今月のおすすめエッセー「庭づくり」富山芳子さん
2024.12.312022年05月02日
通信制 山本ふみこさんのエッセー講座第4期第1回
エッセー作品「私の日曜日、今昔」原エリカさん
随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクの通信制エッセー講座。参加者の作品から山本さんが選んだエッセーをご紹介します。今月の作品のテーマは「日曜日」です。原エリカさんの作品「私の日曜日、今昔」と山本さんの講評です。
私の日曜日、今昔
「烏山の叔母の家に外泊します。」
東京の専門学校での2年間、私は寮生活をしていた。
金曜夜のミーティングで週末の過ごし方を報告する時、友人がよく言うフレーズがこれだった。
「烏山の叔母の家に外泊します。」
烏山に裕福な叔母様がいるらしいその友人は誰だったか忘れたが、その言葉だけが記憶にある。
遠い地方出身の寮生たちは週末を都内の親戚と過ごし、原宿や銀座、帝国劇場での観劇など、都会を満喫して日曜の夕方、嬉々として寮に戻って来た。
私はと言えば、実家は茨城県水戸市。帰ろうと思えば2時間余りで家に着く。
いつでも帰省できるからかえって、週末は東京で過ごすことが多かった。
新宿駅の地下街で激安カレーを食べたり、紀伊国屋で買い物したり、寮の近くを散策した記憶がある。
当時の新宿区中落合は坂道の多い閑静な住宅街で、著名な文化人の住居跡を見つけるなど、ちょっとした旅気分が味わえた。
スマホもない時代、実家には小まめに手紙を書いて、東京の暮らしを伝えた。
寮友たちが出払った静かな部屋で、読書や縫物、アイロン掛け、課題のレポートや手紙を書く穏やかな時間も大好きで、「籠り居をします」と気取って悦に入っていた。
将来、九州に住むとは思いもせず、親元を離れた自由な都会暮らしを「籠り居」で過ごしたなんて、今思うと悔しい。
見たがり、知りたがり、野次馬気質は十分に持ち合わせていたはずなのに、原宿や竹下通りに近寄りもしなかった。歌声喫茶には一度行ったかな。
先輩や友人と、改修前の赤坂離宮迎賓館の見学や日生劇場には行った。
確かなもの、一流のもの、本物を知ることは大切だと教えられていた。
料理や裁縫、工芸などの基本を学び、堅実な家事家計を学ぶ学校だったのだ。
毎日が日曜日に身分になって久しいが、それでも金曜日の夕方は何となく嬉しい。
同居する家族の週末に付き合うわけではないが、平日、仕事や学校へ出かける家族の緊張感がないだけでも、少し気持ちが緩むのだ。
日曜の朝、ラジオ体操をさぼって、ぬくぬくと布団の中にいる。年を取ると朝早く目が覚める、と聞くがそこだけは若者並みで、夜明けが遅ければそれなりに、夢の世界を漂っている。
朝4時ごろ、こむら返りに飛び起きることがある。
常備の漢方薬を飲み激痛は程なく収まるが、その日は自己嫌悪に陥って、粛々と過ごしている。
前の晩の飲酒が過ぎたのだと、罰が下ったのだと神妙に思う。
歩いて買い物に行き、スポーツ飲料を飲み、寝る前のストレッチを真面目に行う。
さて、今日は日曜日。馴染みの温泉に入り、缶ビールを1本だけ、かな。
山本ふみこさんからひとこと
「原エリカ」にとっては、これまでのどの日曜日をとっても、浮かび上がるのは、なんともいえない味わいのある日曜日なのだと思います。
寮友たちが出払った静かな部屋で、読書や縫物、アイロン掛け、課題のレポートや手紙を書く穏やかな時間も大好きで、「籠り居をします」と気取って悦に入っていた。
ここ、特に好きです。この感じ方を持っておられるからこそ、どの日曜日も輝くのでしょうね。そうして、感じ方、受けとめ方というのは、書き手にとって何より大事な姿勢です。
通信制 山本ふみこさんのエッセー講座とは
全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は毎月1回出されるテーマについて書き、講師で随筆家の山本ふみこさんから添削やアドバイスを受けられます。講座の受講期間は半年間。
現在第4期の講座開講中です。次回第5期の参加者の募集は、2022年6月に雑誌「ハルメク」6月号の誌上とハルメク旅と講座サイトで開始予定。
募集開始のご案内は、ハルメクWEBメールマガジンでもお送りします。ご登録は、こちらから。
■エッセー作品一覧■