ドラマ「大豆田とわ子と三人の元夫」を見終えた感想は

人生に後悔は不要!「大豆田とわ子」描いた寂しさの先

公開日:2021.06.18

コラムニストの矢部万紀子さんのカルチャー連載。今回は名脚本家・坂元裕二作品ということで大注目だった「大豆田とわ子と三人の元夫」の最終回を迎えた感想です。離別・死別・一人暮らし、寂しさを描くドラマながらも前向きな気持ちになれた理由とは?

「大豆田とわ子と三人の元夫」を振り返ります!

ドラマ「大豆田とわ子と三人の元夫」(関西テレビ系)が6月15日に最終回を迎えました。「期待しかない」とハルメクWEBで紹介してから2か月、見終えてこう思いました。生きるって寂しいけど、前へ進んでいくぞ、おー。

前半は、3人の元夫(結婚した順番に松田龍平さん=田中、角田晃広さん=佐藤、岡田将生さん=中村)と松たか子さん演じる大豆田とわ子とのコミカルな会話で進みました。が、折り返しの6話、調子が一転。とわ子の親友、かごめが死んでしまうのです。

かごめは器用に生きられない人だと、演じる市川実日子さん登場の瞬間にわかりました。ひょうひょうとしていたかごめが、次第に自分の不器用さを語るようになりました。そして、「小学生の頃に描いていた漫画をもう一度描く、描いたら『りぼん』に応募する」と宣言。描き上げたのに、死んでしまうのです。

病名なども語られず、やりきれない思いになりました。そしてかごめの死でドラマは、「寂しさ」へと大きく舵を切ります。7話、とわ子は一人暮らしになっていました。娘の唄が高校進学を機に、祖父母の家に引っ越したのです。

 

「寂しさ」がテーマの後半、オダジョーとの恋愛はどうなの!?

 
そしてとわ子は、ある男性と出会います。素性はわからないけど、お互いに数学が好きという共通点が判明、次第にひかれ合う展開でした。オダギリジョーさんが演じる小鳥遊(たかなし)という男性で、素性がわかります。とわ子が社長を務める住宅建設会社を買収した外資系ファンドの一員で、とわ子に社長退任を迫るのです。

小鳥遊はそれでも「プライベートは別」と、とわ子にぐんぐん接近、過去を語ったりします。ヤングケアラーだったこと、数学のこと……とわ子も小鳥遊にひかれていく。そんな様子が描かれました。

えー、そうなの? ハテナが頭に灯りまくりました。とにかくオダギリさんがカッコよすぎて、とわ子がカッコいい男にひかれているとしか思えません。そんなの、なんかとわ子じゃない! でも唄は母の恋を応援します。「ママは、自分が思ってるほど、強くないよ」。

わかります。わかるけど、違和感ありまくり。そして、それを断ち切ってくれたのは、やはりとわ子でした。ファンドを離れて、マレーシアに行く。一緒に行かないかとプロポーズされたのですが、別れを選んだのです。

 

寂しさを埋めることと愛することは違う

その足で、とわ子は最初の夫・田中の経営するバーに行きます。素敵な人だと思っていた人と別れてきた。とわ子がそう言うと、田中は「もったいないことをしたね」と答えます。すると、とわ子はこう言うのです。「でも、しょうがない。欲しいものは自分で手に入れたい。そういう困った性格なのかな」。

心のすきまに、誰かが入ってくることもあります。でも、寂しさを埋めることと、愛することは違う。それがとわ子の結論だったと思います。とわ子は田中のことが本当は好きなのです。そのことも口にします。でも、はしょりますが、田中はかごめに恋をしていたことがありました。だから、とわ子はかごめの名を出さずにこう言います。「今だって、ここにいる気がするんだもん。三人いたら恋愛にならないよ。いいじゃない。こうやって一緒に思い出してあげようよ」。

最終回で描かれたのは、とわ子の死んだ母・つき子の寂しさでした。つき子が出さなかったラブレターをとわ子が見つけるのです。國村真という人宛で、夫と子どもの世話だけの暮らしより、あなたの所に行きたいと書かれていました。

とわ子と唄が國村さんに会いにいきます。その人は女性で、風吹ジュンさんが演じていました。つき子との出会いを語る國村さんに、唄は「恋人だったの?」と尋ねます。國村さんは「素直にそう言えるって素敵だね。ありがとう」と答えます。
 

大豆田とわ子が伝えたメッセージは

自分の歩いてきた道は、自分の決めたことの積み重ね。だったら後悔なんてする必要なし。それがこのドラマのメッセージだったのかなと思います。國村さんは小さなアパートで、明るくおしゃれに暮らしていました。國村さんに会ったというとわ子に、父も思いを語りました。寂しいけれど、しみじみとした話でした。

3人の元夫も、とわ子も、かごめも、小鳥遊も、みんな寂しさを抱えています。でも、前を向いています。強さにあふれてなどいないし、悩み悩みですが、前は向いています。坂元さんの「今」をとらえる感覚の鋭さを堪能しました。だって、ただでさえ寂しいのが人生なのに、コロナ禍で孤独感ましましです。だからトータルして明るい調子が心地よかった。そういうドラマでした。

最終回、三人の元夫はとわ子の家に集まり、「大豆田とわ子は、最高だってことだよ」と言います。女の勲章? いえいえ、人生の勲章でしょう。そんなふうに思ったエンディングでした。

矢部万紀子
1961年生まれ。83年朝日新聞社に入社。「アエラ」、経済部、「週刊朝日」などで記者をし、書籍編集部長、11年から「いきいき(現ハルメク)」編集長をつとめ、17年からフリーランスに。著書に『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』(ちくま新書)、『美智子さまという奇跡』『雅子さまの笑顔 生きづらさを超えて』(幻冬舎新書)

イラスト=吉田美潮

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矢部 万紀子

1961年生まれ。83年朝日新聞社に入社。「アエラ」、経済部、「週刊朝日」などで記者をし書籍編集部長。2011年から「いきいき(現ハルメク)」編集長をつとめ、17年からフリーランスに。著書に『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』(ちくま新書)『美智子さまという奇跡』『雅子さまの笑顔』(幻冬舎新書)

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