間違った相続税対策

2022年11月02日

勘違いで知らずに損をしていることも……

税理士が教える!相続税対策としてやりがちな間違い

相続税対策とは、支払う相続税を少なくする節税対策のこと。ところが、相続税対策のつもりが実は何の対策にもなっていなかったどころか、損をしてしまうことも。やってしまいがちな相続税対策の間違いについて税理士の天野隆さんが解説します。

相続対策やりがちな間違い1:よく考えずに不動産投資をする

不動産による相続税対策

いつか生じる相続税の対策として、「不動産投資」を検討する人もいるのではないでしょうか。マンション投資、アパート・マション経営といった不動産投資は長期的に安定した家賃収入が得られる、収入を得ながら資産を形成できる、土地や建物は現金などと比べて資産の評価額が低くなるため相続税が抑えられる、などのメリットがあると言われています。

例えば、少し前に「タワマン投資」が話題になりました。タワーマンションは一軒家や低層マンションに比べて、1戸当たりの土地の面積(共有持分)が少ないため、価格が高い割には相続税評価が低いのです。そのため、タワーマンションを購入しておくことが相続税対策としての効果が高いと考える人が多いことも事実です。

このように、現金を不動産に替えたりすることで相続税評価額を減らし節税対策をすることを、専門家は「財産の組替え」と呼んでいます。現金を不動産に替える不動産投資も、財産の組替えの一つです。しかし組み替えをするときには、それが本当に必要な組替えかどうか、財産価値を減らす組換えになっていないかという点につき、慎重に検討する必要があります。

まず、不動産投資なら最初に考慮すべき点は「本当に必要な不動産かどうか?」ということです。資産に余裕がある場合は別ですが、必要ではない資産を持つのはリスクを伴います。また、将来の価格変動や収益性の低減により、財産価値が減る可能性がないか否か、という点も重要なポイントです。

最近は、アパートを建築・経営することで相続税対策を始める人も増えていますが、将来、不動産の価値が下がったり、アパートの空室が増えたりすると、せっかく相続税が下がっても、結果的に将来、その節税額を上回るほどの損失を被ってしまう可能性もあります。

確かに土地を持っていて、その土地が駐車場だった場合は「更地」として評価されることになるので、相続税評価額は100%となります。また、居住用の建物が建っている状態よりも、更地の場合は固定資産税が約6倍もの高額になります。

そういった資産を持っている場合、相続対策と銘打った「家賃保証」をうたった賃貸住宅の建築と経営を持ち掛けるハウスメーカーや、「管理を任せられる」という不動産会社の声掛けは魅力的に感じるかもしれません。

しかし、これまで私が見てきた中で、「好条件」であるがゆえに、一定期間経過後に当初の保証額を下回る水準まで家賃が値下げられたり、建物の躯体や設備などの造りが甘く、予想していた以上に修繕費用が割高になったりするなど、結果的に損をするようなトラブルに発展した事例も見受けられました。

不動産投資をするなら、まずその不動産が当人やその推定相続人にとって必要か、必要でないかを考えること。そして「立地がいい」「駅から近い」といった条件に合う資産価値が下がりにくいものを選定するなど、その不動産の将来性についてもよく考えておく必要があるでしょう。

タワマン節税に関しては、税制改正により高層階ほど固定資産税評価額が高くなる計算方法に変更されました。また、相続税に関しても、節税額が極めて大きく、相続後に転売しているなど、そのマンションの購入という事実に関して、経済的合理性や必然性が乏しいケースにつき、過度な節税目的であると判断されて、課税当局から否認されている実例もあります。

相続を控えた資産家の不動産の組換えなどに関しては、資産税に特化した税理士やコンサルタントなどに相談するといいでしょう。

相続対策やりがちな間違い2:無駄な保険に加入している

相続税対策として無駄な保険に加入している

生命保険の契約に基づき、相続発生後に支払われる死亡保険金は、相続人(ここでの相続人とは、相続法独自の「法定相続人」)、1人につき500万円まで相続税が非課税になります。そのため、相続税対策として生命保険金等の非課税枠を利用する方法があります。

生命保険については、いわゆるアレルギーがあるなど、個人の価値観の要因もあり、全く加入していない人がいる一方で、必要以上に多くの保険に加入しているなど、極端な加入の仕方をしているケースも見受けられます。せっかく非課税枠があるのに、これをフルに利用できておらず、もったいないように思える方々がいる一方で、時折、目にするのが、後者の必要以上に多くの保険に加入している方々です。

本当に必要な保険に入っているのなら何の問題もないのですが、実際、保険証券が何十枚もあるご家庭や、何億円も保険をかけているご家庭もしばしば見受けられます。錬金術のような側面を持つ保険の仕組みそのものが好きという人もいれば、セールスマン・セールスレディとの付き合いで加入している人もいます。保険加入が無駄になってしまう理由は二つあります。一つは保険金等の非課税枠を超えているのに加入していること、もう一つは保険事項が発生する前や満期の前に解約してしまった場合に戻ってくる解約返戻金が、払った保険料よりも少ないケースがしばしばあることです。

もちろん、保険はもしもの時に必要なリスクヘッジのための商品です。また「保険は形を変えた遺言」という見方もあり、子どもを契約者にして保険料は親が払うケースなど、非課税枠の利用とは別の理由で保険に加入する人もいます。ただ、本当に必要なものを選定しているのか、今一度どんな保険に入っているかチェックしておくことは必要でしょう。

相続対策やりがちな間違い3:小規模宅地の特例は万能だと思っている

相続対策やりがちな間違い3:小規模宅地の特例は万能だと思っている

小規模宅地の特例とは、相続した家に住み続ける人に対しての優遇措置です。相続する住居に住み続けていれば、その土地の評価額を330m2(平方メートル)まで8割減らすことができます。例えば相続税の計算をするときに、本来ならば5000万円の不動産であっても、2割の1000万円で計算されます。

小規模宅地の特例を利用できるケースは、自宅の敷地を相続した者が配偶者の場合や、被相続人と相続人が同居している親族の場合、被相続人に配偶者や同居人がおらず、相続人の子どもが別居していて、3年以上自分や配偶者の持ち家に住んでいない場合(賃貸住宅などに居住している)などが当てはまります。

小規模宅地の特例による節税額としては1000万円単位から億単位に及ぶこともあり、節税効果が高いものです。

では、その節税効果を見込んで、例えば一緒には住まないけれど、子どもが住民票だけ相続した家に移す、ということで小規模宅地の特例を使うことは可能なのでしょうか。

答えは「NO」です。たとえ住民票があってもそこに住んでいる実態がない場合は、小規模宅地の特例は通常、否認されます。「住んでいる実態」があるかどうかは、ガス、電気、水道などのライフラインが使われている形跡があるか、本人宛の郵便物がそこに届いているかといった状況証拠の有無などで判断されます。

実際に住んではいても、いろいろな事情で住民票をそこに移していない人もいるからです。実家を相続するときなどは、「税務は形式ではなく、実態で見るのが基本である」ということを踏まえておきましょう。

相続対策やりがちな間違い4:子や孫名義の預金をする

子や孫名義の預金をする


子どもが生まれたとき、親が子どもの名義で銀行口座を作って貯金をしている、祖父母が孫のために孫の名義で、コツコツ貯金をしている……。よくあるケースですが、相続税対策にはならないことが。

子や孫など親族の名義を借りて、そこに自分のお金を預けることを「名義預金」といいます。この場合、名義は子や孫になっていますが、実態は親や祖父母の預金と同じであるため、相続税の税務調査が入った場合、相続財産とみなされてしまい、税金を支払わなければならないことがあるのです。

原則として「贈与」とは、与える方ともらう方の双方が贈与の事実を認識できていて、なおかつ、もらった側がその財産を自由に使える状態になって初めて成り立ちます。ですから子どものために貯金をした場合、何歳から認識できるのか、何歳から自由に使えるのかという問題になり、非常にあいまいで、法的に確定しづらいのです。

名義預金とみなされないための方法としてあるのが、「贈与税を申告する」ことです。暦年贈与での基礎控除は毎年110万円以下ですから、それを超える金額を贈与して、贈与税の申告をしておきましょう。120万円の贈与では、贈与税は1万円の納税で済みます。

また110万円を超えない場合は、贈与を行った証拠を残すための贈与契約書を作成しておきましょう。

贈与契約書の作成は、本人の署名・実印の押印・印鑑証明書の添付の3点セットである必要があります。本人の署名部分までワープロで作成された契約書や三文判が押印されている契約書などは、いつでも(事後的にでも)、誰にでも作成できてしまうため、証拠能力はなくほとんど無意味です。

 それ以外にも、名義預金とみなされないためにやるべきことを紹介しておきます。

  • 被相続人(親)と、相続人であり名義人(子ども)の銀行印は別のものにしておく。
  • 通帳、キャッシュカード、届出印は名義人(子ども)が管理できる場所に置いておく。
  • 名義人である子どもがいつでも財産を自由に使えるようにしておく。

ちなみに単年の贈与ではなく、計画にもとづく多額な贈与の複数年にわたる分割を実施することを連年贈与といいます。連年贈与をすると「100万円を定期的に10年贈与する場合、最初から1000万円を贈与するつもりだったのだろう? 1000万円の定期金としての評価額に対して贈与税を課税する」と税務署に指摘される可能性があるということが、多くの書籍で紹介されています。

しかし実務上こういった指摘を私自身は受けたことはなく、連年贈与の課税に関する教えは、事実上、有名無実化している観もあります。従って、あまり神経質になり過ぎることはなく、上記の対策を行っていれば特段の心配をする必要はないでしょう。

やりがちな間違い5:夫婦間で贈与をする「おしどり贈与」

おしどり贈与

夫婦間での贈与を行う場合、贈与税の配偶者控除があります。これは別名「おしどり贈与」とも言われ、婚姻期間20年以上など、一定の要件を満たした夫婦が、夫婦間で居住用の不動産または購入用の資金を贈与した場合、最高で2000万円まで贈与税がかからないというものです。

また、贈与税には1年につき110万円という基礎控除枠がありますが、この基礎控除は配偶者控除を適用しても使うことができるため、最大で2110万円も夫婦間での贈与が結果的に課税されずに行えます。

「これは使わない手はない!」と思った方、ちょっと待ってください。

実は夫婦間贈与は、私たち税理士から見ると、ほとんど意味のない対策なのです。なぜなら、一次相続(夫が亡くなったときの相続)の財産を減らすことはできますが、二次相続(妻が亡くなったときの相続)の財産を増やすだけだからです。

つまり、単純に夫から妻に財産が移動したに過ぎず、事実上、節税効果はゼロもしくはマイナスになることもあります。加えて、相続による名義変更費用に比べ、贈与による名義変更費用の方が大きく、コストの割には節税効果が見合わないのです。実際は、夫婦間の精神的な満足感はあっても、節税の意味はほとんどありません。

ただ、夫婦間贈与が有効なケースは一つだけあります。夫婦二人で住んでいる家を、将来的に売却する場合です。居住用の不動産を売却した際に出た利益(譲渡所得)に対し、3000万円までは課税対象から除外できる「3000万円特別控除」というものがあります。夫婦間贈与であらかじめ不動産を夫婦共有にしておくことで、この「3000万円特別控除」を夫婦それぞれが使えるようになるため、売却益が6000万円までであれば、税金がかからなくなります。

いかがでしたでしょうか。良かれと思って勘違いしている方法は意外と多いものです。節税対策に躍起になって、損をしてしまっては本末転倒です。節税対策について迷ったら、相続に強い税理士に相談するといいでしょう。
 

■教えてくれた人■

天野 隆(あまの・たかし)さん

天野 隆(あまの・たかし)さん
税理士法人レガシィ代表社員税理士。株式会社レガシィ代表取締役。公認会計士、税理士、宅地建物取引士、CFP。累計相続案件実績日本一。専門ノウハウと対応の良さで紹介者から絶大な信用を得ている。『この1冊で安心! おひとりさまの終活まるわかり読本 身の回りの整理から葬儀・相続の準備まで』(PHP研究所刊)など著書多数。また、2020年8月より、リモート・非接触で相続の悩みを相談できる業界初のWEBサービス「相続のせんせい」を開始。サイト上で、相続税額を計算できたり、相続でモメる可能性を診断できるチェックを受けられます。https://souzoku-no-sensei.legacy.ne.jp/portal 

■もっと知りたい■


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樋口由夏
樋口由夏

出版社勤務などを経て2008年よりフリーランスライター、エディターとして独立。単行本の編集・構成・執筆などを中心に、雑誌、Webにて主に健康・暮らし・子育て・教育・スピリチュアル関連の編集・ライターとして活動中。3児の母。

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