「おさかな事情」
エッセー作品「おさかな事情」原エリカさん

公開日:2021年11月29日

通信制 山本ふみこさんのエッセー講座第3期第2回

エッセー作品「おさかな事情」原エリカさん

エッセー作品「おさかな事情」原エリカさん

随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクの通信制エッセー講座。参加者の作品から山本さんが選んだエッセーをご紹介します。今月の作品のテーマは「卵」です。原エリカさんの作品「おさかな事情」と山本さんの講評です。

おさかな事情

近くのディスカウントストアに行くのが楽しみだ。
鮮魚コーナーの新鮮な魚介を眺めながら、刺身や魚卵を選び、買うことが出来る。
海が近いこの町は、釣り好きの知人も多く獲れたてのチヌやイカ、アジなどを頂くことも珍しくない。

嫁いできた頃は、行商のおばさんが魚の先生だった。
門の前に止めたリヤカーの上でカワハギの皮を剥ぎ、イワシやキビナゴの手開きを実演してくれた。
おかげで小魚から鯛やブリなど大きい魚まで、料理に応じた切り分け方が出来る私になった。

行商のおばさんをいまはもう見かけないが、スーパーやディスカウントストアで、鱗や内臓を処理した魚が安く買えるのは嬉しい。
私の行く店は、売り場奥に調理場が見える。
ガラス越しに白衣のスタッフが魚を捌(さば)くのが見え、売り場に魚が並ぶのだ。

若い世代の魚離れが嘆かれて久しいが、魚の栄養は頭が良くなり、健康長寿に必要だという情報も少なくない。
3世代同居の我が家では肉料理に交じって、刺身や焼き魚、煮魚が並ぶことがよくある。

幸いなことに娘婿が釣り好きで、休日は家族連れで釣りに出かけてくれる。
この夏は海辺のキャンプで貝を獲り、銛(もり)で魚を突いて、海鮮バーベキュウを楽しんできた。
孫たちも海に潜って銛を構えたと自慢気に話す。
自分で獲った魚は「うまかった」らしい。
持ち帰った魚も取り合うようにして食べた。
小さい子が魚を食べてくれると、何だか嬉しい。

娘と私は魚卵が好きで、店に並んでいればつい買うし、釣ってきた小魚の卵も大切に煮付ける。
魚卵はコレステロール値が高く、食べ過ぎると痛風になる、と聞くが毎日食べるわけではないし、と買い求める。
鯛の卵は大歓迎だが、コノシロ、イワシ、アジなどの小魚の小指ほどの卵のトレーも買い込む。
ふっくらとした白子も見逃さない。

娘は夕食の支度をほぼ終えると、
「台所、空いたよ」
と声をかけてくれる。
煮つけは私の担当だ。
簡単なので娘にも出来るのに、
「お母さんの味はまねできない」
と出番を作ってくれるのだ。

大きめの魚卵は薄皮の袋に切り目を入れておくと煮上りが早い。
小鍋に少量の淡口醤油、酒、水を入れて沸々としてきたら、卵や白子を入れて炒り煮のようにして火を通す。
煮汁を少なく、焦げ付かないよう、鍋を傾けて汁溜まりに魚卵を集めて煮る。
火を止めてから生姜のしぼり汁をかけ香りを立たせる。
ぜいたくな小鉢の完成だ。

娘時代は「魚が見ている」と流しの前で怯えた私が魚卵を煮ている。
亡き母は何と言うだろうか。

 

山本ふみこさんからひとこと

作家「原エリカ」が描きたかったのは、家族の情景です。

登場人物は娘婿どの、孫たち、娘、亡き母。

この顔ぶれを描くと甘くなりがちです。
「おさかな事情」の読み心地がよいのは、「お母さんの味はまねできない」というような場面で立ち止まらず、どんどん先に進むところです。
読者を設定して、誰にもわかるように、さりげなく説明しながら書く必要があります。 

主旋律の家族の情景と、副旋律の魚事情がうまいことからみあって、おいしそうなこと。

ごちそうさまでした。

 

通信制 山本ふみこさんのエッセー講座とは

全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は毎月1回出されるテーマについて書き、講師で随筆家の山本ふみこさんから添削やアドバイスを受けられます。講座の受講期間は半年間。

現在第3期の講座開講中です。次回第4期の参加者の募集は、2021年12月に雑誌「ハルメク」の誌上とハルメク旅と講座サイトで開始予定。募集開始のご案内は、ハルメクWEBメールマガジンでもお送りします。ご登録は、こちらから。


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ハルメク旅と講座
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