020:あきさん(59歳)
57歳で退職。趣味の編み物を満喫してリスタートまでの充電期間を楽しむ
57歳で退職。趣味の編み物を満喫してリスタートまでの充電期間を楽しむ
更新日:2026年02月08日
公開日:2026年01月30日
あきさんのリスタート・ストーリー
大学卒業後、損害保険会社に女性総合職として入社。長男出産後に、総合職から一般職に転換。その後、次男出産後も働き続け、57歳で早期退職を決意。
会社員時代の53歳から趣味だった編み物教室に通い、日常の編み物の様子や編み方のコツなどをインスタグラムで投稿したところ、わずか1年でフォロワー2万人に。編み物講師としてリスタートするまでの準備期間をムリせず楽しく過ごしている。
定年後、何する?たそがれ研修で考え始めたこれから
――編み物を始めたきっかけは何ですか?
定年になる60歳までは絶対仕事を続けようと思っていました。一方で、会社員時代から、いわゆる「たそがれ研修」を受けたりしながら、60歳過ぎたら何をしようかなとぼんやり考えるように。
自分が今できることは何かなと考えたとき、もともと少しやっていた趣味の「編み物」が思い浮かびました。編み物なら、自分の好きに作ることができるし、買うよりも安上がりだなと、最初はその程度の理由です(笑)
次男が大学に入ったタイミングで、53歳の頃から編み物の学校に通い始めました。

――趣味ではなく、資格を取ろうと思ったのはなぜ?
絶対資格を取らなくちゃ、と思ったわけではないのですが、定年後、編み物を教えられるようになりたいという気持ちがありました。教えられる側の立場で考えたとき、何か資格があったほうが生徒さんたちも安心するかな、と。
例えばスポーツインストラクターさんに教わるときも、何か資格や級を持っている人のほうが安心して習いに行きやすいですよね。何も資格がない60歳過ぎの女性に趣味の延長で教わるなんて需要があるかな?……と思ったんです。
――学校を選んだポイントや決め手は?
私が通ったのは、手芸やハンドメイド系の専門学校。日本手芸普及協会が主宰している編み物講師の認定コースに申し込みました。まだ会社員だったので、週末のみのコースがあること、通いやすい立地だったことも決め手になりました。
講師になるには、作品を作れるだけではなく、他の人でも同じものを作れるように編み図(誰でも簡単に編めるための編み物のレシピ)を描き起こせないといけません。さまざまな技法を学びながら、同時に編み図を制作する授業があるのが特徴です。
編み方や題材によっていろいろなコースがあり、どのコースも半年から1年くらいで、1つの講座が終わると、次の講座に申し込むという形でレベルアップしていく形式です。
学費はそこそこするので、もし退職した後だったら躊躇してしまったかもしれない。まだ働いて収入があるタイミングで始められたのがよかったのかもと、今になって思います。
――会社員との両立はどうやりくりしていましたか?
正直、とても大変でした(笑)
土日のどちらかで朝10時から16時までみっちり学ぶ上に、宿題もあります。宿題は平日の夜か、土日のどちらかに袖口を真っ黒にしながらこなして……へとへとでした。
でも、クラスメイトには50代、60代の女性が多いのですが、みなさんの熱量がすごくて、一番前の席を確保するために早くから教室に入っている方もいるくらい。自分の技術を磨きたい、向上させたい、編み物が楽しいと思っていらっしゃる方ばかりなので、とても刺激になりました。
仕事とは違うコミュニティで同じ志を持つ仲間と学ぶのは楽しいですね。
57歳で定年前に退職。暮らしと気持ちに起きた変化
――定年まで3年で早期退職を決めた理由は?
2年前、57歳のときに新卒から勤め上げた会社を退職しました。
私が入社したのは男女雇用機会均等法が施行されて数年経った頃で、女性の総合職として入社しました。でも現実は、同期の男性社員が全国を駆け回りながら出世していく一方で、長男を出産し育児と両立しながら同じように働くのは難しくて。
結局、総合職を7年務めた後、一般職に転換しました。やりがいを感じて仕事をしていた時期ももちろんありましたが、長く会社にいると、言い方は悪いですが「私、いいように使われてる?」と思うことも増えていって……。
最後の十数年はずっと同じ部署で、人が足りなくなればこっちの仕事、新しい取り組みが始めるとあっちの担当……とそんなことが続いて、ある日、気持ちがプツっと切れてしまったんです。
ちょうど次男が大学を卒業するタイミングだったので、子育ても終わり。働くお母さんの姿もさんざん見せてきたし、「もう辞めてもいっか」と。

――安定した職を手放すのに不安はありませんでしたか。
まわりからは「定年まで勤めればいいのに」とか「仕事やめて何するの」などと言われました。たしかに収入がないことに不安がないわけではありませんでしたが、もう息子たちのお金もかからないし、それ以上に、会社を離れて自分の時間を作りたい気持ちのほうが大きかったんです。
33年間、フルタイムで仕事と子育てと家事をやって来て、全部やり切ったという感じでしたね。
実は夫のほうが私よりも先に、定年前に会社を辞めていて、コーヒー屋を始めたんですね。なので、私も辞めやすかったこともあるかもしれません。
――退職してからの生活には、どんな変化がありましたか?
時間ができて手持ち無沙汰になるんじゃないかとも思いましたが、まったくなく、快適です(笑)。今まで毎日時間に追われていましたが、ほっと一息つけてうれしい気持ちのほうが大きいのかな。自由な時間ができた分、編み物をする時間も増えて。週末の学校通いも続けています。
それでも次第に、60代以降の暮らしを考え始め「このままでは時間だけが過ぎてしまう。何か始めないと!」と、1年前からインスタグラムを始めました。この先、もし人に編み物を教えることになった場合、生徒さんを集めるツールにもなるかなと思って。
それまでも日常生活を写真で投稿したことはありましたが、動画を投稿するのは初めて。会社員時代に触れていたので、ITには疎いほうではありませんでしたが、戸惑ってばかりでしたね。
時間だけはたっぷりあるんだからと、本を読んだり、YouTubeを見たりして、自分でトライ&エラーを繰り返しながら覚えました。

意味を持たせなくていい。編み物はただ心を満たす存在
――普段は、どんな編み物の作品を作っているのですか?
学校の課題の作品を作って、復習用に色違いを作ったりすることもあります。中でもセーターやベストなどの着るものは、自分のサイズで作って、ときどき着ています。
手軽に作れるバッグや手袋、コースターやコサージュなどの小物は、夫がやっているコーヒー屋の店頭に置いてもらって販売することも。ただ、売るために作ると忙しくなってしまうので、販売を中心にしようとは思っていません。
私は作品を作って着るのが目的ではなく、ただ編むこと自体が楽しくて楽しくて、夢中になれてストレス発散できるんです。さらに、作品ができたときは達成感もあって、ものすごく心が満たされる。それだけで十分なので、実は完成品を好んで身に着けることは多くありません。

――編み方を解説する動画の投稿を始めたきっかけは?
最初の頃は、動画の閲覧数も少なくて「こんなものかな」とぼちぼち投稿を続けていたら、あるとき一つの投稿がバズったんです。それが「編み物好きあるある」という動画です。
私の年代の編み物が好きな人のあるあるネタを10個あげたものですが、「私もです」「電車で見てふき出しちゃいました」などコメントをたくさんいただいて。そこから俄然、やる気が出てきました。無理やりネタを考えなくても、普段から自分が感じていることや疑問に思ったことをアップしていけばいいんだと気が付きました。
最近は編み方のポイントを投稿していますが、実はこれ、自分のためでもあるんです。学校で教わった編み方を忘れてしまわないように、後で見返せるように動画を撮りはじめたのがきっかけ。
この年代になると、どんどん覚えてもどんどん忘れますから(笑)。復習も兼ねてやっています。同じような人が多いのか、閲覧数と同じくらい、保存数が多いんですよ。

――息子さんが編み物を始めたのは、お母さんの影響ですか?
息子はもともと服が好きで、アパレル関係の仕事をしているんですね。それで、私が編んでいるのを見て、自分が使うものを編んでみたいと思ったのがきっかけみたい。マフラーからバッグまで、いろいろ作っているようです。
私と違ってモノトーン系のものが多かったりして、男性でもおしゃれに使えるものを作っているので勉強になります。

――息子さんのために作った帽子が話題になっていましたね。
俳優の賀来賢人さんが被っていた帽子をインスタグラムで見て、それがかっこよかったんです。息子の誕生日に「これ作ったら被る?」と聞いたら「うん」と言うので、作ってみました。
息子が帽子を被った動画を投稿したら、ネットニュースで取り上げられてビックリ。今、若い人の間で編み物がブームなのもあり、「編み物男子」って言われているようです。
インスタに息子を登場させたことで、自分の顔は出さなくても、子どもを育て上げた50代の主婦という生身の人がやってるんだという身近な感じを出せて、フォロワーさんとの距離も近くなったように思います。
――普段は作品作りはどこでしているんですか?
普段は、リビングのテーブルに道具を持ち込んで、時間があれば編んでいます。
息子とテーブルに向かい合って一緒に編み物をすることもありますよ。息子にアドバイスをもらったり、雑談しながら一緒の時間を過ごすなんて、働いていた頃はなかなかできなかったこと。この年になって親子共通の趣味ができたのは、うれしいですね。

昔の子ども部屋をアトリエに、衣類ダンスは毛糸の収納用に、と家族の成長や変化にあわせてゆっくり変わっていっています。

今は充電期間を楽しんで。リスタートは急がなくていい
――あの頃の苦労があるから今があると思えることは?
会社員として必死に働いてきた33年は、やっぱり今の私の力になっていると思います。育児と仕事、大変な時期もあったけれど、マルチタスクで乗り切ってこれた。物事の考え方や進め方、対応力などのスキルはある程度ついているはずです。
今は定年後の休憩時間を楽しんでいますが、経験して身に付いたスキルはそう簡単には失わないとわかっているから、安心して休めている気がします。
――これからチャレンジしたいことは?
編み物を教えたい気持ちはありますが、まだどういう形で教えるか、具体的な形では考えていません。
ただ、オンラインで編み物を教えるのは難しいと聞いたので、レンタルルームなどで対面で教えるスタイルがいいのかな、とは思っています。
知人からは「専業主婦にも飽きたでしょ」と言われることもありますが、全然飽きないんですよ(笑)。今は自分の好きなことができる生活に満足しています。やらせてくれる家族には感謝ですね。
編み物を教えたり、作品を見てもらったりすることも大切ですが、やっぱり自分が楽しむことが一番。楽しめる範囲でいろいろなことに挑戦していきたいですね。

50代のリスタートに必要な3つの備え
50代に必要なことは、とてもシンプル。健康と友達、そして何事も自分でやってみること。自分で体を動かすことを繰り返して初めて、自分のものになるのです。
1.健康であること
ぎっくり腰を経験してから、健康でなければ何もできないと痛感しました。具合が悪いと何もしたくなくなりますよね。体が健康なら気力も湧いてきます。編み物をしていると運動不足になるので、ジムに通ったり、1日1回は外に出て、1時間くらいウォーキングをしたりしています。
2.信用できる友達を持つこと
心を許せる友達がいると人生が楽しくなります。1人でも2人でもいいし、同性でも異性でもいい。友達は、家族とはまた違った刺激を与えてくれますし、外に出ていくきっかけにもなります。
3.自分の手と頭を使ってやってみる
例えばインスタの編集なども、息子に聞けばわかるところを、私は自分で調べてやっています。自分で手と頭を動かすことで覚えられるんです。編み物も同じで、体に覚えさせるには時間がかかります。時間がかかってもいいんです。自分でやってみることが大切だと思います。
取材・文=樋口由夏 写真=masaco 企画・構成=長倉志乃(HALMEK up編集部)




