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「家族」をテーマにしたエッセーの書き方を、エッセイストの青木奈緖さんに教わるハルメクの通信制エッセー講座。参加者の作品から青木さんが選んだエッセーをご紹介します。とこはさんの作品「母になるということ」と青木さんの講評です。
母になるということ
私はその頃、母であることを投げ出したいような思いでいた。
どうしてこうなってしまったのだろう。私はずっといっしょうけんめいやってきたのに。
私が必死になればなる程、事態は悪化しそうだ。万事休す。あきらめよう。空を仰いでみたりする。
長男は中学生で反抗期のまっただ中にいた。
学校からは親が何度も呼び出される。遅刻無断欠席常習犯。髪を染め、夕飯時の不在もざら。私はまだ幼い次男を抱え、右往左往した。
何とか私の思い描いていたフツウの世界へ、枠から飛び出してしまった長男を引き戻したい。
思春期の子が聞き入れるはずもなく、思い悩む日が続いた。私が何とかする事はできなかった。母なのに……。
あきらめた私は心に重く沈んだ澱を感じながら、淡々と長男の食事を作り、洗濯をした。
唯一、母としてできる事だったからだ。
人間関係のトラブルの時によく言われる事だが「相手は変えられないが、自分は変えられる」そうだ。
でも、ピンとこなかった。私はこれ以上何を変えればいいというのか。
そしていつしか、そんな辛く修業のような自問自答を繰り返すうちに、気付いた事があった。
私は長男を一人の人間として対等に接してこなかった。
私の付属物として、子を育てるという事は私の理想の人にする事、私が子の価値を評価する事だと勘違いしていた。
だから彼は猛反発し、激しい形で私に教えてくれたのだ。
それに気付いた時、私はボロボロと涙をこぼし、ごめんなさいと、ありがとうが交錯した。
その後の高校生活も、一般的に、とか普通、という形があるなら、大いに外れていたかもしれないが、私の心の芯が長男を信じられていたから、紆余曲折も見守り続けられた。
考えてみたら、長男の態度は、昔からあまり変わっていないかもしれない。
私に対して悪口雑言をはいたのだろうか?シカトされた事なんてあったかしら。全く記憶にないのだ。
今の彼の話し方は穏やかで何ものにも縛られている様子はなく、理路整然として説得力がある。
あの頃、私が社会の規範に照らしては心配や不安で彼をかき乱していただけだったのかしら。
私にとって予想だにしない嵐のような子育て経験だった。
今、彼は私や夫の思うよりはるかに高く広く、羽ばたいている。
この先の彼の人生を思うとワクワクさせられる。
ここに記したのは、私のざんげでもある。
そして、子を授かり、母になれたこと、へのゆるぎない思いでもある。
青木奈緖さんからひとこと
この作品は具体的で、説得力もあり、母になることの実感がきれいごとでなく描かれています。その当時は苦しく、途方に暮れる思いもなさったでしょう。今は時を経て、著者自身と切り離すことのできない思い出になっていることがよくわかります。
書かれている内容としては失敗談ですが、それでもなお、これを読んでうらやましいと思う読者もいるはずです。いろいろな読者の目を意識しながら書きましょう。
ハルメクの通信制エッセー講座とは?
全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は毎月1回家族の思い出をエッセーに書き、講師で随筆家の青木奈緖さんから添削やアドバイスを受けます。書いていて疑問に思ったことやお便りを作品と一緒に送り、選ばれると、青木さんが動画で回答してくれるという仕掛け。講座の受講期間は半年間。
次回の参加者の募集は、2022年6月に雑誌「ハルメク」の誌上とハルメク旅と講座サイトで開始します。
募集開始のご案内は、ハルメクWEBメールマガジンでもお送りします。ご登録は、こちらから。
■エッセー作品一覧■
- 青木奈緖さんが選んだ4つのエッセー第3期#4
- 青木奈緖さんが選んだ3つのエッセー第3期#5
- 青木奈緖さんが選んだ3つのエッセー第3期#6
- エッセー作品「麻雀」加藤菜穂子さん
- エッセー作品「青空が見ていた」暉納津美さん
- エッセー作品「母になるということ」とこはさん
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