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- 「100字エッセー」通信第4期参加者のみなさん
随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクの通信制エッセー講座。今回、参加者は100文字で書くことに取り組みました。1人1作ずつ、ご紹介します。講評では山本さんの100字エッセーもお楽しみください。
100字エッセー
※敬称略、50音順です。
青山千幸
母が病気になってから、台所など立たなかった父が台所に立つ事が増え、塩が効いた塩むすびをよく作るようになり、母は美味しいと好んで食べた。
母亡き後、母の携帯には、そこには父が握った不格好なおむすびの写真がたくさん残されていた。
池永さとみ
ちょっとした不思議。
台所で料理をする時、いつも頭の中で何かの歌や曲がエンドレスで流れている。
なぜその曲なのか理由が分かる時もあれば分からないことも……そうして仕事が終わると曲もピタリと止まる。
板谷越りん
今朝はやけにスズメの鳴き声が近い。何度もカーテンを開けては庭の枝先をぐるりと見回す。おかしいな。近くで聞こえた気がした。
「チュン」。え?
首をかしげた子スズメを足元に発見。
あなた誰かの化身? 誰?
いぬいみき
糸のようなメダカを数匹友人宅から譲り受けた。
牛乳パックでやってきたメダカたちの成長を待って金魚鉢に移す。
生き物の個体数は器の大きさで決まっていくようで、大きく育ったのは4匹。
我が家のメダカの学校は女子高だ。
大井洋子
はこべは、子馬の生まれ変わりかも知れない。
陽にかざすと、茎の片側に生えた一直線のタテガミ。小さな白い花の姿になって、野原に佇む。
澄み渡った大空に顔を向け、草原を駆け回っていたころに思いを巡らせている。
大嶋きこ
ジムウエアを着て外に出た。車がない。
夫が乗って出かけたのだ。走るしかない。
汗は噴き出るし苦しいし。早道だから駅ナカを通る。
嫌だ、職場の人だ。見ないふりしてくれて有難う。
職場で言わないでね。
小田原薫
写真付メールが長男から届いた。
小5の孫息子が、ガラス瓶をじっと見つめている。
にょろっとした蛇状の正体は、ぎゃあ! 寄生虫の標本だ。
「好奇心の塊」の彼の目には、異質で魅力的な生物に見えているのだろうか。
尾原悦世
電話で、あるいは会って話すとは、相手と時間を共有すること。
コミュニケーションが大切というけれど、相手の時間を奪っていることでもある。
貴重な時を無駄にせぬよう、お互いを高めあえる「とき」になるといいな。
勝矢和代
柿の大木の下に茗荷(みょうが)が密生していた。
筍の皮剥きのように茗荷の青茎の皮を剥き、かじってみた。
美味い!
細く刻みかつを節醤油で味を調え炊き立てご飯に混ぜる。
うす緑の若い香りが私を包む。マインドワンダリング!
かわばたえつこ
散歩の足を延ばして、地元の小さなスーパーに行く。
店主の目利きが有名で、日本中の美味しいものが取り寄せられている。
今日の目当ては地物の甘いいちごだが、中札内の豆腐、下関の「のどぐろ飯の素」も、買う。
きたのふみ
忘れている漢字が多い。読めるけれど、書けないやつ。
中学生の時から愛用している国語辞典で調べますとも。
しかし、ショボショボとピントが合わない。
辞書と虫めがねをセットにして定位置へ戻すことにも慣れた。
木村真理
交差点で見かけた軽トラのおじさん。助手席に熊のぬいぐるみを乗っけてた。
ちゃんとシートベルトして。
「ぬいぐるみと言えば小さい女の子の隣」は過去のこと。
大人や男性だって、ぬいぐるみ大好きでいいよね。
熊本美千代
近所のおばあさん、私を見つけると寄ってくる。
「聞いて!聞いて!」……聞いてあげるよ。
「そうなの。いけんねぇ~」と気持ちを吐き出す。
「あーすっきりした」さいごに一言ポツリ。
少しはお役に立てたのかしらね。
近藤陽子
起きると携帯電話をポケットに入れ、東海道五十三次の街道を歩き始める。
ただ今、三十の次「舞坂」を目ざしている。
足を痛め長歩きできない今、楽しみながら少しでも足を鍛えようとスマホの歩数計の中で旅をしている。
栞子
今日はひとり外ごはんに挑戦。ゆっくり楽しむことが課題。
いつも人目が気になって、そそくさと出てしまう。
人気のカフェのお客の少なそうな時間をめがけて突入。
なんだ、案外できるやん。今日の目標1つクリア。
中村優子
休日はゆっくりしようと二度寝のはずが、やっぱり出来ずに目が冴える。
何十年も身に染みた朝のルーティンは恨めしくもあり、今日も無事だと安心したり。
早朝の静けさが徐々に騒々しくなって、いつもの1日が滑り出す。
ヌウ恵
ガチャガチャと音を立てて食器を洗う。
物に当たる自分に気づき、ハッとして手をとめる。
夫とつまらないことで喧嘩した後は心がすさむ。行動が乱暴になる。
これではいかんと夫に声をかける。
「何か飲む?」
野口ニコル
「風はどこからふいてくるとぉ?」釣りの合間に、ツレに聞く。
空に浮かぶ雲、新緑を抱いた山々、さざ波。
「どこからかなぁ? おいおい、君のウキ、ひいとるぞ」
にわか哲学者は一瞬のうち、水辺に引き戻される。
原エリカ
ふと気づいた右手の人差し指。左と比べると爪が2回りも大きい。
縫う書く打つ(スマホを)と、この指にどれだけの労働を強いて来たのか。
指の腹も固く強い。
他の指の倍のマニュキュアを塗り、ありがとう感謝です。
松﨑和美
桜は12月ごろからつぼみが膨らみ始めて、満開の時を夢見ている。
寒くないのかと枝先に問いかけて、「そんなことはないよ」と太い幹は答える。
満開の花と、風邪にはらはら舞い散る花弁と一緒に舞い踊って私は夢の中。
道下裕子
オカリナを吹く。2小節ですでに息が足りなくなる。苦しい。
腹式呼吸がまだ定着していないのだ。
なんとか滑らかにフレーズを繋げようと、あっぷあっぷしながら演奏している自分が急に可笑しくなった。
一呼吸おこう。
やさい
仕事あがりに歩いて帰る。
二車線の大きな交差点で横断歩道を渡り歩道から階段を降りる。
公園の横を過ぎて街灯が無くなるけどほんのり明るい。
空を見上げたら季節により高さは違うが目に飛び込む。
まんまるまるの月。
山田のりえ
ちょっと暑くて、トレーナーから薄めの七分袖に着がえる。
少し肌寒い。ならばと首がつまった長袖にしてみる。
しめつけられている感じで落ちつかない。結局始めに戻る。
こんなことふえたね。あーめんどくさい。
山本ふみこさんからひとこと
機嫌のよい「100字エッセー」が並んでいます。この取りくみの可能性は、それぞれ噛み締めていただくとして。私からも、100字をお贈りします。
日常の苛立ち、不安感、煩雑、いざこざは、つい「過剰」に傾こうとする自らがつくり出しているのかもしれない。
こんなときは100字エッセーだ。書きながら、あれを削り、これを慎むうち、こころが整えられてゆく。(100字)
通信制 山本ふみこさんのエッセー講座とは
全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は毎月1回出されるテーマについて書き、講師で随筆家の山本ふみこさんから添削やアドバイスを受けられます。講座の受講期間は半年間。
現在は第8期の講座を開催中(募集は終了しました)。次回の参加者の募集は2022年12月を予定しています。
詳しくは雑誌「ハルメク」2023年1月号の誌上とハルメク365WEBサイトのページをご覧ください。
■エッセー作品一覧■
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