山本ふみこさんのエッセー講座 第6期第5回

「100字エッセー」第6期参加者のみなさん

公開日:2022.01.28

随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催中のエッセー講座。今回参加者は100文字以内のエッセーを5つ書く「5本ノック」に取り組みました。1人1作ずつ、28作品ご紹介します。山本さんが語る100字エッセーの文章世界と講評も、ぜひご覧ください。

「100字エッセー」
「100字エッセー」第6期参加者のみなさん

100字エッセー

※敬称略、50音順です。

浅井京子

20年前に実家からもらった斑入りのゼラニウム。
気づいたら1本だけになっていた。大事に植え替え栄養剤を入れて、毎日大丈夫かと見守った。
なんとか元気になってねと祈る。願いむなしく数日後枯れてしまう……。

磯野昌子

息子たちが学生の頃、2人とも「イソノカツオ」があだ名だった。サザエさんの弟の名前である。
彼らの友人からの電話で息子を、と言われたときの決まり文句はこれ。
「どちらのカツオですか?」

臼井嘉子

ときおり作る「パンのお菓子」。
フライパンにたっぷりバターを溶かし、食パンを小さく切ってカリカリに炒める。
グラニュー糖を振り、その砂糖が少し焦げて茶色くなったら一丁出来上がり。
簡単美味しい母のお菓子。

海瀬和美

農産物直売所で「いちじく」を見つけた。
これまでは皮付きのまま砂糖と赤ワインで煮ていた。今年はテレビで見たので、皮をむいて水と砂糖で煮、仕上げにゆずを絞ったらピンクになった。
朝食のヨーグルトに。

大木祐子

横浜駅中に誰でも無料で弾けるピアノがある。
久しぶりに寄ってみると、女性がピアノを弾いていた。
ユーミンの「やさしさに包まれたなら」だ。力強くて心地よい音色に心が弾む。
次は「アンパンマン」。

大竹昌子

コロナ巣ごもり生活で和菓子作りを始める。
「四季の練り切り」のカルチャーにも通い、梅の花、朝顔、最近はハロウィンのかぼちゃも作った。
しかし、夫の推しはまんじゅう。やっと褒めてもらえた「茶まんじゅう」。

甲斐てい子

何故そこに気付かなかったのだろう。
通販で買った旅行用パジャマが予想より重く、娘に譲った。娘は普通にうちで夜着として着ている。
そう、家用のパジャマにすればよかったのだ。アタマガウゴカナカッタ。

木下富美子

レンコンの素揚げの穴や日脚伸ぶ:蓮根が大好き。素揚げにして麺つゆに浸す。
いくらでも食べられてしまう。サリサリと優しい舌ざわり。穴の形が全部違う。
なんかのどかで愉快。自然の妙がある。たかが蓮根されど蓮根。

車屋王和

出先から帰宅すると、まっ先にバッグの中身を全部テーブルの上に広げ整理をする。
小さなハンカチや布マスク等は、洗面所で洗濯石けんをつけてサッと洗う。
洗ってパンパンと叩くといさぎいい音が響く。

国分りえ子

坂道の途中で空を見上げた。2本の電線をつなぐ様に蜘蛛の巣がはっている。
目を凝らすと、3匹いて動いているのがわかる。すごい能力を持っている。巣をつくるようすをみてみたい。
2日後、強風の中、巣はなかった。

小坂美千代

亡母(はは)の茶碗が捨てられない。茶碗を見ても何を見ても涙があふれる日々だった。
10年たった今、涙はこぼれない。けれど食器棚の奥へとしまった茶碗が時々顔を出して、私に話しかけてくる。
「ここで見てるからね」

小波

子供の頃、街に「すみれ書房」という小さな本屋があった。
月に2冊、好きな本を買ってよい事になっていた。教室を縦長にした広さの店内を巡るのは至福の時だった。
本との縁(えにし)をつくってくれた「すみれ書房」。

島戸菅子

1人ぽっちで生活するようになって2年近い時が流れる。
子どもたち、姉妹、御近所の環境にも恵まれている。
そしてエッセイの世界は、内なる世界に広がっていき、曾てなく、自分自身を支えている。感謝!

清水澤雅子

秋の終りに八重の酔芙蓉が咲きだした。
五輪も花をつけて。風にユラユラゆれている。夕方には白い花をピンクに染めかえて見せる。
ベランダで机にひじをつき、一輪の芙蓉にみとれていたあのひとが懐かしい。

高木佳世子

飛び乗った電車の隣の席は若いママ。その胸元で赤ちゃんがすやすや眠ってる。
横にいるのはおばあちゃんかな。目を細めて赤ちゃんを覗いている。
聞こえてきたのは関西弁。かつて母と私もこんなふうに……。

たかはしよしこ

孫娘は唯子。唯一無二と親が選んだ昭和の名。
小学生になり、仲良しができた。さおりちゃん。素敵な名前、と羨んでいた。
小1の夏休み、婆の家で瞳はぱっちりロングヘアの憧れの女の子の絵を描いた。
記名たかはしさおりについクスリ。

高山美年子

冬支度をはじめます。まずはこたつを出しましょう。
帰省する娘が、何よりも楽しみにしているから。首までこたつに潜って「しあわせ!」と叫ぶ。
それを見て、私もしあわせになる。座布団カバーを新調しよう。

夛田 せい子

月がくっきりと夜空にうかんでいる。小さい私は祖母と手をつないで夜道を歩く。
「おばあちゃん。お月さんがついてくる」
「みまもってくれているのよ」
「ふうん」
今同じことを孫がいい、私は答えている。

都留信子

私は4人きょうだいの末っ子。
姉兄には写真館で撮った写真が多い。生後百日目の姉、七五三の時の兄。
単純に私のがないのが不思議で母に訊いた。
「あなたのは戦災で焼いてしまったのよ。」
私は戦後生まれです!

中澤紀子

厚さ5センチ以上ある『平家物語』(現代語訳)を読み出した。
60年前の大学時代の教科書を引っ張り出して原文と訳文を見比べながら。
何故かあの頃の古典の教科書は捨てられずにある。
こんな形で役立つとは。

八角利恵子

まだ肌寒い3月初め、早咲きの桜を見に出かけた時のこと。
海辺の松林の中に咲く桜を見ながら歩いていると「あら、りこちゃん!久しぶり」と老婦人が近づいてきた。
だれ?だれ?と私の頭の中はぐるぐると回り始めた。

花村むつみ

私立小学校に通う小さな男子3人組は、朝の電車のお馴染みさんです。
声が甲高くて、ベタベタとくっつきあっていますが、今朝はSDGsの話なんかを一丁前に語りあっています。
日本の将来は、君たちに任せたからね。

春山小雪

白内障の手術をした友人に術後の目の調子を聞いてみた。
なにより一番うれしいのがオリオン座がはっきり見えるようになったことよと言った。
こんな言葉がかえってくるとは思わなかった。いいなあ、このおおらかさ。

平木智子

ロンドンで隣人だったオリーヴは、インド人の小児科医で、毎日曜日に教会に参拝する敬虔なクリスチャン。
教会は、母国を離れて独り暮す彼女の心の拠り所だったのだろう。
神と共に在る幸せを、よく私に話してくれた。

風野りん

古いグローブを取り出してキャッチボールをしてみた。
ソフトボールに明け暮れた中学時代。ボールが放物線を描く間はあの夏に行くかのよう。
受け止めてくれる人のグローブの音で今に戻る。ありがとう、ありがとう。

藤田圭子

息子が大学生になり、私は晴れて自由に旅行できるようになった。
ここぞとばかりに彼は友人たちを我が家へ招(よ)ぶ。
「くれぐれも騒ぎ過ぎてご近所に迷惑をかけないように」そう言い残して、旅行鞄を持って出発。

松田志津子

腰椎圧迫骨折とコルセット症候群との闘いで、今年は終る。
こんなはずじゃなかった、充実の年になるはずだった。
人生の誤算だけど、まだ回復への気力を保てた。
今で良かったことにしよう。前を向いて歩こう。
(コルセット症候群は私の勝手なネーミングです。)

山川里美

漢字能力検定に挑戦する。先ずは中学校在学レベル。
試験ともなると緊張する。わたしには書き癖がある。正しく読み取ってもらえる文字なのか。
この体験をとおして決意する。いつでも何にでも、努めて丁寧に書こう。

 

山本ふみこさんからひとこと

みなさんの100字の作品を読ませていただきました。いつもより自由に、そうしてはずんで書いておられるように、私には感じられました。実際はいかがでしたでしょうか。それはまた、講座でお目にかかるときに聞かせていただくとして、ここでは、100字の文章世界について、書いてみたいと思います。

とても短いけれど、100字も文章には凝縮された魅力があります。凝縮されているのに、ゆったりとしたやわらかさがあります。それは書き手の気負いの入りこむ余地がないからです。感想も解釈も感情も、過剰になりようがありません。

そもそも、文章には、観察したことだけを、経験したことだけをそこに置いて、何かが醸されれば、それでいい……のかもしれません。それでいいのではなく、それが理想というか。このあたりのこと、みなさんと学んでゆきたいと思います。

また挑戦しましょう、100字5本ノック。

 

山本ふみこさんのエッセー講座(教室コース)とは

随筆家の山本ふみこさんにエッセーの書き方を教わる人気の講座です。

参加者は半年間、月に一度、東京の会場に集い、仲間と共に学びます。月1本のペースで書いたエッセーに、山本さんから添削やアドバイスを受けられます。

現在、第7期の講座を開講中です。次回第8期の参加者の募集は、2022年6月に雑誌「ハルメク」の誌上と、ハルメク旅と講座サイトで開始予定。

募集開始のご案内は、ハルメクWEBメールマガジンでもお送りします。ご登録は、こちらから。


■エッセー作品一覧■

ハルメク旅と講座

ハルメクならではのオリジナルイベントを企画・運営している部署、文化事業課。スタッフが日々面白いイベント作りのために奔走しています。人気イベント「あなたと歌うコンサート」や「たてもの散歩」など、年に約200本のイベントを開催。皆さんと会ってお話できるのを楽しみにしています♪

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