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- 髙樹のぶ子×小島ゆかり「伊勢物語」の恋の和歌対談
NHK「100分de名著」で放映されるなど注目を集めているのが、髙樹のぶ子さんが古典『伊勢物語』を現代小説として蘇らせた『小説 伊勢物語 業平』です。歌人の小島ゆかりさんをゲストに主人公・在原業平の魅力に迫った対談の様子をお届けします。
髙樹のぶ子さん×小島ゆかりさんの対談動画
2020年10月、オンラインイベントとして開催された対談(主催:朝日新聞社「論座」、「ハルメク」 協力:日経BP日本経済新聞出版本部)を動画でお楽しみください。
じっくり味わいたい在原業平の和歌を解説
対談の中で語られた、在原業平の和歌の魅力を一部抜粋してご紹介します。
起きもせず寝もせで夜を明かしては春のものとてながめ暮らしつ(『小説 伊勢物語 業平』「雨そほ降る」より)
小島ゆかりさん(以下、小島): この歌を普通に訳すと「起きているわけでもなく、寝ているわけでもなく夜を明かして。そして昼は昼で春の倣いである長雨に振り込められて、ボンヤリ物思いをしている」ということです。これだけ読むと恋の歌であるとはわからないのですが、『小説 伊勢物語 業平』では、ちゃっかり後朝(きぬぎぬ※)の歌にしています。とても素敵なところは、容姿はさほどでもないけれど心映えが素敵な女性、そしてどうやら人妻らしい女性と一夜を共にした翌朝に贈った歌として描かれています。※
後朝(きぬぎぬ)…男女が共寝をして迎えた朝。また、その朝の別れ髙樹のぶ子さん(以下、髙樹): そうそう。
小島: 髙樹さんの歌の解釈が素晴らしいので読んでみますと「昨夜わたしはあなたの傍で、起きているのか寝ているのか判らぬまま朝を迎えてしまいました。そほ降る雨のせいでしょうか、それともあなたが春の雨のようにわたしの中に入ってこられて、起きることも寝ることも叶わぬ甘い酔いで縛ってしまわれたのか。いまあなたから離れてもあの雨は、こうして空から、いえわたしの身内でも、降り続いております。春の雨とはこのように長く、いつまでも終わりのないものとは知ってはいましたが、切ないものですね」
髙樹: うふふ。
小島: 「おお~!」となりますね。
髙樹: 後朝の歌にしたのは、業平が恋上手であることに関係しているんです。後朝の歌というのはあの時代、誰もが儀礼的に送るものなのですが、業平は相手の女性に共に過ごした時間、起きているのか寝ているのかわからないトロトロしたむつみあいを身体的にも思い出させるような歌を送っています。これが恋上手の秘訣。なかなかのテクニックではないかと、私は勝手に思っています。
小島: しかしながら、業平は「春のものとて」としか書いていないのに、髙樹さんは「あなたは昨夜、春の雨のようにわたしの中に入ってこられて」と言っているのがすごい。これこそが余白を読むということだと思います。
髙樹: 歌の解釈や現代語訳ではなく、そこにあった思い、情緒、あらゆるものを解釈して作っていく。これは小説にしかできないことなのです。
小島: 小説だからこそできたというジャンルの強みであり、妄想作家・髙樹さんの強みが発揮された場面です。
千年の時を超え愛される在原業平はどんな男性?
続いて、対談より、在原業平の人物像について語った箇所を一部抜粋してご紹介します。
髙樹: 業平の魅力をひと言でいえば雅(みやび)であること。では雅とは何かというと、言葉にするのは難しいのですが、思うに任せぬことの悲しみ、不安に対しても、ジタバタせずにゆったりと構えている。わからないことや儘(まま)ならないこともあるのだと耐えながらも、だからといってこの世を放棄しようとはしない。その耐えている姿の中に雅というものが生まれるのだと、私は思います。
小島: 在原業平と、業平がモデルになったと言われる「源氏物語」の光源氏は非常によく似ています。二人とも天皇の御子でありながら皇位継承権を幼くして失い、傷ついた体験がある。屈折した悲しみを心に味わったがゆえに、女性の繊細な情感もわかるし、貴族社会を生きる男性の気持ちもわかるという幅広さを持っていた。だから女性にモテたと思うのです。
髙樹: もし今の世の中に業平がいたら、コロナの騒動に対しても慌てず騒がず、これまでにもさまざまなことがあって、それでも人々は生きてきたのだから、これからも生きていくよ、と余裕のないイライラした心をほどいてくれるのではないかと、勝手に理想化しております。
いかがでしたか? 興味を持たれた方は、動画をぜひご覧ください!
出演者と本の紹介
作家・髙樹のぶ子さん プロフィール
恋愛小説の名手として知られる。古典に取り組み始めたのは70代になってから。1946(昭和21)年山口県生まれ。出版社勤務を経て1980年に『その細き道』でデビュー。84年『光抱く友よ』で芥川賞。95年『水脈』で女流文学賞。99年『透光の樹』で谷崎潤一郎賞。2006年『HOKKAI』で芸術選奨文部大臣賞。10年『トモスイ』で川端康成文学賞を受賞。2009年に紫綬褒章を受章。2018年に文化功労者に選出。
歌人・小島ゆかりさん プロフィール
産経新聞などで歌壇の選者を務める他、毎日新聞書評委員や全国高校生短歌大会特別審査員を務めるなど多方面で活躍。1956(昭和31)年愛知県生まれ。早稲田大学在学中に短歌に出会い、コスモス短歌会に入会。2000年『希望』で若山牧水賞。06年『憂春』で迢空賞。15年『泥と青葉』で斎藤茂吉短歌文学賞。17年『馬上』で芸術選奨文部科学大臣賞。同年に紫綬褒章を受章。
『小説 伊勢物語 業平』
日経新聞での連載当時から話題に。歌人・在原業平の生涯をリアルに蘇らせた小説。平安時代の雅や、和歌の魅力を感じることができます。(日本経済新聞出版刊/2420円)
イベント「髙樹のぶ子さんの朗読とお話会」参加者募集中!
ハルメクでは、『小説 伊勢物語 業平』の名場面の朗読とトーク、さらに人気の万葉学者・上野誠さんと髙樹のぶ子さんの対談が楽しめるイベントを12月23日(水)に開催します。やさしく楽しく、日本の雅を体験できるチャンス。詳しくはこちらをご覧ください。
対談を詳しく読みたい方は朝日新聞社「論座」へ!
イベントを共催した朝日新聞社の言論サイト「論座」では、対談の内容をより詳しく紹介しています。こちらからご覧ください(無料)。
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