クロスステッチの話と「玲子さん」のこと

2021年03月26日

イラストレーター西村玲子さんを偲んで

クロスステッチの話と「玲子さん」のこと

創刊当初から雑誌編集に携わってきたハルメク編集部・岡島。2021年1月24日にイラストレーターの西村玲子さんが亡くなられました。「ハルメク」でも連載をしてくれていた玲子さんの思い出、そして取材で伺った言葉の数々を振り返ります。

今夜もちくちく、クロスステッチ

今夜もちくちく、クロスステッチ
刺しゅう糸って見ているだけでワクワクします。色鉛筆も12色入りだとそうでもないですが、
50色セットとか見ると「うわーっ」とテンションが上がります

ある日、ふと「クロスステッチをしてみたいな」と思いました。思い立ったが吉日なので、週末、手芸屋さんに行って小さなクロスステッチのキットを買い求めました。必要な刺しゅう糸と飾るためのフレームがセットになっているキットです。さっそく家でちくちく刺していたら、夫に「どうして急に?」と聞かれました。確かに、どうして急に思い立ったんだろう……。

クロスステッチの記憶と言えば、小学3年生の夏休みの自由工作の宿題で、母親に促されて壁飾りを作ったというものだけ。それ以来、やったことはなかったのですが、今回ちくちくしていくうちに、刺し方順序や刺しゅう糸の針の通し方――。「刺しゅう糸は舐めてとがらせちゃいけないのよ」と母が教えてくれたことなど、いろいろ思い出しました。

色のマスをどう埋めていけば効率的かしら。次は何色の刺しゅう糸にしようかな。クロス布の穴にきれいに針が通ると気持ちがスッキリするなぁ――。9歳の私も47歳の私もおんなじことを考えてました。なんだかジグソーパズルやクロスワードパズルをしているときのように楽しくて。

そういう小さな満足感って、けっこう日々の暮らしの励みになるんですね。我が家は子どもたちが寝た後、食器洗いと洗濯物干しと洗濯物たたみを、夫婦でなんとなく分担してやります。夫と違って私は小ずるいので、楽な方はどっちかなー、夫はどっちから始めるのかなーと様子をうかがいながら手を付けるんですね。でも今は、夜、ステッチする時間がほしいので、自ら積極的に家事に手を付けるようになりました。

そして、小さい作品が2週間ほどで完成したので、調子に乗ってもっと大きなキットを求めてしまいました……。飽きないうちに完成させたいです。

西村玲子さんの遺してくれた、素敵な言葉たち

西村玲子さんの遺してくれた、素敵な言葉たち

色鉛筆……先日(2021年1月24日)逝去されたイラストレーター西村玲子さんのデスクには、驚くほどたくさんの色合いの色鉛筆がありました。2019年の初夏に玲子さんのご自宅に取材に伺ったときのメモを読み返していたら、たおやかに、かわいらしく座って、取材を受けてくださった玲子さんのことが思い出されました。

取材、というより、お茶を飲んでおしゃべりをしてきた、という感じでした。メモから抜き書きしてみます。

玲子さんの手芸作品

玲子さんのおびただしい手芸作品のほんの一部。若い頃からためていた布を組み合わせて、
縫っていると時間を忘れたそうです

「この頃ちょっと昔風のエレガンスというのが気になるようになりました。世界中からエレガンスという感じがなくなってるから(笑)」

「最近、パンツの方が多いですが、私は、ふわっとしたワンピース、スカート、好きですよ」

「暇さえあれば、針仕事が楽しくて。端のほつれなんかも、もうどうでもいいの」

「ほんとはきちっと、まっすぐに縫いたいんだけどね(笑)。でも結果的にはこうなった方がかわいい。みんな本を見たりして縫い方とか学ぶんだろうけど、私は見よう見まね」

「自分がいいと思うようにやるのがいい。何に関してもそうです。料理もね。料理は失敗が多いけど。レシピとかルールとかの通りに作ることはないの。失敗を恐れないのね」

なんて素敵な生き方、暮らし方をされた方だったでしょうか。

ハルメクでは、過去にはエッセーを連載していただいたこともありました。1冊にまとまっています。

『西村玲子のていねいだけど軽やかな暮らし』(ハルメク刊)
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岡島文乃
岡島文乃

いきいき・ハルメク歴22年、2人の小学生姉妹あり。夫もハルメク関係者。両親も長らくのハルメク読者。思えば私の人生は、いきいきとハルメクでできています。

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