落語自由自在(75)

二代目橘家文蔵 二十三回忌追善落語会

公開日:2023.10.31

二代目橘家文蔵 二十三回忌追善落語会は、急きょ開演時間を1時間早めての開催となりました。当初先代の映像は15分程度との事でしたが、全編上映となったためです。

「抜け雀」二代目橘家文蔵

渋谷ユーロライブ(映画館)のスクリーンに先代橘家文蔵師匠の秘蔵映像が映し出され、その懐かしいお顔に、もう23回忌かと思い、思わず胸がつまりました。

ご存命なら84歳、今ご健在でもおかしくないお年です。

「抜け雀」二代目橘家文蔵

文蔵師は、たくさんの噺家さんに、稽古をつけられたそうです。

ちなみに、文蔵さんが二つ目の頃「竹の水仙」を演じたところ、聴いていた審査員の三遊亭 圓生師匠が「三井の大黒」を教えるから、代わりに「竹の水仙」を教えて欲しいと頼んだそうです。

あの昭和の名人三遊亭 圓生師にそう言わせた二つ目の文蔵師は、いかにすごいかが分かります。

優しく分かりやすい語り口で、マクラの中に伏線を引き、人の良い宿の主人や、気の強い女将さんやら、横柄な態度の客を演じます。やがて無一文の客が屏風に描いた雀が評判となり、宿が大繁盛するという噺の運びの素晴らしさ、伏線も最後に回収されて、見事な一席でした。

座談

文蔵師匠ゆかりの師匠方(春風亭 一朝・林家 正雀・柳家 喬太郎・柳亭 左龍)が、トークで師匠を偲びます。

柳家小三治師や古今亭志ん朝師のここでしか聞けないエピソードまで飛び出し、大笑いでした。

「飴売り卯助」三代目橘家文蔵

座談
『無宿人別帳』 松本清張 文春文庫 

松本清張の短編集『無宿人別帳』より第9話「左の腕」を、先代の文蔵師匠が作者松本清張に許しを得て、落語化したものが「飴売り卯助」です。

師匠の残したノートと録音を基に、当代の文蔵師が再構築し、2019年暮れにネタおろしをしました。ドスの利いた演技で、文蔵師のキャラクターに合った演目です。

座談

深川の裏長屋で、子ども相手に飴売りをして、17歳の娘と二人で細々と暮らす老人卯助は、その過去をひた隠しにしています。ある日、板前の銀次が松葉屋という料理屋に、娘と二人で奉公できるという話を持ってきたことから、噺の幕開けとなります。

料理屋の女将にも気に入られ、娘は女中として、卯助は掃除や下足番として働き始め、穏やかな日々となりますが、思わぬ人物の登場から歯車が狂い始めます。

三代目は、実直な老人から、卯助の本性をドスの利いた演技で表現し、やがて卯助の正体を知り、怯える盗賊や、震える目明しの姿に、笑いを誘います。緊迫したシーンがわずかに和み、やがて卯助の独白で悲しみがじんわりと迫ります。

亡き師匠の演目を練り上げて、自分のものとしたこの一席は、今後三代目の代表作となることでしょう。私は3回聴いていますが、その度に胸に迫るものがあり、今回も秀逸な高座でした。

座談

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さいとうひろこ

趣味は落語鑑賞・読書・刺しゅう・気功・ロングブレス・テレビ体操。健康は食事からがモットーで、AGEフードコーディネーターと薬膳コーディネーターの資格を取得。人生健康サロンとヘルスアカデミーのメンバーとなり現在も学んでいます。人生100年時代を健康に過ごす方法と読書や落語の楽しみ方をご案内します。

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