今月のおすすめエッセー「庭づくり」富山芳子さん
2024.12.312022年04月08日
通信制 山本ふみこさんのエッセー講座第3期第6回
「トゲ抜きなんて久しぶり」きたのふみさん
随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクの通信制エッセー講座。参加者の作品から山本さんが選んだエッセーをご紹介します。今月の作品のテーマは「白いシャツ」です。きたのふみさんの作品「トゲ抜きなんて久しぶり」と山本さんの講評です。
トゲ抜きなんて久しぶり
白いシャツ……白いシャツ……と考えながら過ごしていたせいか、白いシャツが着たくなった。
クローゼットをのぞいてみたが、あいにく白いのはない。
そういえば、シンプルな白いシャツこそセンスが問われるような気がして、うかつに手をださないようにしていたのだ(何度も失敗しているのは、いうまでもない)。
ないのなら、買えばいいのよホトトギス。とばかりに、出かけるわたし。
少なくない学習代(あとから「しまった」とおもった散財を、こう呼んでいる)のたまものか、今回はイイカンジだった。
試着をしてまよったら、保留。そして日をあらためて、気もちの確認。
えらんだのは、ロングシャツ。丈だけ小柄なわたしの、ちょうどひざまでの長さが気にいった。
職場に着ていく。
「やっぱり、冬の白シャツっていいよね。」
「めずらしいね。とっても新鮮。」
なかなかの高評価(?)だ。そうかそうか。高かろうが安かろうが、自分との相性がいいのがいいのだ。
ちなみに30パーセントオフで2500円におつりがきたシロモノである。
「ヨソの家に行きたかったわーー」とおもわれぬように、このコ(シャツ)との縁を楽しもう。
まだ布にハリがのこっているが、しばらくすればもっとわたしの体に馴染んでくれる気がする。
たくさんの修業をへて、買いもの上手になった気がするわ。
すっかり気分をよくしたわたしは、後日また商業施設をさんぽしていた。防寒衣料を手で繰っていたときだった。
アッ。
手をひっこめてみてみると、左手のひとさし指にハンガーのトゲがささっていた。
老眼だし、爪を切ったばかりだったし、その場で解決するのはムリだとさとった。
いっきに冷えた頭の上に声がふってきた。
「調子にのってるんじゃないよ~」
山本ふみこさんからひとこと
日頃、モノとの縁(えにし)を大事にしたいと考えているわたしには、このくだりが、響きました。
「ヨソの家に行きたかったわーー」とおもわれぬように、このコ(シャツ)との縁をたのしもう。
人との縁だって大事です。けれども、人と人は離れても、新しい道を歩けます。
けれど、モノは興味を失ったり、捨てたりすれば……たいていそこで命を終えることになりますもの。
この作品のゆったりとした時間の流れ、ユーモアに拍手しています。
通信制 山本ふみこさんのエッセー講座とは
全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は毎月1回出されるテーマについて書き、講師で随筆家の山本ふみこさんから添削やアドバイスを受けられます。講座の受講期間は半年間。
現在第4期の講座開講中で、次回第5期の参加者の募集は、2022年6月に雑誌「ハルメク」6月号の誌上とハルメク旅と講座サイトで開始予定。
募集開始のご案内は、ハルメクWEBメールマガジンでもお送りします。ご登録は、こちらから。
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