通信制 山本ふみこさんのエッセー講座第10期第1回

今月のおすすめエッセー「アップルパイ」南川千鶴子さん

今月のおすすめエッセー「アップルパイ」南川千鶴子さん

公開日:2025年05月09日

今月のおすすめエッセー「アップルパイ」南川千鶴子さん
今月のおすすめエッセー「アップルパイ」南川千鶴子さん

随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクの通信制エッセー講座。第10期が始まりました。1回目のテーマは「アップル」。南川千鶴子さんの作品「アップルパイ」と山本さんの講評です。

アップルパイ

実家は、東北の寒い地方である。
子どもの頃のおやつは、ミルクキャラメル、ふうせんガム、アイスキャンディーやマーブルチョコなどであった。いまから60年も前のことなのだなぁ。
当時は今のようにおやつが豊富ではなかった。冬になると大きな木の箱に入ったりんごやみかんをおやつに食べていた。玄関に入ってすぐにストーブがあった。ストーブの前には竹の長椅子があって、私は、そこに座ってりんごやみかんを焼いて食べた。焼くとなんだか甘くなるような気がしたからだ。寒い外で思いっきり遊んだ後、冷えた体で熱々のりんごを食べるのは楽しい。
冬でも外で遊ぶから、ほほや手はりんごのように赤くなりひびが切れていた。
みかんは、皮をむいたもので一粒ずつストーブに押しつけて焦がして食べた。母が洋裁をするそばで、おしゃべりしながら食べたものだった。

母は好奇心旺盛な人だった。当時珍しかったであろうガスオーブンで、時々焼きりんごを作ってくれた。りんごは紅玉である。バターと砂糖が溶け合い、りんごの酸味とからまってなんとも言えずに美味しかった。熱々のりんごにフーフー息をかけながらほおばり、溶けた甘いバターをスプーンですくってりんごにかけながら味わった。

りんごといえば、アップルパイが好き。やはり60年以上昔のことである。近所に歯医者さんがあった。母はそこの奥様から、グラタンや水餃子の作り方を教えてもらっていた。
そしてある日、アップルパイをいただいたのだ。ホールごと箱から出した時、つやつやと光沢があり、光って見えた。わくわくしながら母が切り分けるのを兄妹で見守った。食べたときは、世の中にこんなおいしいものがあるのかと驚いた。そのアップルパイは当時県内でも名前の知れた店のものであった。県北の小さな村に住む私にはめったにおめにかかれないものだったのである。
果物は何でも好きだが、こんな思い出があるせいかとりわけりんごが好きである。

山本ふみこさんからひとこと

作品に「ワクワクしています」というメッセージを添えてくださいました。なるほど、ワクワクしながら書かれて、誕生したのがこの作品です。
ほんとうに、こころが躍りました。

ストーブでりんごを、みかんを焼く。
 
ガスオーブンから生まれた、焼きりんご。

なにかをつくるとき、書くとき、つくり手・書き手の心持ちは、創作にあらわれます。
あらためて思ったことです。
機嫌よく、そして読み手を思って、書いてゆきたい、と。

皆さん、よく読んで参考にしてくださいね。

通信制 山本ふみこさんのエッセー講座とは

全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は講座の受講期間の半年間、毎月1回出されるテーマについて書き、講師で随筆家の山本ふみこさんから添削やアドバイスを受けられます。

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ハルメク旅と講座
ハルメク旅と講座

ハルメクならではのオリジナルイベントを企画・運営している部署、文化事業課。スタッフが日々面白いイベント作りのために奔走しています。人気イベント「あなたと歌うコンサート」や「たてもの散歩」など、年に約200本のイベントを開催。皆さんと会ってお話できるのを楽しみにしています♪