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- エッセー作品「お茶の時間」綱則子さん
随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクの通信制エッセー講座。参加者の作品から山本さんが選んだエッセーをご紹介します。今月のテーマは「お茶」です。綱則子さんの作品「お茶の時間」と山本さんの講評です。
お茶の時間
「お茶にしようか。」
3時には決まって台所に立って湯を沸かす母だった。
コーヒーだったり紅茶だったり、寒い時期はココアを飲みながらのお茶の時間の最後は、決まって母の昔話。
「米どころ」の越前平野の百姓の家に生まれた母は、いずれは百姓の家の嫁に出されるに決まってる。
母はそれがいやで、「大阪で働きたい。」と、おばに相談したところ、家政婦として働いていたおばは、たちまち洋装店の勤め先を見つけてくれた。
住み込みで、洋裁を教えてもらえる、しかも給料ももらえるというのだ。いい話ではないか。
そこで、祖父(母にとっては、父である)にどう話を切り出すか。祖母とおば2人は作戦会議で智恵を絞った。
ここからドラマが始まる。
「大阪のおばの所に遊びに行く。」と祖父に告げて、母は一人で家を出る。
祖母は全て承知で、母を送り出す。
後日、事の次第を知って、祖父は激怒。
「籍をぬいてやる。どこへでも行け!」と言ってしまった祖父。
「待ってました。」と、祖母は、かねてから準備してあった荷物を、すぐさま大阪に送った。
祖母と、おば達と母の似た者姉妹息の合ったミッション成功といったドラマのラストは、母の兄の、 「本人の好きにさしてやったら。」
のひとことで、祖父も振り揚げた「こぶし」をおろしたということだ。
仏間での読経を毎日続けていた祖父は、この朝夕の「おつとめ」を、家族にも強いた。
食事中のマナーについても、その他、諸々、厳しく、よく叱られたと母。
そんな堅物の祖父だったが、漢詩の勉強は長く続けていたことを、母は何度も褒めていた。
祖父のお茶の時間は、昔から、玉露だったらしい。
山本ふみこさんからひとこと
お茶の時間からの、昔語りです。
登場人物ひとりひとりの個性が際立って、どきりとします。おおげさでないところに、惹かれました。
ここからドラマが始まる。
という合図のような1行の立て方、見事です。
通信制 山本ふみこさんのエッセー講座とは
全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は毎月1回出されるテーマについて書き、講師で随筆家の山本ふみこさんから添削やアドバイスを受けられます。講座の受講期間は半年間。
募集については、今後 雑誌「ハルメク」誌上とハルメク365イベント予約サイトのページでご案内予定です。
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