国家権力が闇に葬る犯罪を暴く勧善懲悪ドラマ最新版

綾野剛「アバランチ」映画並みの映像と展開に大注目

公開日:2021.11.01

更新日:2021.11.01

同世代コラムニストの矢部万紀子さんのカルチャー連載。今回は、2021年10月18日から月曜の夜10時に放送中のテレビドラマ「アバランチ」を取り上げます。

リアルタイムで見たい!手に汗握るストーリー

ドラマは録画して見ることが多いのですが、このドラマはリアルタイムで見ました。CMになり、ふっと息を吐き、「あ、私、手に汗握ってる」と思いました。「アバランチ」(月曜夜10時、カンテレ・フジテレビ系)、すごいドラマです。

ざっと説明すると、アバランチはグループ名です。構成メンバーは4人。2人は元警察官(綾野剛&田中要次)、あとは元自衛隊員(高橋メアリージュン)と天才ハッカー(千葉雄大)。4人を束ねるのが警視庁特別犯罪対策企画室で、そこにいる2人は元内閣情報調査室員(木村佳乃)と捜査一課から左遷されてきた巡査部長(福士蒼汰)。この2人プラス4人で、国家権力が闇に葬ろうとする犯罪を暴いていくというのが大きな枠組みです。

4人にそれぞれ得意分野があり、綾野剛&高橋メリージュンはとんでもなく強いです。田中要次は普段はおもちゃのお医者さんをしていますが、暴力団情報に精通した昔気質の元刑事です。ここに千葉雄大=ハッカーがいるところが今どきで、犯罪者を最後に裁くのも全世界にインターネットで生配信される「映像」なのです。

初回は巨大企業グループのトップ、2回目は大物政治家がターゲットになりました。初回、スマホで映像を見つめる人々が映り、ハッカーが「起きてるよ、雪崩」と言いました。アバランチはフランス語で雪崩。拡散する情報は後戻りさせられない、どんな権力者でも。今のところ、そんな意味かと推測しています。

早い展開のストーリーだけでなく映像が見どころ

これだけでも、なんだか面白そうですよね。早い展開、6人それぞれにありそうな秘密、すぐ隣のアバランチをつぶそうとする勢力、それもわかりやすかったり、思わぬところだったり……。これからますます面白くなる予感です。けれど私が一番ひかれたのは、映像でした。

視点の切り替わりが早く、ドキドキ感が増すのです。初回の冒頭を再現してみます。
 
ドローン映像で闇夜に浮かぶ古いビル、静かに1台の車が近づいています。何か不吉。と思った瞬間、車から人が出てくる映像に変わります。誰かが拉致されている。そうわかると、人質目線になります。古いビルの階段を、見ているこちらも上らされている。そういう気持ちでいると、ふいにビルの窓が映ります。視線がググッと動かされます。「情報通りです、奴らに間違いありません」という声がして、捜査している人がいるとわかった瞬間、画面は警察官が乗り込んでいるボックスカーの中に。そこにいる1人が綾野さん。

と、こんな感じです。これは映画だなあ、と思いました。視点が広く、濃密です。で、調べてわかったのですが、このドラマには監督が3人いますが、そのうちの1人藤井道人さんは、あの映画「新聞記者」の監督でした。ドラマの最後のクレジットには「監修」として名前が出るので、全体を統括しているのでしょう。

映画「新聞記者」でも描かれた”権力の不気味さ”

望月さんの著書『新聞記者』が原案となって映画化されたヒット作「新聞記者」Ⓒ2019「新聞記者」フィルムパートナーズ
Ⓒ2019「新聞記者」フィルムパートナーズ

「新聞記者」はミニシアター系の映画ながら大ヒットし、数々の賞も受賞したのでご覧になった方も多いことでしょう。東京新聞・望月衣塑子記者の著書『新聞記者』を原案にした、社会派サスペンス映画です。私は元新聞記者なので、興味をもって見にいきました。新聞記者より、「権力」の不気味さを描いた作品だと感じました。都合の悪いことを隠す、それどころかなかったことにしようとする権力。その一員でありながら疑問を感じ、もがく官僚の葛藤が描かれていました。

「アバランチ」も権力の不気味さを描いています。その象徴として内閣情報調査室が描かれ、そこで働く官僚たちが冷酷そうなのも一緒です。ただし「アバランチ」には、悪を懲らしめる痛快さもあります。もちろん「一件落着」にはならず、2話でもうアバランチをめぐる不穏な空気が流れ、ドキドキしています。

暗めの画面が多い中、綾野さん演じる元刑事が時々「軽さ」も見せてくれます。若い刑事の福士さんを「おセンチなのかー、おセンチイケメンなのかー」とからかうセリフ、私は大好きでした。

リアルタイムで見たことを最初に書きました。録画で見るよりドキドキしたのは、「画面の向こう」とつながっている感じなのだと思いました。録画機能などないテレビで、「太陽にほえろ!」を夢中で見た中学時代を思い出しました。今から思えば、ツッコミどころ満載の刑事ものです。でも大好きでした。遠い昔のドラマを、超今どきのドラマで思い出し、何だかちょっとおかしくなりました。
 

矢部万紀子(やべ・まきこ)
1961年生まれ。83年、朝日新聞社に入社。「アエラ」、経済部、「週刊朝日」などで記者をし、書籍編集部長。2011年から「いきいき(現ハルメク)」編集長をつとめ、17年からフリーランスに。著書に『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』(ちくま新書)、『美智子さまという奇跡』『雅子さまの笑顔 生きづらさを超えて』(ともに幻冬舎新書)

イラストレーション=yoritomo

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矢部 万紀子

1961年生まれ。83年朝日新聞社に入社。「アエラ」、経済部、「週刊朝日」などで記者をし書籍編集部長。2011年から「いきいき(現ハルメク)」編集長をつとめ、17年からフリーランスに。著書に『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』(ちくま新書)『美智子さまという奇跡』『雅子さまの笑顔』(幻冬舎新書)

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