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- エッセー作品「煙突掃除」かわばたえつこさん
随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクの通信制エッセー講座。参加者の作品から山本さんが選んだエッセーをご紹介します。今月の作品のテーマは「日曜日」です。かわばたえつこさんの作品「煙突掃除」と山本さんの講評です。
煙突掃除
父は、戦争から戻り平和な世の中で、国や会社のために自由に働くことに喜びを感じていた世代だったと思う。
だから仕事に没頭し、帰宅は毎夜遅く、日曜祝日も出かけることが多かったが、仕事をしている父はどこかとても楽しそうに見えた。
昭和30年代の話になるのだが、冬になると家では石炭ストーブを焚いていた。
朝、早い時間に「焚き付け」になる新聞や木片を使って火をおこすのは母の役割だった。
ストーブに石炭を「くべる」ことや、「デレッキ」という火かき棒のことなどは、もう孫の世代には通じない言葉となった。
朝、部屋を暖めることは、スイッチひとつでヒーターが付く今の時代では考えられない、手間のかかる仕事であった。
石炭ストーブを日々使っていると、煙突に煤(すす)が溜まって燃え方が悪くなるので、冬の間2、3度は煙突掃除が必要だった。
高いところからストーブの長い煙突を外して掃除をする作業は、母や子どもたちには難しく、ふだん父には家事をさせない母も、これだけは家長の仕事と思っていたようだ。
煤が落ちないように静かに煙突を外し、外へ持って行って中を専用のブラシで上下に動かし煤を落とす。
どうしても顔や手や洋服に煤が付き真っ黒になる。
終わればそのままお風呂に直行であり、それで一日が終わってしまう。
父が家にいる日曜日は珍しかったので、母は父にしかできないこの仕事を頼む機会を狙っていた。
煙突掃除をする日は、ストーブに火を入れられないから部屋の中は寒かった。
朝から母が「今日はお願いしますね」と何度も父を急かしていたことを思い出す。
ところが父は、なかなか取りかからずに、本を読んだりレコードを聴いたり、近くにふらっと散歩に出たりしていた。
夕方遅くなって、やっとストーブの周りに新聞紙を敷き始めると、家族一同ホッとしたものだ。
早く取りかかってくれれば、母のいらいらも終わるのにと当時の私は思っていた。
でも父は久しぶりの家での日曜日を楽しみたかったのだろう。父だってこれは自分のやるべきこととわかっていたし、そのことで文句を言うようなことはない、穏やかな人だった。
日頃は仕事で忙しく、家族は二の次のように思えたが、煙突掃除をめぐっての母や子どもたちとのやり取りを含め、家族をどっぷりと味わう日曜日、そこで自分を取り戻す時間が欲しかったのかもしれない。
煙突掃除の日、母は父の夕食に刺身をつけ、熱燗が用意された。風呂上がりに美味しそうに日本酒を飲む父の姿が思い出される。
山本ふみこさんからひとこと
文句なく、豊かな、魅力的な作品です。なんて素敵なお父さま、お母さま。なんて素敵な日曜日。
煙突掃除の日、母は父の夕食に刺身をつけ、熱燗が用意された。風呂上がりに美味しそうに日本酒を飲む父の姿が思い出される。
思い出をスケッチするように正確に描きながら、そこに日曜日の豊かさがきっちり置かれたところに感心しました。
通信制 山本ふみこさんのエッセー講座とは
全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は毎月1回出されるテーマについて書き、講師で随筆家の山本ふみこさんから添削やアドバイスを受けられます。講座の受講期間は半年間。
現在第4期の講座開講中です。次回第5期の参加者の募集は、2022年6月に雑誌「ハルメク」6月号の誌上とハルメク旅と講座サイトで開始予定。
募集開始のご案内は、ハルメクWEBメールマガジンでもお送りします。ご登録は、こちらから。
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