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- エッセー作品「風におまかせ」井野山ひなみさん
随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクの通信制エッセー講座。参加者の作品から山本さんが選んだエッセーをご紹介します。今月の作品のテーマは「白いシャツ」です。井野山ひなみさんの作品「風におまかせ」と山本さんの講評です。
風におまかせ
シャツやズボンの着替えを袋に入れて、2才違いの兄弟を保育園へ連れていく。
それぞれのクラスに備えつけのカゴに着替えを入れる。着替えが足りなければ、先生たちは兄弟のカゴから服をやりくりして、子どもたちに着せてくれた。
洗濯物の枚数は多いけれども、サイズが小さいし、汚れはほどほどに取れればいい。
家事のうちで一番好きなのが洗濯。
洗濯物を干して、空のもとにずらっと並んだ衣類を見ていると、すかっとした気分になる。
兄の中学校入学時に、上着とスラックスの夏用・冬用を1着ずつ、カッターシャツを夏用・冬用2枚ずつ、準備した。シャツはとりあえず2枚あれば足りるだろうと、けちんぼ母さんは思った。毎日洗濯してシャツを用意しなければいけないけれども、そのうち弟に回せる。
白いカッターシャツは、襟ぐり、袖口の汚れが目立つ。
あらかじめ皮脂汚れを落とす洗剤を染み込ませて、袖だたみをして、ネットに入れて洗濯機へ放り込む。脱水できたら、ネットからシャツを取り出し、軽くたたみ直して手のひらにのせ、パンパンとたたく。
ハンガーに吊るした後も両手でピンと伸ばして、乾いたときにしわくちゃにならないように干す。
弟が中学校に入学してからは、この作業が2回。
毎朝、物干し竿で白いシャツが風になびいている様子を見ながら、きょうは学校で何があるのかなあと考えていた。
口数も減って、何を考えているのかさっぱりわからない兄弟2人。機嫌よく行っているのか、何か困ったことはないのか、気をもんでいた。
それでも私が洗ったシャツを身につけて、学校に通っている。
「しんどいこともあるやろうけど元気に通ってや」という気持ちを私はベランダで白いシャツに託していた。
2人とも制服を着なくなって、洗濯機を回すのも2日に1回になった。
子どものために使う時間が多過ぎて、自分の時間がないと焦っていた頃もあったけれども、実はその頃こそ自分自身も充実していたんだなと思うようになった。
風になびきながら、あちこち揺れながら、シャツは乾く。
人生に吹いてくる風にのって、兄弟2人は自分の道を歩いている。
山本ふみこさんからひとこと
「しんどいこともあるやろうけど元気に通ってや」という気持ちを私はベランダで白いシャツに託していた。
母ごころです。このような気持ちの運び方、描き方、とてもいいなあと感心しました。
あふれるような思いがあっても、それをそのまま発するのでなく、静かに坦坦とつづるというのは、書き手のセンスのもっともあらわれるところです。
通信制 山本ふみこさんのエッセー講座とは
全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は毎月1回出されるテーマについて書き、講師で随筆家の山本ふみこさんから添削やアドバイスを受けられます。講座の受講期間は半年間。
現在第4期の講座開講中で、次回第5期の参加者の募集は、2022年6月に雑誌「ハルメク」6月号の誌上とハルメク旅と講座サイトで開始予定。
募集開始のご案内は、ハルメクWEBメールマガジンでもお送りします。ご登録は、こちらから。
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