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- エッセー作品「爺ちゃんち」竹内さやかさん
随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクのエッセー講座。教室コース 第7期の参加者の作品から、山本さんが選んだエッセーをご紹介します。第2回の作品のテーマは「修理」です。竹内さやかさんの作品「爺ちゃんち」と山本さんの講評です。
爺ちゃんち
10ヶ月前、隣に住む爺ちゃんが亡くなった。
爺ちゃんは夫の父、おんとし97歳、あっぱれのピンコロ大往生であった。
そしてやたら広い家は空き家になった。
築55年、古民家と呼ぶには中途半端な古さなのだ。昭和40年代に流行った安くてダサい扉なんかも取りつけられている。
ちゃんとした?古民家なら迷うことなくどうにかする。
そして同じ敷地内にこれまた中途半端な築35年の我が家がある。子供達も自立してそれぞれの場所で生活しており、当面帰ってくる予定はない。
夫婦2人で2軒を維持するのは大変である。
しかし、私達は決めた。「この家で遊ぼう。」と。
夫は今月末40年勤めた会社を退職する。百歳まで生きると思っていた爺ちゃんが亡くなり、夫が退職。何だかすごいタイミングだ。私達はこの中古民家を修理して生かす道を選択した。
年金がもらえるまでの2年間は2人無収入である。贅沢はできない。
職人さんに入ってもらうのはもちろんだが、直せる物は自分達で修理して、使える物は工夫して再利用しようということになった。
そして爺ちゃんが亡くなってから休日の度に少しずつ手を入れ始めた夫は、修理に「ドハマリ」した。ホームセンターに嬉々として通い、建具を外しては削り、磨き、あげく撫で回してうっとり(?)している。
しかし滑りのよくなった建具の開閉の気持ちよいことといったらこの上ない。
私は私で、押入から多量に出てくる穴のあいた東京ぼん太の風呂敷なんかを繕いながら、どこにどう生かすか考えてワクワクしている。
とにかく不思議なものがいっぱい出てくるのだ。
思えば昭和1ケタ生れの親たちは皆器用で修理上手であった。
物のない時代、いやがおうでも修理しなければならなかったこともあるだろう。
しかし、修理した物が息を吹き返した時の、満足感、達成感、爽快感は今も昔も変わらないのではないだろうか。
とりわけ器用で修理上手だった私の父は、電気製品も家具などもほとんど直してくれた。
穏やかで丁寧で根気よい父は修理が大好きだったのだろう。
亡くなったあと工具箱を見ると、そこにはたくさんの物が入っていて胸がキュンとした。
しばらくは試行錯誤しながら、夫とこの爺ちゃんの家を修理していこう。
そして当面はここをみんなが気軽に集える場所にしよう。
夫と私に最高の「おもちゃ」を残してくれた爺ちゃんに感謝。
これからの人生、心も身体も物も修理の連続だ。
山本ふみこさんからひとこと
「この家で遊ぼう」
いいですねえ。
このような決心は、家にも伝わっていて、豊かな事ごとが展開してゆくことでしょう。
竹内さやかさんには、「この家で遊ぼう」の記録を綴ることをおすすめしたいと思っています。
山本ふみこさんのエッセー講座(教室コース)とは
随筆家の山本ふみこさんにエッセーの書き方を教わる人気の講座です。
参加者は半年間、月に一度、東京の会場に集い、仲間と共に学びます。月1本のペースで書いたエッセーに、山本さんから添削やアドバイスを受けられます。
次回の参加者の募集は、2022年6月に雑誌「ハルメク」の誌上とハルメク旅と講座サイトで開始します。募集開始のご案内は、ハルメクWEBメールマガジンでもお送りします。ご登録は、こちらから
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