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随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクの通信制エッセー講座。参加者の作品から山本さんが選んだエッセーをご紹介します。今月のテーマは「お茶」です。いとうきこさんの作品「はずむ」と山本さんの講評です。
はずむ
叔母を亡くした。
叔母は85歳。歳に不足はない。そう思っていたはずだったが、葬儀のあとにどっと喪失感が押し寄せた。
家事も趣味も何もしたくない。
部屋は散らかり、食事も作る気がしなかった。
アメリカ在住の妹が3週間の滞在予定で帰国した。
妹は、叔母の家の片づけをしようという。
叔母の家は車で1時間離れたところにある。桜咲く春の道をゆっくりと向かった。
「おばあちゃんとおばちゃんが大事にしていた急須と茶碗があるよ。持ち帰る?」
妹はテキパキと片づけをしながら、形見の品を物色する。
「持ち帰る」
祖母と叔母はお茶に凝っていたので、いい茶器を持っていたのである。
「お茶は最後の1滴にうまみがあるから、最後までじっと待つものだよ」
「複数いれるとき少しずつ注いで、同じ緑色になるようにするといいよ」
叔母の家に行くと、祖母は身内の私にさえ客用の茶器でお茶を出してくれた。
そのとき、いれてくれたお茶は甘くいい香りがした。
私が使っていたガラス製の急須は中身が見えて便利だ。
茶渋で注ぎ口が濁ってからは、沸騰したお湯をいれてブルブル振って色を出すという雑な扱いをしてきた。
友人からプレゼントされた高級な食器は箱に入ったまま。
父が買ってくれたティーセットは納戸の中にうずもれている。
服もしかり。家ではジャージ姿だ。
「もったいないと思わずに、いいものを使えばいいよ。道具も喜ぶよ」
妹はこう言い残してアメリカに発った。
祖母の急須と茶碗を使い出してから、私は蒸らす時間とお湯の温度に気を遣うようになった。
味も色も香りもちがう。お茶が、おいしい。
ペットボトルのお茶が売れているという。緑色を出せるようになり、私もしばしば飲んでいる。
ペットボトルで飲めるから、急須を持っていない人もいるそうな。
そう聞いても、やはり私は急須でいれたおいしいお茶をいただくと、はずむ。
山本ふみこさんからひとこと
聞くところによりますと、半年のあいだに、叔母さまばかりでなく、お父さまも亡くされたとのこと。どんなにお大変であったことでしょう。
この作品を読ませていただき、「書く」世界に身を置いておられたことが支えになったのではなかったかと、思いました。
「もったいないと思わずに、いいものを使えばいいよ。道具もよろこぶよ」
という妹さんのことばも、こうして書いておくと、こころが定まりますもの。
よく書かれました。
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通信制 山本ふみこさんのエッセー講座とは
全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は毎月1回出されるテーマについて書き、講師で随筆家の山本ふみこさんから添削やアドバイスを受けられます。講座の受講期間は半年間。
募集については、今後 雑誌「ハルメク」誌上とハルメク365イベント予約サイトのページでご案内予定です。
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