臨床心理士が教える!先延ばし解消術 #2

がんばっている人が無意識に陥りがち…「自己犠牲チェックリスト」

がんばっている人が無意識に陥りがち…「自己犠牲チェックリスト」

公開日:2025年12月16日

がんばっている人が無意識に陥りがち…「自己犠牲チェックリスト」

誰かのためを優先するほど、自分のやりたいことは後回しに。実はこの自己犠牲の癖こそが、先延ばしを悪化させる原因になることも。自分の心のパターンに気付ける「自己犠牲チェックリスト」と、専門家がすすめる改善のヒントを実例とともに紹介します。

教えてくれるのは、中島美鈴(なかしま・みすず)さん

臨床心理士・公認心理師・心理学博士。専門は時間管理とADHDの認知行動療法。現在は中島心理相談所 所長。九州大学大学院人間環境学府にて学術協力研究員も務める。著書に『先延ばしグセ、やめられました! 書いてみるとうまくいく』(大和書房)など多数。

なぜ“他人を優先する人”ほど先延ばしに陥りやすいのか【実例】

なぜ“他人を優先する人”ほど先延ばしに陥りやすいのか【実例】
shimi / PIXTA

前回は、50代の先延ばしが一気に消える“実践4ステップ”を紹介しました。今回は、実例を通して「なぜ先延ばしが起きるのか」を見ていきます。

会社員ナナさん(40代女性)は小さい頃から絵を描くのが好きでした。しかし絵で食べていくのは難しいだろうと心配した両親の助言のもと、事務職として働いてきました。

20代は仕事を覚えるので必死で精いっぱいでした。30歳を越えると親が「まだ結婚しないの」と言い出しました。ナナさんだってそんな相手がいれば結婚してみたかったのですが、ご縁に恵まれませんでした。

会社では、子育て中の社員の分まで、残業もいとわずがんばって働いてきました。会社のためにがんばっていれば報われる、誰かが見てくれているはずと思ってここまできました。

しかし、ナナさんが45歳になったとき、親が大病を患い、急に亡くなったのです。これを目の当たりにしたナナさんは、愕然としました。

「結局、私って会社で出世することもなかったなあ。気付けば入社当時にいた社員もみんな辞めていて、まるでもう別の会社で働いているみたい」

がんばってきたのに満たされない…先延ばしの正体

がんばってきたのに満たされない…先延ばしの正体
NOV / PIXTA

ナナさんの人生を読んでどう思いましたか?

中年期にこのように「これでよかったのかしら」と立ち止まって悩む人は大勢います。ナナさんのように周りのためにがんばってきた人が何を先延ばししてきたというのでしょう。

こんなにがんばってきたのに、報われず、変化に取り残された気持ちになり、親の死を目の当たりにして「自分はこの人生で一体何をしたいのだろう」と考えてしまったのです。

ナナさんは自己犠牲をしすぎて、自分の本当にしたいことに焦点を当てて考えて、行動することを先延ばししてきたのかもしれません。

もっと言えば、自分の人生を生きることを先延ばししていたのです。ナナさんには、自己犠牲の傾向があるようでしたので、このチェックリストを見てもらいました。

あなたはいくつ当てはまる?“自己犠牲チェックリスト” 

あなたはいくつ当てはまる?“自己犠牲チェックリスト” 
yuz / PIXTA

□高価な贈り物をもらうと、自分にはもったいないとソワソワする
□人によくしてもらうと、「ありがとう」よりも「申し訳ない」という気持ちが先に出る
□自分が損をしたり、悪者になったりすることでその場がおさまるのなら、喜んでそうしたい
□目の前の相手が不機嫌だと、無理をしてでも相手の機嫌をよくすることに尽力する
□誰かと一緒に行動するときには、行き先や食べる物などを相手の好みに合わせたい
□自分が損をしても相手に尽くしたい
□自分にお金をかけるのはためらいがあるが、人へのプレゼントやおごりには抵抗がない
□時々、人付き合いがしんどくて、どうでもよくなる
□世の中の人は、自分よりももっと勝手でわがままに生きているように見える
□自分がどんな気持ちかよりも、相手の機嫌のほうに目がいく

ナナさんは、ほとんどすべてが当てはまりました。

自己犠牲のパターンから抜けるためにできること

自己犠牲のパターンから抜けるためにできること
jessie / PIXTA

ナナさんには、最も当てはまる「自分がどんな気持ちかよりも、相手の機嫌のほうに目がいく」について検討してもらいました。

相手の機嫌をよくするためにナナさんはこれまでどんなことをしてきたでしょう。

親の助言を聞いて心配させないように、「人並みに働こう」と自分のしたいわけではない仕事を選んで就職しましたね。その後も会社のために、そして子育て世代の社員のために多くの仕事を引き受けて、文句一つ言わずに働いてきました。「誰かが見ていてくれるはず」と密かに評価を期待したものの、実際は何も報われていません。

この「誰か」とは誰なのでしょう。その誰かがナナさんの人生に責任をとってくれるのでしょうか?

ナナさんは目に涙を溜めて言いました。

「これまでの私って誰のためにがんばってきたんでしょうね。誰も責任なんてとってくれないのに」

ナナさんは「いつかそのうち自分のしたいことができるようになる」ような気がしていました。「いつの日か、誰かが“ナナさんの好きにしていいよ”って許してくれる」ような気がしていました。

しかし、そんな日がこれまであったでしょうか? 45歳を過ぎても誰もそんなこと言ってくれなかったのです。自然にしていても何にも解決しなかったのです。

「でも、それでも私、自分がしたいことで生きていくなんて今さらできない」

ナナさんの好きなことは絵を描くこと。

それだけで食べていける人はごくひと握りの人たちであることをナナさんはよく知っています。しかしそれ以上にナナさんに猛烈なブレーキを引く誰かがいました。

「今さらこの年齢になって、絵を描きたいなんて夢みたいなこと口にできない」

心の中に、親や世間の価値観の代表選手のような指揮官が「夢みたいなことを言うな」と厳しい言葉で規制をかけ続けているのです。

ナナさんには、そんな指揮官に苦しめられて泣いている、心の中のナナさんに気付いてもらいました。そして今から必要なのは、この泣いているナナさんを守る、優しくかつ論理的な大人を育てていくことなのです。

自分を後回しにしないと、先延ばしは自然と減っていく

自分を後回しにしないと、先延ばしは自然と減っていく
Bongkarn Thanyakij / PIXTA

「もっと自分を大切にしていいんだ」と気付いたナナさん。仕事の自己犠牲的な安請け合いをやめて、自分の時間を確保することにしました。

また、NPO法人を営む友人のためにパンフレットに載せるイラストを手伝わせてもらうことにしました。ずっと好きだった絵を描くことで、社会に貢献できることがうれしくてたまりませんでした。

手応えを感じたナナさんは、密かにやりたいと思っていた夢を少しずつ叶えていくことにしました。

フランスに行ってみたい、もう長らくしていないけど恋愛もしてみたい、パンづくりも習ってみたい……。

心の中の指揮官は今でも「そんな身勝手なことばかりするな」「贅沢な」と叱りつけてきますが、もう一人の優しく賢い大人が「結局待っていても自分の番は来ないんだよ。やりたいことは今やるしかないんだよ」と言い負かしてくれるのです。

こうして少しずつですが、ナナさんは自分の人生を取り戻しつつあります。

■ナナさんのうまくいったポイント

自己犠牲している自分に気付いたら、自分を縛りつけていた価値観に抵抗するための“もう一人の優しく賢い大人”を育てよう。

次回の記事では、「好きなものがない受け身人生が激変!「本屋」と「スマホ」にあるヒント」を紹介していきます。

※本記事は、書籍『先延ばしグセ、やめられました! 書いてみるとうまくいく』より一部抜粋して構成しています。


■「動ける人になる!先延ばし解消術」をもっと読む■

#1:50代の先延ばしが一気に消える“実践4ステップ”
#2:他人を優先する癖が原因!?“自己犠牲チェックリスト”
#3:好きなものがないが激変!「本屋」と「スマホ」にあるヒント

もっと詳しく知りたい人は、中島さんの書籍をチェック!

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HALMEK up編集部
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