人生を面白くするヒント1

俳優・室井滋さん!自分で工夫してこそ味わえる面白さを大事にしたい

俳優・室井滋さん!自分で工夫してこそ味わえる面白さを大事にしたい

公開日:2025年08月09日

俳優・室井滋さん!人生を面白くするヒント1

人生後半、これからの日々をもっと面白く充実させるためにできることとは?俳優の室井滋さんに話を聞いてわかったのは「人生の楽しみを生み出すのは自分」ということ。他人の目や自らの思い込みから自由になって人生を面白がる心を育てていきましょう。

室井滋さんのプロフィール

室井滋さんのプロフィール

むろい・しげる。富山県生まれ。早稲田大学在学中の81年映画「風の歌を聴け」でデビュー以降、多くの映画賞や芸能賞を受賞。2025年映画「ぶぶ漬けどうどす」や、ナレーションを担当したドキュメンタリー映画「ハッピー☆エンド」に出演。近著に絵本『タケシのせかい』、『キューちゃんの日記』、『チビのおねがい』他電子書籍化含め著書多数。絵本『会いたくて会いたくて』、エッセー『ヤットコスットコ女旅』他、著書多数。全国各地でしげちゃん一座絵本ライブを開催中。23年より富山県立高志の国文学館館長に就任。

他愛のないことでも、“あらっ”と思ったら素通りしない

“あらっ”と思ったら素通りしない。意外と身近なところに楽しみは転がっているものです

女優としてはもちろん、数々のエッセーや絵本の原作を手掛ける文筆家としても支持を集めている室井滋さん。5年ぶりとなるエッセー集『ゆうべのヒミツ』では、夕方にのんびり近所の銭湯へ通ったり、同じ富山出身の力士・朝乃山(あさのやま)を全力で応援したり……年を重ねたからこそ味わえる日々の楽しみをたっぷり綴っています。

ほとんど毎日、通っている銭湯は情報と出会いの宝庫です

「私の銭湯通いは、もう長いんですよ。もともと富山の実家が商店街の中にあって、子どもの頃からよく銭湯に行っていました。当時の銭湯って、壁に描かれた富士山の麓のところに商店街の目玉商品だとか、どこどこの店が新装オープンしたとか町の情報がバーッと書かれていて、おばさんたちは背中を流しながら『今あそこの店の〇〇が安くておいしいよ』なんて話していて、みんなの社交場であり憩いの場でした。それが子ども心にすごく楽しかった記憶があって、今も毎日のように銭湯に行き、裸の付き合いをするうちにだんだん親しくなった方たちもいます」

そう語る室井さん。最近の銭湯は、営業時間の前にヨガ教室を開いたり、さまざまなイベントを企画したり、「工夫してがんばっているところが多いし、ちゃんと人情味がある」と話します。

「私の知り合いのおばあさんは、脱衣所でフラフラッとしていたら、番台さんが『様子がおかしいから救急車を呼びましょう』と声をかけてくださって、一命をとりとめたんですよ。番台からお客さんの様子をちゃんと見てくださっているのはすごくいいなと思います。年を取ると、おうちにお風呂があっても銭湯に来られる方が増えるのは、やっぱり顔なじみができたり、番台さんとお話ししたり、ちょっと散歩しながらおうちに帰ったり、それが毎日の生活の一部になると、ほっと楽しい気分になれるからかなと思います」

いまだにガラケー。世間の評判は全然知らないですね

電話もメールもすべてガラケー。世間の評判は全然知らないし、気にしていないですね

最新のエッセー集には、家の前にパンツが落ちているのを発見する話や、喫茶店でネズミに足をチューされる話など思わず笑ってしまうエピソードが満載です。なぜ室井さんのまわりでは面白い出来事が起こるのでしょう?

驚いたり楽しんだり珍事件に遭遇しやすい⁉

「おそらくみなさんのまわりでも、いろんな事件が起きているはずなんですよ。でも気が付かなかったり、ちょっと面倒くさくて見ないふりでスルーしちゃったりしているのかなと思うんです。私の場合、“あらっ”と思ったら、他愛のないことでも素通りできず、すぐに反応しちゃうところがありまして。そのぶんいろんな人と出会ったり、驚いたり楽しんだり、時には新たなトラブルが起こったり(笑)、“珍事件”に遭遇しやすいのかもしれません」

自分をよく見せようと思わない。腹が立ったらズバッと言う

自分をよく見せようと思わない。文句を言いたいときはズバッと言っちゃいます

実は今もスマホを持たず、ガラケーユーザーの室井さん。「時代遅れでよかったかも」と感じることが多いそう。

「私も世の中の流れを知りたいし、エッセーを書くために調べものもしたいから一応iPadは持っているんですよ。でも普段の電話やメールはすべてガラケーで、SNSもやっていません。自分の名前で検索したことも一度もないから、世間でどう言われているか全然知らない。そういうことを気にする時間がもったいないと思うし、他人の目を恐れてやりたいことができなくなったり、体裁を取り繕ったりするのは嫌なんです。我慢して自分をよく見せようとも思わないから、文句を言いたいときはズバッと言っちゃいますね。

例えばある日、新幹線に間に合うようにタクシーに乗ったら、裏道で荷下ろし中のトラックが止まっていて全然前に進めなくなってしまったんですよ。タクシーの運転手さんもグズグズしているから私が降りていって『道をあけてよ』と言ってもどいてくれない。それで『すぐにどかないんなら、もう110番しかないからね』と大声で言い放ちました(笑)。その一部始終をエッセーに書いて、イベントで朗読するとすごく盛り上がる。腹が立ったこともきっちり向き合うと面白いですよ」

他人の目を気にする時間がもったいない

室井さんは「ネットも便利だけれど、頼り過ぎると面白い体験が減ってしまうのでは?」と疑問を投げかけます。

「ネットで調べれば失敗しない料理のレシピがすぐわかるけど、私はそういう情報より『たまたまカレーに梅干しを入れてみたらめちゃくちゃおいしくなったのよ』っていう人の話を聞きたいと思う。やっぱり自分なりにあれこれ工夫して、自分でやってみてこそ味わえる面白さを大事にしたいですね」

『ゆうべのヒミツ』

『ゆうべのヒミツ』

室井滋著/小学館刊/1540円
大人だからこそ、年を重ねたからこそ味わえる人生の愉しみをユーモアたっぷりの文章で綴った5年ぶりのエッセー集。

取材・文=五十嵐香奈、岡島文乃(ともにハルメク編集部)、撮影=島崎信一、ヘアメイク=鈴木將夫/MARVEE(室井さん)

※この記事は、雑誌「ハルメク」2025年1月号を再編集しています。

HALMEK up編集部
HALMEK up編集部

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