50代からの夫婦関係、見つめ直して幸せ老後に#9

熟年離婚での財産分与はどうなる?退職金はもらえるか

熟年離婚での財産分与はどうなる?退職金はもらえるか

更新日:2021年10月21日

公開日:2021年10月02日

熟年離婚での財産分与はどうなる?退職金はもらえるか

弁護士の山下環さんに、長年連れ添った「妻」にはどんな権利があるのか、熟年離婚のキホンについて教えてもらう全3回。第2回目は、離婚時に最大の争点となる「財産分与」について教えてもらいました。退職金、年金の分割にも踏み込みます。

夫名義のものも対象に!財産分与の基本

夫名義のものも対象に!財産分与の基本

 「土地も家も貯金もほとんどが夫名義。自分の口座にはパート代と年金しかないし……」と熟年離婚を諦めてしまう人がいます。でも、ちょっと待って! 弁護士の山下環(やました・たまき)さんによれば、財産分与の対象が実は広いようです。

「法律では、婚姻期間中に得た財産は夫婦が協働で築いたもの=共有財産とみなします。離婚する際には、妻にも共有財産の分与を受ける権利があるのです。仮にずっと専業主婦だったとしても、夫が働いてお金を稼げるのは、妻の内助の功あってのこと。この内助の功が法的に認められていて、男女関係なく、<稼ぐ人:支える人は対等>で、原則として1:1なのです」

そのため、たとえ夫名義の財産でも、結婚後に二人で築き、得たものであれば、「共有財産」とみなされて、財産分与の対象となるのです。具体的には、下記のものがあります。

財産分与の対象となるもの

  • 不動産
  • 預貯金
  • 有価証券や投資
  • 保険(解約返戻金)
  • 動産(車や貴金属・美術作品などで査定が付くもの)
  • 夫がもらう予定の退職金

などが対象になります。反対に、財産分与の対象にならないものもあります。

財産分与の対象にならないもの

  • 婚姻前から持っていた財産(例:独身時代の預貯金)
  • 婚姻中であっても夫婦の協力とは無関係に取得した財産(例:実家の相続財産)
  • 離婚前であっても、「別居後」に取得された財産

財産分与の対象が「家」の場合どうなる?

 


例えば、家を分ける場合。基本的な分け方を山下さんが解説してくれました。 

例1:5000万円の売却額、ローン残債1000万円の家を分割する場合

  •  家の売却金額=5000万円
  •  ローンの残債(別居を開始した時点の残債額)=1000万円
  •  売却金からローンを引いた清算額=4000万円

これを夫婦で等分すると、夫婦双方が2000万円ずつになります。

しかし、家を購入する際、どちらか(あるいはその実家)が頭金を出していた場合、計算が変わります。妻の実家が出した頭金を500万円として計算すると次のようになります(購入金額と売却価格が同じ場合)。

例2:妻の実家が頭金500万円出していた場合

  •  家の売却金額=5000万円
  •  ローンの残債(別居を開始した時点の残債額)=1000万円
  •  妻の実家が出した頭金=500万円

売却金からローンと、さらに妻側が出した頭金を引いた精算額=3500万円。これを夫婦で等分すると、夫婦双方が1750万円ずつ。妻の実家が出した500万円は妻側がもらう(妻は合計2250万円)。

「もし夫が独身時代に買った家で、途中から夫婦で暮らした場合には、独身時代に夫が払ったローン分は頭金と同じ扱いで差し引かれます。元々の土地が夫が相続した財産で、建物のみが共有財産の場合もありますし、結婚後の財産形成は事情が複雑であることが多い。なので、実際いくらもらえるかについては、弁護士など、プロの手を借りて、きちんと計算しないと確定できないこともあります」(山下さん)

家を手放すことなく自分(妻)が住み続けたい、という場合には、上記のような計算をして、相当額を夫に支払う必要があります(この場合は売却を想定した査定額で算出)。

例2の場合なら、1750万円を夫に支払い、自分(妻)は残りのローンを支払いながら、査定額5000万円の家に住み続ける、ということになります。ただし、ローンの借り換えができるか、などクリアすべき問題もあります。

「退職金」の財産分与はどうなる?

「退職金」の財産分与はどうなる?

「退職金も同様の考え方をします。仮に退職金が1000万円だとして、夫は勤続35年。そのうち20年間が結婚生活だったとすると、その20年分の相当額が財産分与の対象となり得ます。

しかし1000万円のうち、いくらが20年分に相当するのか、法律に規定があるわけではないので、単純に35分の20と考えるのか、別居時に退職したと仮定して金額を算出するのか、話し合いで決めるのか。ケースバイケースになります。もっとも、会社の就業規則に退職金の規定があるか、退職までの残年数など、いくつかの要件を満たす必要があるとされることが多いため、残念ながら対象にならない場合もあります」(山下さん)

財産分与について、他にも押さえておきたい注意点がありますので、まとめてみましょう。

離婚の財産分与のポイント

離婚の財産分与のポイント

1.財産分与の対象になるのは、結婚してから別居するまでの間に築いた共有財産である
離婚に向けて別居を開始すると、その時点を「内助の功が途切れる基準」とみなします。そのため、独身時代の個人の財産や別居後に自分が働いて得た財産は、分与の対象外です。

「これが場合によっては『卒婚』の落とし穴になることがあるので注意が必要です」と山下さん。
何かと話題の「卒婚」ですが、自分の立場を守りながら上手に切り抜ける注意点については、次回に解説します。

2.夫の財産分与が受けられる一方、妻の財産も分けねばならない
夫と妻の立場が対等である以上、妻に財産があって、それが共有財産である場合は、財産分与の対象となります。節約して貯めたお金はもちろん、共働きなら妻の稼いだお金も共有財産になります。

3.財産隠しは不利になることも!

こじれにこじれて、相手を憎んで離婚するような場合、相手に財産を渡したくないと考える人もいます。

それが理由でこっそり隠し口座にお金を移したりする人も。しかし、調停や訴訟になった場合、裁判所に対し、銀行や証券会社の口座情報の調査を申立てることができるため、通帳の履歴等が開示されてしまう可能性があります。つまり、お金を隠そうとしてバレてしまった場合は、裁判官への心象も悪くなり、自分に不利な結果になりうるというデメリットがあります。

4.夫の退職金を確実にもらうには?

離婚(別居)前に夫が退職金を受け取れば、それは夫婦の収入。もしも夫がさっさと使ってしまって『残ってない』としても、それは『夫婦の出費=家計費』として扱われてしまい、後の祭りです。

また、財産分与したくても、退職金が出ないと支払えない、という夫もいます。では、夫の退職金を確実にもらうにはどうしたらいいでしょう?

「別居開始時を「夫の退職時」と仮定して、いくら退職金が出るのかを試算することがあります。

そして夫の独身時代の勤続年数に該当する金額を差し引いて、婚姻期間中に該当する退職金(共有財産)の半分の額を請求する、というやり方もあります。また、退職金が出たらこれだけ元妻に支払う、というのを条件に和解したり、離婚判決を勝ち取るケースもあります」(山下さん)

5.いくら財産分与が受けられそうか、調べるのは同居している間に!
財産分与の対象になる共有財産がいくらあるのか。夫名義の口座や不動産、証券や保険がどこに・どれくらいあるのか。これらは同居中に調べるのが吉。別居してからでは、なかなか調べられません。

熟年離婚すると「夫の年金」はもらえるの?


離婚したくてもお金のことが心配。特に気になるのは「年金はどうなるの?」」ということ。できるだけ簡単に解説していきます。

離婚したら夫の年金は分けてもらえる?

妻が専業主婦で、会社員の夫の年金制度上の扶養に入っていた場合、妻は夫の厚生年金の記録を分割した金額を受け取ることになります。

しかし、対象は「婚姻期間中の、夫の厚生年金部分の半分のみ」。月額にしたら数万円程度です。

※令和元年度厚生年金保険・国民年金事業の概況「厚生労働省厚生年金保険(第1号)」によれば、老齢基礎年金と厚生年金を合わせた、合計の平均額が14万4268円。国民年金の平均が5万5946円なので、厚生年金分の平均額はおよそ8万8322円。その半分として4万4161円です。

ただし、夫が自営業(国民年金の基礎年金のみの人)の場合や、確定拠出年金は対象外で、配偶者の年金を分割して受け取ることができませんので注意が必要です。

元夫の厚生年金を年金分割で受け取っているけど、元夫が死んだらどうなるの?

年金分割分はそのまま、自分の老齢年金として継続してもらえます。

元夫の厚生年金を年金分割で受け取っているけれど、私が(元夫が)再婚したらどうなるの?

自分が(相手が)再婚しても、そのまま生涯受け取れます。

離婚後の年金額を知りたい! 

年金分割前でも、50歳以上の場合には、年金見込額を年金事務所で試算してもらうことができます。

熟年離婚後の「遺産」はもらえる?

熟年離婚後の「遺産」はもらえる?

「長年夫や家族に尽くしてきたのだから、離婚をしても遺産は分与してもらいたい」そう考える人もいるでしょう。離婚に至る経緯や事情は人それぞれ。ですが、離婚後に夫が亡くなった場合、その遺産はどうなるのでしょう。別れた妻に、もらう権利はあるのでしょうか。

夫が生きている間に離婚したら夫の遺産はもらえるの?

離婚後は、夫の遺産は相続できません。ただし、子どもには相続権が残ります。

財産分与(生前分与)と遺産相続、どっちがお得?

状況によりどちらがお得とは言いがたいですが、遺産相続の方がもらえる額が多くなる可能性が高いです。

  • 財産分与の場合
    対象は「婚姻期間中に二人で築いた共有財産」のみになります。自分名義の財産も分けなければなりません。
     
  • 遺産相続の場合
    夫の独身時代からの財産がすべて対象になり、配偶者は法定相続分だと2分1をもらうことになります。また、自分名義の財産に影響はありません。

離婚について考える時、お金のことを視野に入れないわけにはいきません。
離婚後の生活をどう維持するのか、離婚に踏み切るメリットとデメリットをよくよく考え、慎重に判断するためにも、こうした知識を備えておくことは大切なのです。

次回は、気になる「卒婚と離婚」、そして「夫の死後、お墓や遺族のお世話から解放される『死後離婚』」についてです。

山下環さんのプロフィール

山下環さんのプロフィール

やました・たまき 弁護士・離婚カウンセラー。山下環法律事務所所長。1999年、旧司法試験に合格。2016年から2020年まで、東京地方裁判所非常勤裁判官(民事調停官)を務める。NHK「あさイチ」に離婚事件に詳しい弁護士として出演するなど離婚事件を多数扱っている。監修著書に『本当に必要なことがよくわかる 最新 離婚の準備・手続き・進め方のすべて』(岡野あつこ著・幻冬舎)がある。


【年金に関する監修】

社会保険労務士望月厚子さん

望月厚子(もちづき・あつこ)
社会保険労務士、ファイナンシャル・プランナー。大手生命保険会社を経て独立。望月FP社会保険労務士事務所所長。年金事務所で相談員を務めるなど年金や労働等の相談業務、新聞・雑誌等への執筆、各種セミナー講師として活躍。厚生労働省社会保障審議会年金部会・専門委員会委員や成年後見人も務める。

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浅野裕見子
浅野裕見子

あさの・ゆみこ フリーライター・編集者。大手情報出版社から専門雑誌副編集長などを経て、フリーランスに。AERAや週刊朝日、宝島社ムックなどに執筆中。インタビュー記事やノンフィクションを得意とする。子どもの頃からの大の猫好き。現在は保護猫ばかり6匹と暮らす。日本BBQ協会上級インストラクターでもある。