臨床心理士が教える!先延ばし解消術 #3
好きなものがない受け身人生が激変!「本屋」と「スマホ」にあるヒント
好きなものがない受け身人生が激変!「本屋」と「スマホ」にあるヒント
公開日:2025年12月16日
教えてくれるのは、中島美鈴(なかしま・みすず)さん
臨床心理士・公認心理師・心理学博士。専門は時間管理とADHDの認知行動療法。現在は中島心理相談所 所長。九州大学大学院人間環境学府にて学術協力研究員も務める。著書に『先延ばしグセ、やめられました! 書いてみるとうまくいく』(大和書房)など多数。
なぜ“好きなものがない”と感じてしまうのか【実例】
第1回では先延ばしが消える4つのステップ、第2回では自己犠牲タイプの実例を取り上げました。今回は、“好きがわからない”と悩む人に向けて、実例を挙げながら、本音のヒントを探る方法をご紹介します。
会社員のソウスケさん(50代男性)は、結婚して15年。
3人の子どもに恵まれ、共働きの妻ともうまくいっています。年子の子どもたちは一番上が中3と、忙しさもピークを迎え夫婦で部活や塾、習い事への送り迎えと毎日忙しくしています。
傍から見れば、幸せな一家なのでしょう。しかし、ソウスケさんは「別にこの仕事をしたくてしているわけじゃない。親の知り合いの紹介だから断れなかった」と考えています。
毎日やることに追われていて、子どもの習い事のお迎えに行き、車の中で待っているときなど「自分は何のために生きているんだろう。子どもたちはそれぞれダンスにサッカーにと好きなことに夢中になっているけど、自分には何もない」と気付いて怖くなってしまいます。
受け身人生が“好き”を見失わせる理由
ソウスケさんは思い返せば、これまで自分で進路など人生の大きな決断をしないままここまできました。
大学受験も地元に、という親の意見を聞いて、無理のない学力の大学を選びました。就職も、親の知人が紹介してくれたので、実はあっさり決まりました。結婚の決断すら受け身でした。上司の娘さんを紹介されて、わりとタイプだったので付き合っていたら、子どもができたので、流れですぐに結婚したのです。
こんなふうに自ら意思決定をしない人生が長く、ソウスケさんは本当の自分の気持ちがわからなくなっているのです。まるで人生ゲームのコマをルーレット頼みで進めるように、ここまできてしまったのです。
その結果、生々しい感情の伴わない、やりがいのない、形式をこなす日々になってしまったのです。家族への愛情はあります。会社を大事に思う気持ちもあります。
しかし情熱は? と聞かれると非常に怪しいのです。
“本屋”で足が止まる棚が、本音のヒントを教えてくれる
ソウスケさんは非常に言語能力の高い人なので、「何が好きなのだろう」「何がしたいのだろう」「もし仕事を変えるとしたら」などと考え出すと、ロジックの罠にハマって眉間にシワが寄って、なかなか本音にアクセスできません。
ソウスケさんが欲しいのはもっと情熱的な何かなのです。これには、直感的で非言語的なもののほうがアクセスできます。
ソウスケさんには、書店に足を運んでもらいました。
図書館や本屋さんに出向いて、自然と足の止まるエリアはどこなのかを探ってもらうためです。ソウスケさんは筋トレ雑誌やスーツ姿の男性が表紙になっているような雑誌のエリアに立ち止まりました。都会的な雰囲気に心惹かれたようです。
「意外だな。恥ずかしい」
ソウスケさんは至って真面目な目立たない会社員スタイルなのですが、心の底では“イケおじ”になった自分を夢見ているのかもしれません。
次に、ソウスケさんにはご自身のスマホの写真フォルダとブックマークをチェックしてもらいました。昔は「その人の本棚を見れば、人となりがわかる」などと言われましたが、今はスマホに情報が濃縮されていますね。
ソウスケさんのスマホには、子どもたちの写真がたくさん保存されていて、ブックマークには、パソコンの裏技やAIに関する情報がありました。
「やっぱり子どもたちの存在は大きいです。正直3人の年子の育児は苦労しましたが、楽しかったんです。あと、パソコンの勉強はしてみたいんですよね。忘れてましたけど」
ソウスケさんには、さらにたたみかけます。
もしもあなたの目の前にどんな願いでも叶えてくれる魔法使いが現れて、「何でも魔法で夢を叶えてあげるよ、言ってごらん」と言ってくれたら、なんと答えるかを想像してもらいました。
「ほんとに何でも叶えてもらえるのなら東京に住んでみたいんですよ。今は子どもたちの教育環境を変えたくないからできないんですけど。でも一度は首都に住んでみたいというのがあるんですよね。初めて言葉にしたかも。妻にも言ったことがないです。こんな願望」
さらに追加でこういう質問もしてみます。今年でこの世界が終わるとしたら、残り数か月間を、どう過ごしたいかを考えてもらいました。
「え? じゃあ、迷わず転職しますよ。好きに生きてみたい」
出ました。ソウスケさんの本音です。
実行に移す時期や方法はいったん置いておいて、まずはこのように枠組みをとっぱらいながら、ありえない前提の質問をぶつけて既成の枠組みを揺さぶりながら願望を取り出していくのです。
ある程度ぼんやり浮かんできたら、次のページの枠組みに入れながら、何かまだ探り足りていない領域はないか確かめていきます。
まずは目標でもいいので領域別に書き出してみるといいでしょう。
ソウスケさんは、時間をかけずに直感に従って書き出しました。時間をかけて冷静になってしまうと、現実的な目標を書いてしまいそうだったからです。
「誰にも見せなくていいし、実行する・しないは今はいったん考えずに書き散らそう、そう言い聞かせて書いてみました。自分でも意外なことばかり書いています。こんな地方都市に住む50代の平凡なおじさんが、チャラチャラしてて恥ずかしいんですけど」
いいじゃないですか! 本音にアクセスできましたね。
直感を拾い集めれば、“やりたいこと”は自然と見えてくる
こうして、一連の作業で少しずつ自分の志向の輪郭が見えてきたソウスケさん。
「なんだ、自分は何にも願望がないわけじゃないんだ。気付いてなかっただけなんだ」とホッとしたそうです。いろんなしがらみはありますが、少しずつできるところから実行に移すことにしました。
今は子どもたちと一緒にPython(プログラミング)の勉強をしているそうです。そういう時間こそが、「自分の人生だー!」と感じられるのだそうです。
■ソウスケさんのうまくいったポイント
本当にしたいことを見つけるには頭で考えるより、書店に出向いて足の止まるコーナーを探す、スマホの写真フォルダやブックマークなど、直感的、非言語的なものを使って探そう。
※本記事は、書籍『先延ばしグセ、やめられました! 書いてみるとうまくいく』より一部抜粋して構成しています。
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