今月のおすすめエッセー「秘密の時間」めぐみさん
2024.12.312023年02月24日
山本ふみこさんのエッセー講座 第8期第6回
エッセー作品「カラ、カラ、カラ」佐々木はとみさん
随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクのエッセー講座。教室コース 第8期の参加者の作品から、山本さんが選んだエッセーをご紹介します。テーマは「空っぽ」です。佐々木はとみさんの作品「カラ、カラ、カラ」と山本さんの講評です。
カラ、カラ、カラ
喉がイガイガする。
数日前にサクマ式ドロップスの製造終了のニュースを新聞で読んだのを思いだし、スーパーのお菓子売り場の飴コーナーでサクマ式ドロップスの缶を探した。良かった、あと3缶残っていた……1個を手に取って、カゴに入れた。
家に着いて缶を手に取ると、耳元で振っていた。「ガサガサ」とした、まだずっしり入っている音を確認し、その後にキャップの所に貼ってあるシールを取ってから、スプーンで丸いフタをテコの原理で少し持ち上がった程度にしておき、手でフタを真上に引き上げてあけた。
何味が出るのかワクワクして、子どもの頃に戻った。
小さい手の上に飴が1個落ちるようにそっと出す。
沢山入っていると一緒に2、3個出てしまう。飴同士がくっついて出てくることもある。
今のいま、食べたい味って何だろうかなあ―?というワクワク感もある。
そして口に入れてから缶のフタをしめて、又缶を振って音を確かめていた。
この「ガサガサ」「カラカラ」の音を聞くことが好きだった。
どれぐらい残っているかな?どの味が残っているのかな?と想像するのも楽しく、大事に食べていた。
こんなこともあった
おばちゃんからもらったサクマ式ドロップスがあり、友人と遊ぶ約束をした時に外に持って行き、みんなにあげようと思った。
缶のシールを取り、キャップを、見つけた木の小枝で持ち上げて、フタを取ったが少し堅く、力を入れた瞬間に飴が2、3個落ちてしまった。
「あー」と皆で声をあげた。砂が付いていたので、木の小枝で端の方へ置く。
蟻が喜ぶかな?もったいなかったなぁ〜とも思いながら、友だちの手にそっと新たな飴を落とす。
缶を振った時にもう数個しかない音を聞くと、いつも淋しくなる。
でも、最後に好きな飴が残っていると少しうれしい。
空っぽの缶も必ず振ってみる。時に飴の欠片が「かさかさ」音がすることもあるから。
空っぽになった缶は捨てられず、机に並べて、買ってくれた人の顔を思い出していた。
あの頃のそんな思いを忘れてはいけない。と思いながら、舐めた。そしてサクマ式ドロップスが製造終了になる事が淋しい……。
山本ふみこさんからひとこと
もっとも好きなのは、ここです。
蟻が喜ぶかな? もったいなかったなあとも思いながら、友達の手にそっと新たな飴を落とす。
「サクマ式ドロップス」の製造終了はさびしい。けれど、私は思うのです。「そのかわりに、カラ、カラ、カラ」という作品が生まれたのだから、我慢しようと。
山本ふみこさんのエッセー講座(教室コース)とは
随筆家の山本ふみこさんにエッセーの書き方を教わる人気の講座です。
参加者は半年間、月に一度、東京の会場に集い、仲間と共に学びます。月1本のペースで書いたエッセーに、山本さんから添削やアドバイスを受けられます。
募集については、今後 雑誌「ハルメク」誌上とハルメク365イベント予約サイトのページでご案内予定です。
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