今月のおすすめエッセー「庭づくり」富山芳子さん
2024.12.312022年04月28日
山本ふみこさんのエッセー講座 第7期第2回
「死ぬときはご破算にして春の虹」木下富美子さん
随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクのエッセー講座。第7期の参加者の作品から、山本さんが選んだエッセーをご紹介します。今回のテーマは「修理」です。木下富美子さんの作品「死ぬときはご破算にして春の虹」と山本さんの講評です。
死ぬときはご破算にして春の虹
・住み心地よく手を入れて
私はこの家で死ぬとずっと前から決めている。家が大好きだから。家が好きという割には出歩いていて家にいないが、この建物としての家が好きなのだ。
建売だけれど、大工さんが和室に趣向を凝らしている。茶室にもできるようなくりぬきの飾り天井に広い出窓、通りに面した窓には太めの木の縦格子。京都ですかという風情。極めつけは細い木枠のガラスの引き戸の玄関だ。この玄関に一目ぼれしてこの家に決めた。寝られるぐらい広い玄関。3つの和室は全部障子張り。
家にいると落ち着く。秋津の駅からも遠くて自転車が手放せない。図書館も遠いし、施設もない。だから却っていい。犬の散歩をしている人がやたら多い、というわけで、大事に住んでいる。
1回目の修理は雨漏りがした時に。雨の日の洗濯物干場が欲しくなって、増築。
2回目、風呂場が寒くて釜も古くなったので全とっかえ。春の嵐に備えて二重サッシに変えた。何せ、春一番の時はとなりの畑からの土ぼこりがひどくて洗濯物も洗い直しというありさまだった。
家は、わたしのほかみんなほこり高き男たち。
・大事に着れば一生もの
私の母がマメな人だったので子供たちの学校の新学期の雑巾も「お母さん、雑巾6枚縫って宅急便で送って」と頼んでいた。
ずぼらな私。冬は編み物をして全部孫のも編んでくれた。
ある時、「お母さん、このセーターもう10年も着てるんだけど」というと「あんた、私なんかこれ30年だよ」
恐れ入り屋の鬼子母神。確かに昔の毛糸はしっかりしていた。丁寧に洗って薄くなったところは2本取りにして編みなおしてくれていた。そして暖かいんだわ。
SDGsなんて横文字ならべるずっと前からものを大事にして生活していた。
昨日、駅前の仕立て屋さんでウールのコートのフードを取ってもらった。
軽くていいですねとお店の人も言うほどの着やすいものなのに、今の流行でフードがついている。
せっかくのコートが着にくいので切ってもらった。さっぱりして着心地がよくなった。
さらにもう一枚の短いコートのフードも切ってもらうべく頼んできた。
山本ふみこさんからひとこと
「木下富美子」という作家は、俳人でもあります。
エッセーのタイトルはいつも、俳句です。うらやましいですね。この句にも、ぐっと惹きつけられました。
家の話、衣類の話の二つから成るこの作品、提言も含まれていますが、ユーモアがあり、気持ちよく受けとめられます。
意見を述べようというとき、熱がこもって尊大となり、読者の気持ちをなぎ倒すようなことになりがちなところ、これはいいなあ。ユーモアは大切だなあ。……と思いました。
山本ふみこさんのエッセー講座(教室コース)とは
随筆家の山本ふみこさんにエッセーの書き方を教わる人気の講座です。
参加者は半年間、月に一度、東京の会場に集い、仲間と共に学びます。月1本のペースで書いたエッセーに、山本さんから添削やアドバイスを受けられます。
次回の参加者の募集は、2022年6月に雑誌「ハルメク」の誌上とハルメク旅と講座サイトで開始します。募集開始のご案内は、ハルメクWEBメールマガジンでもお送りします。ご登録は、こちらから