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- エッセー作品「花がるた」ふじいみつこさん
「家族」をテーマにしたエッセーの書き方を、エッセイストの青木奈緖さんに教わるハルメクの通信制エッセー講座。参加者の作品から青木さんが選んだエッセーをご紹介します。ふじいみつこさんの作品「花がるた」と青木さんの講評です。
花がるた
お正月には、決まりのようにおせちを食べた後、父の声掛けで百人一首をして花がるた(花札)をした。
その度に「もうみつことするのは嫌だ」と家族中から言われた。
負けず嫌いの私は、大抵途中から膨れ面をして拗ねて、最後には泣き出すのが常だった。
みんな に嫌な思いをさせているのが子どもながらにわかっていたが、どうにもならなかった。
だから、百人一首は兄達に負けないように必死にとった。
でも花札はそうはいかなかった。
父や兄達に「役」で負かされ、その度に悔しくて不機嫌になった。
そのくせ花札が大好きで、自分から何度もみんなを誘うのだった。
実家は冬になると雪に閉ざされた。
山仕事をしていた父の仲間衆が、正月明けになると我が家に集まって花札を楽しんでいた。
幼い私は、父の横でその光景を見るのが好きだった。
お酒で赤ら顔をしたおじさん達が、それは愉快そうに札をめくり、大笑いするのだった。
時々私も札を引かせてもらった。
母も忙しそうにお酒の用意をしたり、時にうどんやそばを出してお客をもてなしていた。
大変そうなのに、母も嬉しそうだった。
祖母が顔を出すと、若い衆はみんな祖母と話をしたがった。
「おばの作る鯖寿司はうまいなぁ」
祖母を母のように慕うおじさん達が可笑しかった。
そんな賑やかで幸せな宴席の中、私は隣の部屋で眠った。
みんなの笑い声が心地よかった。
いつから私は花札で負けても泣かなくなったのだろう。
悔しくても泣けなくなったのはいつからだろう。
笑ってごまかすようになったのは……
結婚して初めての正月、実家に主人と帰省したら父が早速主人に花札を教えた。
両親と主人と私、4人で花札をしていた時、急に母が
「ひろしさん、みつこはなぁ負けるとよぉ泣いてなぁ」
「そうや、みつこは負けず嫌いですぐ拗ねて」
と父まで言い出した。
すかさず主人が「今でもそうです」と言い返したので大笑いになった。
日が暮れるのも忘れて4人で楽しんだ。
負けて悔しい気持ちは少しも変わっていなかった。
あれから40年、父や母はもういない。
今年久しぶりに花札をしようと主人と私、どちらからともなく言い出した。
3勝8敗、私の負けが続く。
勝つと主人が大げさに喜ぶ。まるで私の負けず嫌いを挑発しているようだ。
そして子どものように声を出して笑う。主人のこんな顔久しく見ていない。
あっ、あの時の山師のおじさん達の愉快そうな顔と一緒だ。
私は勝つのを、泣くのを、あきらめたのではなく、勝った人の笑顔に満足したのだ。
雪で閉ざされた幼い頃の幸せな瞬間を思い出した。
記憶の中 の父や母、おじさん達は笑っていた。
私も笑おう。もっともっと笑おう。
誰かの記憶に笑顔の私が残るように。
そして、あきらめずに明日も主人と花札の続きをしよう。
青木奈緖さんからひとこと
雪に閉ざされた家の中で、大人たちがお酒を楽しみながら花札に興じる様子、それを楽しげに眺めている著者の心の内がとてもよく描かれています。兄弟姉妹でゲームをしていると、年齢差のある末っ子は嫌でも「負けず嫌い」にさせられてしまうところもありますね。
「なつかしい」とは書かずに、行間からなつかしさがあふれ出ています。
ハルメクの通信制エッセー講座とは?
全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は毎月1回家族の思い出をエッセーに書き、講師で随筆家の青木奈緖さんから添削やアドバイスを受けます。講座の受講期間は半年間。
ハルメク365では、青木先生が選んだ作品と解説動画をどなたでもご覧になってお楽しみいただけます(毎月25日更新予定)。
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