子は育つ」
鮮やかでした。
「粗忽の釘」柳家三三
「今日は小さん師匠の孫弟子たちの集まりですから、みんなピュアで写真を撮ったりして、楽屋はホントに楽しいんですよ。生志兄さんなんか、『喬太郎師匠と写真撮ってもらおう。アップするとアクセス数が違うんだ』って、計算高いですね。さすがは立川流です」
ここで、いきなり生志師匠が私服で登場。三三さんびっくりして、平謝り。客席からは笑いと拍手が起こります。
茄子紺の羽織を脱ぎ始め、噺に入ります。
「粗忽の釘」でした。これは粗忽者の噺だけに、面白いけど、ちょっと随所表現がクドイところがあります。案の定少しダレてきたころ、「休みの日は落語が好きで、寄席に行くんだ」と、今までにないエピソードを挟みました。
これは三三流で、普通はこのくだりはありません。「落語はやっぱり誰のがいい?」と言ってから「やっぱり誰というより、サゲだね。親はなすとも子は育つなんて聞かされ日にゃ、膝から崩れ落ちるね」で大爆笑が起きます。
扇辰師匠はこのサゲが言いたくて、長い噺を演じているのになんてことを、と思いつつ、皆笑っています。
この後は噺の筋に戻って、大切なセリフのところで、客席からくしゃみが。
すると「えっ、今くしゃみで聞こえなかった? じゃあ、もう一度言うよ」ってアクシデントをとっさに笑いにかえるのは、さすがですね。長い釘を隣の壁に向かって打ち込んでしまい、釘がお隣に突き出てしまったため「明日からここに箒をかけにこなくちゃ」と言うお馴染のサゲに向かいます。
数か所どちらが喋ったの? って、役が混乱した場面がありましたが、そこはご愛嬌、慌て者が引っ越しでドタバタする感じが、よく出ていました。
おあと、喬太郎師匠・甚語楼師匠は次回「小さん孫弟子七人会(下)」でお楽しみいただきます。
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