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「家族」をテーマにしたエッセーの書き方を、エッセイストの青木奈緖さんに教わるハルメクの通信制エッセー講座。参加者の作品から青木さんが選んだエッセーをご紹介します。中込佳子さんの作品「かるた遊び」と青木さんの講評です。
かるた遊び
今から6、70年前のこと。我家では例年正月の三ヶ日から5日位まで百人一首で遊んだ。
父と母子供4人の6人家族で読み手は大抵父と母が交替で。
時に源平合戦の団体戦でも競ったが、その時は読み手のいる組が少し不利になる。
そこで公平を期す為にカセットテープが登場した。予め録音しておく。
誰もが得意で絶対他人に取られたくない札を2、3枚持っている。
そんな中で下句100枚をざっと広げてみると、誰の目にもとびきり汚く黒く汚れた札が1枚あった。
「まだふみもみずあまのはしだて」。
小式部内侍の歌「大江山いく野の道の遠ければまだふみもみず天の橋立」だ。
この札の汚いのには少し理由がある。
その頃から遡ること数年、子供向けの映画で「笛吹童子」というのがあった。
あの東千代之介や中村錦之助が萩丸菊丸の兄弟役で主演。その中に霧の小次郎という妖術使いが出て来る。霧の小次郎は丹波の大江山に住まいする。
当時私は勉強などそっちのケで、6才年下の弟を連れて3部作のその映画を観に何度も何度も映画館に通った。3回目にはほとんど台詞を覚えていた程だ。
こんな経緯で私と弟にとっては「霧の小次郎」即ち「大江山」即ち「まだふみもみず……」と続くのだ。
すると、そこへ兄や妹も私たちへの邪魔だて半分、自分たちの欲も半分、同じくこの札を狙ってくる。汚くなる運命にあったのだ。
時々母が面白がって勿体ぶり「はいお次は……」などと言うと、まだ何も読んでないのに一斉に「はぁい」と4つの手が1枚の札の上に重なる。
そんな理由でこの札は汚い。人気の象徴だったのかな。
かるた遊びの最後は決まって「坊主めくり」だ。
絵札の表を伏せて裏を上にして100枚を2、3列に並べ積み上げる。皆は車座になり真中に置かれたそれを見つめる。ひとり1枚順番に。
殿が出るとそのままその人に。姫が出るともう1枚めくる権利を得る。
運悪く坊主が出るともう悲劇だ。今まで貯めた全財産を没収される羽目に。
しかし他人の悲劇は実に面白い。
例え自分がゼロになっていても他人のゼロが実に愉快なのだ。
坊主の中でも取り分け蝉丸が出ると大騒ぎだ。「出たぞ出たぞ坊主が出たぞ」とやんやの喝采で、その瞬間に蝉丸を引いた人の負けが決まる。
我家の正月はそうしてよく遊んだものだ。
あの頃は父も母もまだ40代だったろう。
青木奈緖さんからひとこと
お正月の百人一首、かるた取りの情景が鮮やかに描かれています。
お正月はどこのお宅でもお祝いですが、地方によっても、家によっても異なり、極端に言えば、お隣さんがどんなお雑煮を食べているかを知りません。それでもお祝いの晴れがましさや、家族親戚が集うにぎやかさなど、共有・共感しやすい永遠のテーマです。
気がつけば、私はもう何十年もかるた取りをしていません。懐かしく思いながら拝見しました。
ハルメクの通信制エッセー講座とは?
全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は毎月1回家族の思い出をエッセーに書き、講師で随筆家の青木奈緖さんから添削やアドバイスを受けます。書いていて疑問に思ったことやお便りを作品と一緒に送り、選ばれると、青木さんが動画で回答してくれるという仕掛け。講座の受講期間は半年間。
現在第5期の講座を開講しています(募集は終了しました)。次回第6期の参加者の募集は、2022年1月を予定しています。詳しくは雑誌「ハルメク」2023年2月号の誌上とハルメク365WEBサイトのページをご覧ください。
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