50代からの夫婦関係、見つめ直して幸せ老後に#10
「死後離婚」とは?「卒婚」の法律面からみた注意点も
「死後離婚」とは?「卒婚」の法律面からみた注意点も
更新日:2024年06月02日
公開日:2021年10月04日
地味に気になる「お墓問題」には死後離婚が有効!?

※この記事は2021年6月、ハルメクのモニター組織「ハルトモ」の女性150人(50~54歳=14人、55~59歳=32人、60~64歳87人、65~69歳17人)を対象に実施した「『夫婦関係に関するインターネットアンケート」をもとに制作しています。
フリーコメントで散見されたのが
- 「お墓の管理を引き継ぎたくない」
- 「義両親、夫側の親戚との付き合いが苦しい」
という声。もちろん離婚すれば他人になるのですからその心配は解消しますが、問題は結婚を継続したまま配偶者が亡くなった場合です。
「死後離婚、と呼ばれている方法があります」と弁護士の山下さん。「『死後離婚』とはいうものの、そもそも伴侶は死んでいますからいわゆる離婚とは違います。実際は、 配偶者の親族との姻族関係を終わらせるための『姻族関係終了届』という書類を提出する行為のことを指します」。
夫が病気で急死。後には夫の親(舅・姑)の介護やお墓が残ったのみ。そもそも義理の親に対して法的な介護義務はないとはいえ、この状況から逃げたい!と思う方もいるでしょう。そのとき、「姻族関係終了届」を提出すれば義理の親子関係も解消されます。
「お墓の管理も、入りたくないお墓に入る必要も、不仲な舅・姑の介護の義務感(※同居している場合の扶助義務)もなくなります。親族から非難を浴びることはあるかもしれませんが……。とはいえ、そもそも養子縁組していない『嫁』には元々扶養義務はありません。そのため特段の事情があって裁判所から扶養義務を命じられない限り、法律の面から見ると『死後離婚』には大きなメリットがあるとは言い切れません。しかしその可能性もゼロではないため、これを回避するという点からは意味があることになります」
それに加えて、義理の親と不仲な人の場合は気持ちの面でも解放感を味わえるという一面もあるかもしれません。
死後離婚は、実際の離婚ではないため、『夫の遺産は相続できるし、遺族年金ももらい続けることができる』という面があります。遺族年金については分割ではなく満額が受け取れます。
一方で、このようなケースもあるそうです。
「逆に、夫の死後、お嫁さんと養子縁組をする舅・姑さんもいます。そうすれば、舅や姑が死んだとき、彼らの遺産をお嫁さんが受け取れるようになるからです」
義父母より先に夫が亡くなった場合、養子縁組をしないと義父母の遺産を妻が相続することはできません(孫には相続権があります)。通常ならば親が子より先に亡くなることの方が多いので、レアケースとも言えますが、夫に先立たれてしまった嫁に少しでも財産を残してやりたい、と義父母が考えた場合に法的にできる処置です。
「その代わり、養子縁組したら実子と同じ立場になります。介護などの扶養義務からも逃れることはできないので、覚えておきましょう」
「卒婚」の落とし穴? 別居と別居結婚の違いを明確に!

前回の説明では、財産分与の際には「別居開始時」が共有財産を判断する際の「基準時」になる、とお話ししました。つまり別居している妻に「内助の功」は認められなくなる、ということです。
「意外と多い「卒婚」肯定派!みんな何から始めてる?」の記事でお伝えしたように、「卒婚」希望者が意外と多いことがわかりましたが、別居状態の「卒婚」を実行する場合、どう考えたらよいのでしょうか。法的なリスクはあるのでしょうか?
「まず、財産分与の基準時となる別居開始時における『別居』とは、関係修復も見込めず、離婚を前提とした別居であって、卒婚とは違うはず。お互いにいい関係を保つために距離をとるための別居のはずですよね。なのに、その後何らかの理由で関係がこじれて正式に離婚するとなったとき、卒婚期間を一般的な『別居』にすり替えられてしまうと、財産分与の対象となる財産が減ってしまうことがあるんです」(山下さん)
どうやら「卒婚」と思って別居を始めた場合でも、「円満な関係を維持するための別居」なのか、「離婚を前提とした別居」なのか、双方の意識を明確にしておく必要がありそうです。
「まずはどんな卒婚にするのか、夫婦でよく話し合ってルールを決めること。生活費は誰が・いくら負担するのか。夫婦としての交流はどの程度持つのか、週に一度は会うのか、など。また、浮気はしない、などの取り決めも大切ですよね」
自分は浮気を許した覚えなどないのに、卒婚中に夫が他の女性に気持ちを移してしまった。別居しているのをこれ幸いと夫側から「婚姻関係はすでに破綻、もう長いこと別居していたんです」などと言われてしまっては、本末転倒。なんとか居心地良い距離を保ちつつ戸籍上の婚姻関係を維持して、いずれは遺産や遺族年金を受け取る予定だったのに、離婚につながってしまっては困ります。
「それを回避するには、卒婚するにあたっての取り決めを文書にしておくのが一番。それが難しいなら、メールのやり取りでも何でもいいんです。これは離婚を前提とした別居ではない、ということを証明する手立てになります。あとは、月に一度でもいいから、夫婦らしい交流を持ち、そのことをSNSなどに記録しておくとか。離れていても円満な夫婦だった、ということを証明し続けることです」
法的には、別居中も生活費はもらえる

そして卒婚であれ、離婚前提の別居であれ、大切なのは別居中の生活費です。
「何より困るのは、別居している夫が経済的に何もしてくれない、という場合。生活費のことを法律用語では婚姻費用、略して婚費(こんぴ)と呼ぶのですが、別居中でも夫に対して婚費の分担請求をすることができます。ただ、気を付けないと離婚してしまったら、婚費の請求はできなくなります。また、現在の家庭裁判所での事例では、支払いを開始してもらう時期は「調整申し立て時」とされることが多いので、申立てが遅れるともらえる金額が減ることになりかねません。一時の感情に流されず、まずは制度を理解して、手順を踏んで、自分の生活の安定を勝ち取ってから離婚すべきです」(山下さん)
どんな理由で別居することになっても、生活費はとても大切なもの。家庭裁判所の調停では一般的に『離婚や別居に至った理由については、お互いの言い分が食い違うなどして長引く場合もあるので、離婚の話し合いは後にして、先に生活費のことを決めましょう』という展開になることが多いです」。
生活費の支払いはとても大事なので、いったん調停や審判で決まった場合は、強制執行も可能なのだそう。
「夫の収入や家族構成、子どもの年齢などを考慮して、別居中の妻に支払うべき生活費を算出します。夫がそれを支払うように、裁判所で取り決めをするのです。それでも夫がそれを無視して支払わない場合は、強制執行(夫の給与の差押えなど)も可能なんです(※)」
(※例外的な場合として、妻が浮気をした挙句、子どもを連れて他の男性のところへ逃げ、一緒に暮らし始めた、などの場合は婚費は認められず、子どもの養育費相当額のみが夫の支払い義務となることもあります)
結婚継続か・離婚か・卒婚か。どんな道を選ぶにせよ、経済的安定と基本的な権利を理解しておくことは、とても大切なことです。
申請や請求をすればもらえるお金や権利も、知らなければ受け取ることはできません。
「前回の『熟年離婚での財産分与はどうなる?退職金はもらえるか』でもお伝えしましたが、離婚を考えるなら、自分の状況を見つめて、資産状況を調べること。時間をかけて考え、調べ、準備しておくことは決して無駄ではありません。心変わりして離婚を取り止めにしても、何ら不都合はありませんし、きちんと知って備えることで、離婚への踏ん切りがつくこともあるんです」
悩ましいときや誰かに相談したいときは一人で抱え込まずに、弁護士などプロに相談しましょう。
山下環さんのプロフィール

やました・たまき 弁護士・離婚カウンセラー。山下環法律事務所所長。1999年、旧司法試験に合格。2016年から2020年まで、東京地方裁判所非常勤裁判官(民事調停官)を務める。NHK「あさイチ」に離婚事件に詳しい弁護士として出演するなど離婚事件を多数扱っている。監修著書に『本当に必要なことがよくわかる 最新 離婚の準備・手続き・進め方のすべて』(岡野あつこ著・幻冬舎)がある。
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