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- エッセー作品「お茶の時間」伊藤いづみさん
随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクの通信制エッセー講座。参加者の作品から山本さんが選んだエッセーをご紹介します。今月のテーマは「お茶」です。伊藤いづみさんの作品「お茶の時間」と山本さんの講評です。
お茶の時間
「お茶にしましょう」。
そう言われるとほっとする。
何を飲むかよりも、いったん仕切り直しという気分になるのがいい。
会話をする時もそうだ。お茶を頂きながら話ししたほうが、ただ面と向かって話すよりも、打ち解けた感じになる。
「あの人たち、別れたんですって」。
そんな話が出てくるのもお茶の時間だ。お茶は、気持ちとともに口を緩ませる。
元々は、お茶を飲んだ後、作業の効率が良くなったことから、3時のお茶の時間が定着したらしい。
確かにお茶を頂いたあとは、肩の力が抜けて、もうひと頑張りするか、という気持ちになる。
お茶の時間はあったほうがいい。
若い頃、茶道をならっていた。
当時のわたしは、茶道がとても堅苦しいものに感じていて、苦いお抹茶よりも、今日のお菓子は何かしら、とそんなことばかり考えていた。
先生からは「一つ一つの所作をゆっくりしましょう。急ぎすぎです。」とよく注意されたっけ。
ふり返ると、ふくさを丁寧に扱ったり、コポコポ、と茶釜から湯をゆっくり注ぐのは、心落ち着かせる必要な段取りだったのかしらと、今ではおもう。
お菓子が主役ではなく、お茶があってこそのお菓子だったのかしら、とも。
いまでも、お茶は欠かせない。特に寒い季節には日に何度も湯を沸かす。
朝食には紅茶を。お昼時にはほうじ茶。
3時にはハーブティーを作り、夜にはルイボスティーを淹れたりして、お茶の棚は、そのほかいろんな種類の茶葉でいっぱいだ。
ゲームに夢中な年頃の息子から、その胸の内を聞き出す時は、彼の好きなダージリンの紅茶を淹れてから話題に触れる。
「実は学校の単位が……」と少しだけ悩みを話してくれることもある。
紅茶の香りが、彼の心をそうっと緩ましてくれるのかもしれない。
アールグレーの紅茶を、大きいカップでちびちびと長時間かけて飲む夫。
せっかちな夫には、どうやら仕切り直しの紅茶が大量に必要なのであろう。
時には口を緩ませたり、時には心落ち着かせたりするお茶は、安定剤のように我が家には必要不可欠なアイテム。
棚にはお茶の缶が今後もますます増えそうだ。
山本ふみこさんからひとこと
紅茶の香りが、彼の心をそうっと緩ませてくれるのかもしれない。
とありますが、作品もそうです。
静かに、正確に綴られた作品を読むと、張りつめた気持ちがやわらかくなります。
それにね、書くことによっても、気持ちがやわらかくなるのです。いま、そんなふうに思えない皆さんも、きっといつかそうなります。
「伊藤いづみ」という書き手は、そう実感していると信じられます。
通信制 山本ふみこさんのエッセー講座とは
全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は毎月1回出されるテーマについて書き、講師で随筆家の山本ふみこさんから添削やアドバイスを受けられます。講座の受講期間は半年間。
募集については、今後 雑誌「ハルメク」誌上とハルメク365イベント予約サイトのページでご案内予定です。
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