今月のおすすめエッセー「庭づくり」富山芳子さん
2024.12.312022年05月02日
通信制 山本ふみこさんのエッセー講座第4期第1回
エッセー作品「豪華で普通の食卓」勝矢和代さん
随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクの通信制エッセー講座。参加者の作品から山本さんが選んだエッセーをご紹介します。今月の作品のテーマは「日曜日」です。勝矢和代さんの作品「豪華で普通の食卓」と山本さんの講評です。
豪華で普通の食卓
渋い錆色がサッとかかってなんとも言えない野武士風情の男前のてっちゃん。
「お久しぶりね」
ええと……秋の移ろいがなよりと漂い、美しさに惚れこんで大事にだいじに譲り育ったあなたさまは京都生れでお嬢様育ちの麗(うらら)さま。
お2人にご登場をお願いしましょうか?
しぐれて寒い夕暮れには温かい食事を作るに限る。
今日は力をいれて作った塩豚シチューの器選びで迷っているのです。
キリリッとしたお味の塩豚がアクセントになって、備前焼の「てっちゃん」には誠にふさわしく極上の一品になりました。
2、3口頂いたら終わり。なんて品よくではなく、タップリ盛り付けていただきましょう。
お上品な麗さまにはまっ白な山芋のすりながしの上に、菜の花のおひたし。
削りたての鰹節をはらりとかけ、むらさき(おしょうゆ)をほんの少しネ。
そして菜の花の黄色の花びらをひとひら。何と美しい盛り付け。
昔、お茶席で愛でていたお茶碗。心込めて集めたお抹茶、お煎茶の茶碗達に語りかけているのです。
使われることなく静まって澄まし顔でいるお道具の数々。
建水(けんすい)には秋に仕込んだ麹みそが出番をお待ちかねです。
小梅の白い花がほころび始めたゆったりとした日曜日の朝。これでおみそ汁を頂いてみた。
器は島津大名家のお庭焼き。お殿様のご登場でござる。
お茶の渋色のタンニンが、使い込んでいるうちにゆっくりと乳白色の器にほんの少し貫入(かんにゅう)(※註)を添えて、なんとも言えぬ上品な品格をかもしだしている。さすがお殿様。
お昆布にたっぷりの煮干しで出汁を丁寧にとる。鹿児島の麦みそにシンプルにお豆腐と深ねぎたっぷりでいただいてみた。
何か不思議にとてつもなく美味しくて涙ぐんでしまった。
ほんのり湯気が頬をかすめた。
使われてこその命。
いろいろのお道具も、普段使いの食器に混じり普通にご飯を盛られ、お野菜のごった煮を盛られ、ぬか漬けを盛られ、日々逞しくなって発見を新たにしている。
春待ち顔の蕗のとうもつくだ煮に姿変え、なつめの器に鎮座している。
お殿さまもてっちゃんも、麗さまも又おたのしみいたしましょうね。今度は野点でね。
「とても美味しゅうございました。」
※註:かんにゅう(貫入)とは、器の焼成時に釉薬(ゆうやく)との差による(ひび)のことで、茶渋などがその(ひび)にゆっくりと入っていくことを「景色を育てる」ともいう。(茶器事典より)
山本ふみこさんからひとこと
料理と器選びのお話です。物語として、しみじみと読みました。
まっ白な山芋のすりながしの上に菜の花のおひたし。削りたての鰹節をはらりとかけ、むらさき(おしょうゆ)をほんのすこしネ。そして、菜の花の黄色の花びらをひとひら。
これは真似させていただきました。
何か不思議にとてつもなく美味しくて涙ぐんでしまった。
ですって。そうでしょう、そうでしょう。
「勝矢和代」という書き手は、生きる意味と楽しみを知る、大事な先輩です。
通信制 山本ふみこさんのエッセー講座とは
全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は毎月1回出されるテーマについて書き、講師で随筆家の山本ふみこさんから添削やアドバイスを受けられます。講座の受講期間は半年間。
現在第4期の講座開講中です。次回第5期の参加者の募集は、2022年6月に雑誌「ハルメク」6月号の誌上とハルメク旅と講座サイトで開始予定。
募集開始のご案内は、ハルメクWEBメールマガジンでもお送りします。ご登録は、こちらから。
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