チョコレート嚢胞とは?症状・原因・治療法・よくある質問【医師監修】
チョコレート嚢胞とは?症状・原因・治療法・よくある質問【医師監修】
公開日:2025年10月15日
この記事3行まとめ
✓チョコレート嚢胞は子宮内膜症の一種で、卵巣内に血液が溜まる病気です。
✓主な症状は月経痛ですが、50代以降はがん化のリスクにも注意が必要です。
✓治療法は複数あります。閉経後の変化も理解し、定期的な検診が大切です。
チョコレート嚢胞とは?
「チョコレート嚢胞(のうほう)」という病名を聞いたことはありますか? これは、子宮内膜症という病気が卵巣にできたもので、「子宮内膜症性卵巣嚢胞」とも呼ばれます。
本来、子宮の内側にあるはずの子宮内膜、またはそれに似た組織が、卵巣の中で増えてしまう状態です。月経のたびにその組織から出血が起こりますが、体の外に排出されず、卵巣の中に溜まっていきます。そうして溜まった古い血液が、まるでチョコレートのように見えることから、この名前がついています。
特に50代以降の女性にとっては、閉経という体の大きな変化を迎える時期でもあり、チョコレート嚢胞との付き合い方も変わってきます。若い頃は痛みのコントロールが治療の中心だったかもしれません。
しかし、この年代からは「がん化のリスク」という新しい視点も加わります。正しい知識を持つことが、ご自身の体を守る何よりの力になります。
よく見られる身体的症状
チョコレート嚢胞の症状は、人によってさまざまです。一番多いのは、月経のたびに強くなる下腹部痛や腰痛です。「若い頃から生理痛は重い方だった」という方も、年齢とともに痛みが強くなったり、市販薬が効きにくくなったりしたら注意信号です。
他にも、月経期間以外にも続く鈍い骨盤の痛み、性交時や排便時に奥の方が痛むといった症状もみられます。嚢胞が大きくなると、お腹が張るような感じがしたり、下腹部にしこりとして触れたりすることもあります。
また、膀胱が圧迫されてトイレが近くなる、あるいは逆に便秘がちになるなど、お通じの悩みに繋がることも。
しかし、閉経が近づくにつれて月経周期が不規則になると、こうした症状も変化しがちです。中にはほとんど自覚症状がないまま、更年期の相談や別の目的で受けた検診で偶然見つかる方も少なくありません。
心理的な変化
終わりの見えない痛みは、私たちの心を少しずつすり減らし、不安にさせるものです。「また次の月経が来るのが怖い」と感じたり、痛みのせいで仕事や家事に集中できなかったり、友人との約束をためらったりすることもあるでしょう。
特に50代以降は、親の介護や自身のキャリア、子どもの独立など、人生の大きな転機が重なる時期。そんな中で自身の体調不良が続くと、「周りに迷惑をかけたくない」という思いから、一人で抱え込んでしまう方もいらっしゃいます。
こうした状態が続くと、気分がふさぎ込み、社会から孤立したような気持ちになってしまうかもしれません。ご自身の体の変化に、どうぞ一人で悩まず、専門家に相談してくださいね。
統計データ(厚生労働省調査より)
厚生労働省の調査によると、子宮内膜症は生殖年齢の女性の約10%にみられるとされ、20代から40代で診断されることが多い病気です。しかし、これは決して若い世代だけの問題ではありません。50代以上で見つかる方や、長年付き合ってきた結果、この年代ならではの悩みに直面する方も多くいらっしゃいます。
重要なのは、チョコレート嚢胞を持つ方は、そうでない方と比べて卵巣がん(特に類内膜がん、明細胞がん)になるリスクが統計的に少し高まることが知られている点です。
そのリスクは、40歳を過ぎると徐々に上昇し、嚢胞のサイズが大きい(特に10cm以上)とさらに高まるとされています。だからこそ、症状の有無にかかわらず、定期的な婦人科検診が私たち世代にとって非常に大切になるのです。
チョコレート嚢胞の原因とメカニズム
主な原因
チョコレート嚢胞がなぜできるのか、その根本的な原因はまだ完全には解明されていませんが、いくつかの要因が複雑に絡み合っていると考えられています。
1. 生理学的要因
現在最も有力視されている説は「月経血の逆流」です。月経の際、剥がれ落ちた子宮内膜を含む経血の一部が、卵管を逆走してお腹の中(腹腔内)に流れ込むことがあります。ほとんどの場合、これらは体の免疫システムによって処理されますが、一部の人の体では、この子宮内膜細胞が卵巣の表面などに生着し、そこで増殖を始めてしまうのです。
この増殖には、女性ホルモンである「エストロゲン(卵胞ホルモン)」が深く関わっています。エストロゲンは子宮内膜を厚くする働きがあるため、このホルモンの影響を受けて、卵巣にできた組織も月経周期とともに増殖と出血を繰り返すのです。
2. 環境的要因
ダイオキシンなどの特定の化学物質や、食生活の欧米化といった環境因子が、免疫系やホルモンバランスに影響を与え、子宮内膜症の発症に関与しているのではないかという研究も進められていますが、まだはっきりとした結論は出ていません。
3. 心理社会的要因
ストレスが直接の原因になるわけではありません。しかし、長期間にわたる強いストレスは、自律神経やホルモン分泌のバランスを乱し、体の免疫機能を低下させることが知られています。その結果、本来なら処理されるはずの逆流した子宮内膜細胞が生き残りやすくなるなど、間接的に発症や悪化に影響を与えている可能性は否定できません。
発症メカニズム
卵巣の表面に生着した子宮内膜組織は、本来あるべき場所(子宮)ではないにもかかわらず、子宮内の内膜と同じように振る舞います。つまり、月経周期に合わせて女性ホルモンの影響を受け、増殖し、月経時には出血します。
しかし、子宮内と違って、その血液には体外への出口がありません。そのため、出血した血液は卵巣の中にどんどん溜まっていきます。この溜まった血液が、時間とともに古くなり、酸化して、ドロドロとしたチョコレート状の液体に変化します。これが袋(嚢胞)を形成し、チョコレート嚢胞となるのです。
リスク要因
以下のような方は、チョコレート嚢胞を含む子宮内膜症になりやすい、あるいは悪化しやすいと言われています。ご自身の体質を知るための参考にしてください。
- 月経に関する要因: 初経年齢が早い(11歳以下など)、月経周期が短い(27日以下など)、月経期間が長い(7日以上など)
- 出産・授乳歴: 妊娠・出産の経験がない、または少ない。授乳期間が短い。
- 遺伝的要因: 家族(特に母親や姉妹)に子宮内膜症と診断された方がいる。
- 体質的要因: 痩せ型で、体脂肪率が低い。
これらの要因に当てはまるからといって必ず発症するわけではありません。しかし、ご自身の体のことを知る一つの大切な手がかりとなります。
診断方法と受診について
次に、受診する場合の流れについて、より詳しく説明します。
いつ受診すべきか
以下のような症状は、体からの大切なサインです。一つでも当てはまるなら、一度婦人科を受診することを検討しましょう。
- 月経痛がだんだんひどくなり、日常生活に支障が出ている。
- 市販の鎮痛薬を飲んでも痛みが治まらない、または飲む量が増えてきた。
- 月経時以外にも、下腹部や腰に鈍い痛みが続いている。
- 性交時や排便時に、体の奥に響くような痛みを感じる。
- 不妊に悩んでいる、あるいは妊娠を希望している。
- 健康診断や人間ドックの超音波検査で「卵巣の腫れ」を指摘された。
特に私たち50代以降は、症状が軽くても、がんの早期発見という観点から、年に一度は婦人科検診を受けることを強くおすすめします。
診断の流れ
婦人科では、問診から始まり、いくつかの検査を組み合わせて総合的に診断します。
1. 問診で確認すること
医師は、診断の手がかりを得るために、以下のような質問をします。これは診断の非常に重要な第一歩です。
- 症状について: どのような症状が、いつから、どのくらいの頻度でありますか?痛みの程度を10段階で表現するとどのくらいですか?
- 月経について: 最終月経はいつでしたか?周期や期間、経血の量はどうですか?閉経はいつ頃でしたか?
- 既往歴・手術歴: これまでにかかった大きな病気や、受けた手術はありますか?
- 妊娠・出産歴: 妊娠、出産の経験はありますか?
- 家族歴: ご家族(母、姉妹、娘)に婦人科系の病気(子宮内膜症、卵巣がん、乳がんなど)の方はいらっしゃいますか?
ご自身の体の状態をできるだけ正確に伝えるために、事前にメモを準備しておくと良いでしょう。
2. 身体検査
次に、内診と経腟超音波(エコー)検査を行います。これは婦人科の診察の基本となるものです。
- 内診・経腟超音波検査: 腟から指や細い器具(プローブ)を挿入し、子宮や卵巣の大きさ、形、位置、癒着の有無などを直接観察します。チョコレート嚢胞は特徴的な画像で見えることが多く、大きさや場所を詳細に確認できます。検査は数分で終わります。少し緊張するかもしれませんが、体の力を抜いてリラックスすることが、痛みを少なくするコツです。
3. 代表的な検査例
超音波検査で嚢胞が見つかった場合、さらに詳しく調べるために追加の検査を行うことがあります。
- MRI検査: 強力な磁石と電波を使って、体の断面を鮮明に撮影する検査です。超音波検査よりもさらに詳しく嚢胞の内部の性状や、周囲の臓器(腸や膀胱など)との癒着の程度を評価できます。特に、悪性の腫瘍(がん)との鑑別診断において非常に重要な情報をもたらします。
- 腫瘍マーカー(血液検査): 血液を採取して、特定の物質(CA125やCA19-9など)の値を調べます。チョコレート嚢胞や卵巣がんがあるとこれらの数値が上昇することがありますが、他の良性の病気や月経中でも高くなることがあるため、この検査だけで診断が確定するわけではありません。あくまで診断の補助や、治療効果の判定、再発のモニタリングなどに用いられます。
受診の準備
受診の際は、基礎体温をつけている方は記録を持参すると、ホルモンの状態を把握するのに役立ちます。
また、いつからどのような症状があるか、月経周期、過去の病歴などを時系列でメモにまとめておくと、医師にスムーズに情報を伝えられます。服装は、内診があるので、着脱しやすいスカートやゆったりしたパンツなどが便利です。
受診すべき診療科
チョコレート嚢胞の診断・治療は「婦人科」または「産婦人科」が専門です。かかりつけの婦人科がない場合は、お住まいの自治体の保健所や医師会のウェブサイトで医療機関を検索できます。
また、セカンドオピニオンを考えたい場合は、主治医にその旨を伝え、紹介状や検査データを提供してもらうと良いでしょう。
チョコレート嚢胞の治療法
治療方針の決定
治療法は、年齢、症状の強さ、嚢胞の大きさ、妊娠希望の有無、そして何より「がん化のリスク」を総合的に評価し、医師と十分に話し合って決めていきます。
50代以上の治療では、痛みのコントロールだけでなく、将来的ながんのリスクをいかに管理するかが大きな柱となります。
薬物療法(ホルモン療法)
薬物療法は、主に痛みを和らげ、病気の進行を抑えることを目的とします。女性ホルモン(エストロゲン)の働きを抑えることで、子宮内膜症組織の増殖を止め、嚢胞が大きくなるのを防いだり、縮小させたりする効果が期待できます。
- LEP製剤(低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬): いわゆる低用量ピルです。排卵を抑制し、子宮内膜が厚くなるのを防ぎます。月経痛を著しく軽減し、月経量も減らす効果があります。50代以上では、血栓症のリスクを考慮し、慎重に処方されます。
- 黄体ホルモン療法(ディナゲストなど): 排卵を抑制し、子宮内膜組織を萎縮させる効果があります。長期間連続して服用することで、月経そのものを止め、痛みをなくします。最も一般的な副作用は不正出血ですが、多くは服用を続けるうちにおさまります。
- GnRHアゴニスト/アンタゴニスト療法: 脳下垂体に働きかけ、エストロゲンの分泌を強力に抑制します。これにより、一時的に閉経に近い状態を作り出し、嚢胞を縮小させます。効果は高いですが、更年期のような症状(ほてり、発汗など)や、骨密度の低下といった副作用があるため、通常は6か月までの短期的な使用に限られます。手術前の治療として用いられることもあります。
注意点: これらのホルモン療法は、それぞれにメリットとデメリットがあります。ご自身の判断で服用を中断したりせず、必ず医師の指示に従い、気になる症状があればすぐに相談してください。
手術療法
以下のような場合には、手術が積極的に検討されます。
- 嚢胞が大きい(直径5~6cm以上)、または増大傾向にある場合
- 薬物療法で痛みが十分にコントロールできない場合
- 画像検査(MRIなど)や腫瘍マーカーで、がん化が強く疑われる場合
- 嚢胞が破裂したり、ねじれたり(茎捻転)した場合(緊急手術)
手術の方法には、主に以下の4つがあります。
- 腹腔鏡下手術: お腹に数か所、0.5cm~1cm程度の小さな穴を開け、そこからカメラ(腹腔鏡)や手術器具を挿入して行う手術です。傷が小さく、術後の痛みが軽度で、回復が早いのが最大のメリットです。チョコレート嚢胞の手術では、現在この方法が主流です。
- 嚢胞核出術: 卵巣の正常な部分をできるだけ残し、嚢胞の中身だけを摘出する方法です。卵巣機能を温存したい場合に選択されます。
- 付属器摘出術: 卵巣と卵管を一緒に摘出する方法です。がん化のリスクを根本的になくしたい場合や、閉経後の方に選択されることが多いです。
- 開腹手術: 下腹部を大きく切開して行う従来からの手術法です。嚢胞が非常に大きい場合や、癒着が極めて強い場合、がんが強く疑われる場合などに選択されます。
手術を受ける際は、入院期間、費用、術後の生活などについて、事前に医師や看護師から十分な説明を受けてください。
生活習慣による管理
薬や手術だけに頼るのではなく、日々の生活習慣を見直すことも、症状の緩和や再発予防に繋がります。
- 食事: バランスの取れた食事を基本とし、体を温める食材(生姜、根菜など)を意識的に摂りましょう。炎症を抑える効果が期待されるオメガ3脂肪酸(青魚、亜麻仁油など)や、抗酸化作用のあるビタミン・ミネラル(緑黄色野菜、果物など)もおすすめです。
- 運動: ウォーキングやヨガ、ストレッチなど、心地よいと感じる程度の適度な運動は、血行を促進し、ストレス解消にも役立ちます。ただし、痛みが強い時は無理をしないでください。
- 睡眠と休養: 質の良い睡眠を十分にとり、心身を休ませることが、ホルモンバランスや免疫機能を整える上で非常に重要です。
治療期間と予後
チョコレート嚢胞は、閉経するまで長く付き合っていく可能性のある病気です。薬物療法を続けている間は症状が抑えられますが、中断すると再発することもあります。手術で嚢胞を摘出しても、数年後に再発する可能性はゼロではありません。
しかし、閉経すれば、エストロゲンの分泌が止まるため、病気の勢いは自然と収まり、嚢胞も縮小していきます。ただし、前述の通り、まれにがん化することもあるため、閉経後も定期的な婦人科検診は必ず継続してください。
予防法と日常生活での注意点
一次予防(発症予防)
残念ながら、チョコレート嚢胞の発症を完全に予防する確実な方法はまだ見つかっていません。しかし、健康的な生活習慣が、発症リスクをある程度低減させる可能性はあります。
バランスの取れた食生活、適度な運動、ストレス管理、十分な睡眠など、体全体の免疫力を高める生活を心がけることが大切です。
二次予防(早期発見・早期治療)
この病気において最も重要なのが、この二次予防です。
- 定期的な婦人科検診: 症状がなくても、年に一度は必ず婦人科検診(内診、経腟超音波検査)を受けましょう。これが早期発見の最も確実な方法です。
- セルフチェック: 普段からご自身の月経の状態(周期、期間、痛み、経血量)に関心を持ち、変化があれば記録しておきましょう。「いつもと違う」と感じたら、それが受診のサインです。
日常生活の工夫
痛みや不快感とうまく付き合いながら、毎日を少しでも心地よく過ごすための具体的な工夫を取り入れてみましょう。
- 体を温める: 腹巻やカイロ、ひざ掛けなどを活用し、特にお腹まわりや腰、足首を冷やさないようにしましょう。夏場も冷房の効いた室内では羽織るものを用意すると安心です。温かいハーブティーなどもリラックス効果がありおすすめです。
- リラックス法を見つける: ぬるめのお風呂にゆっくり浸かる、アロマオイル(ラベンダーやカモミールなど)の香りを楽しむ、深呼吸を意識する、ゆったりとした音楽を聴くなど、ご自身が心からリラックスできる時間を作りましょう。
- 食生活のヒント: 体を冷やす冷たい飲み物や食べ物、炎症を促進するとされる加工食品や白砂糖、過剰な動物性脂肪などを少し控えめにしてみるのも一つの方法です。代わりに、発酵食品や食物繊維を多く含む食品を摂り、腸内環境を整えることも大切です。
- 記録のすすめ: スマートフォンのアプリや手帳などを活用し、痛みの程度(10段階評価など)、症状が出た日時、食事内容、その日の気分などを簡単に記録しておくと、ご自身の体調の波を客観的に把握でき、医師に説明する際にも非常に役立ちます。
家族・周囲のサポート
チョコレート嚢胞の痛みやつらさは、外見からは分かりにくいため、周囲に理解されにくいことがあります。「怠けている」「気持ちの問題だ」などと誤解され、傷つく経験をした方もいらっしゃるかもしれません。
可能であれば、ご家族や信頼できるパートナー、親しい友人には、病気のこと、そして痛みがつらい時には無理をせず休む必要があることを、具体的に伝えておきましょう。
「この薬を飲んでいる」「次の検診はいつ」といった情報を共有しておくだけでも、いざという時にスムーズです。一人で抱え込まず、周りの人に「助けて」と声を上げる勇気も大切です。
よくある質問(FAQ)
Q1: チョコレート嚢胞は自然に治りますか?
A: チョコレート嚢胞は、女性ホルモンの影響で大きくなるため、閉経前の女性で自然に消えることはまれです。
閉経を迎え、女性ホルモンの分泌がなくなると、多くの場合、嚢胞は自然に小さくなり、症状もなくなります。
しかし、大きさが変わらない場合や、まれにがん化する可能性もあるため、閉経後も医師の指示に従って定期的な検診を受けることが非常に大切です。
Q2: 50代でも手術が必要になりますか?
A: はい、50代でも手術が必要になることは十分にあります。嚢胞が非常に大きい場合(破裂のリスク)、痛みが薬で抑えられない場合、そして特にがん化が疑われる場合には、年齢に関わらず手術が検討されます。
閉経が近いからといって「逃げ切れる」と自己判断せず、専門医と相談し、ご自身にとって最適な治療法を選択しましょう。
Q3: チョコレート嚢胞があると、がんになりやすいというのは本当ですか?
A: チョコレート嚢胞がある方は、ない方と比べて卵巣がんになるリスクがわずかに高くなると報告されています。特に40歳以上の方や、嚢胞が大きい方は注意が必要です。
ただし、がん化するのはごく一部のケースです。過度に心配する必要はありませんが、リスクを正しく理解し、定期的な婦人科検診を欠かさないことが、万が一の場合の早期発見につながります。
Q4: 手術後の再発率はどのくらいですか?
A: 報告によって差はありますが、嚢胞だけを摘出する手術(核出術)の場合、5年間のうちに約20~30%の方が再発すると言われています。再発リスクを低減させるために、術後にホルモン療法を行うことが強く推奨されています。
卵巣ごと摘出する手術であれば、その卵巣からの再発はありません。
Q5: 閉経後にホルモン補充療法(HRT)は受けられますか?
A: チョコレート嚢胞の既往がある方が、更年期症状の緩和のためにホルモン補充療法(HRT)を受けることについては、専門家の間でも意見が分かれる点です。HRTによって子宮内膜症が再燃するリスクがゼロではないため、基本的には慎重に検討されます。
もしHRTを行う場合は、天然型の黄体ホルモンを併用するなど、専門医による厳重な管理のもとで行う必要があります。必ず主治医とよく相談してください。
Q6: 漢方薬やサプリメントは効果がありますか?
A: 漢方薬は、月経痛、冷え、疲労感といった付随する症状を和らげる目的で、西洋医学の治療と併用されることがあります。体質改善に役立つこともありますが、漢方薬だけでチョコレート嚢胞を消すことはできません。
サプリメントに関しては、その効果や安全性について科学的根拠が証明されているものはほとんどありません。使用したい場合は、必ず事前に主治医に相談し、自己判断での使用は絶対に避けましょう。
Q7: 娘にも遺伝するのでしょうか?
A: チョコレート嚢胞(子宮内膜症)そのものが直接遺伝するわけではありませんが、「なりやすい体質」が遺伝する可能性は指摘されています。
家族(母や姉妹)に同じ病気の方がいると、発症リスクがそうでない人に比べて数倍高くなると言われています。娘さんには、月経痛がひどい場合は我慢せずに婦人科を受診することの大切さを、ぜひ伝えてあげてください。
Q8: 閉経後も痛みがあるのですが、なぜでしょうか?
A: 閉経後はチョコレート嚢胞による痛みは改善することがほとんどです。もし閉経後も痛みが続く、あるいは新たに出てきた場合は、嚢胞と腸や膀胱などが癒着していることによる痛みや、あるいは子宮腺筋症、卵巣がんなど、別の病気の可能性も考えられます。
放置せず、必ず婦人科を受診して原因を詳しく調べてもらうことが重要です。
Q9: どのくらいの大きさになったら手術を考えた方がいいですか?
A: 一般的には、嚢胞の大きさが5~6cmを超えると、破裂のリスクやがん化の可能性を考慮して手術が検討され始めます。特に閉経後の方では、3~4cm程度でも増大傾向があれば手術をすすめられることもあります。
ただし、大きさだけでなく、症状の強さ、年齢、MRIの画像所見、腫瘍マーカーの値などを総合的に判断します。大きさだけが手術の絶対的な基準ではありませんので、主治医とよく話し合ってください。
Q10: この先、病気とどう付き合っていけばいいか不安です。
A: 痛みが続いたり、がんのリスクを告げられたりすると、誰でも不安になるものです。大切なのは、一人で悩みを抱え込まないことです。信頼できる主治医と納得いくまでコミュニケーションを取り、ご自身の体の状態と治療方針をしっかり理解することが、不安を和らげる第一歩です。
また、同じ病気を経験した人の話を聞くこと(患者会など)も支えになるかもしれません。焦らず、ご自身のペースで病気と向き合っていきましょう。
まとめ
大切なポイント
- チョコレート嚢胞は単なる生理痛ではなく、子宮内膜症という病気です。
- 50代以降は、痛みの管理に加え、がん化のリスクを念頭に置いた定期検診が何よりも重要です。
- 治療法は薬、手術などさまざまです。閉経という体の節目を考慮し、医師と相談して自分に合った方法を選びましょう。
- 日常生活のセルフケアも症状緩和の助けになります。自分の体をいたわる習慣を持ちましょう。
健康に関するご相談は最寄りのかかりつけ医へ
この記事の健康情報は一般的な内容です。ご自身の症状や体調について心配なことがある場合は、必ずかかりつけ医にご相談ください。
適切な診断・治療には専門医による個別の判断が不可欠です。自己判断せず、まずは信頼できる医師にお話しすることをおすすめします。
監修者プロフィール:沢岻 美奈子さん

日本産科婦人科学会認定産婦人科専門医。神戸にある沢岻美奈子女性医療クリニックの院長。子宮がん検診や乳がん検診、骨粗鬆症検診まで女性特有の病気の早期発見のための検診を数多く行っています。更年期を中心にホルモンや漢方治療も行い、女性のヘルスリテラシー向上のために、実際の診察室の中での患者さんとのやりとりや女性医療の正しい内容をインスタグラムで毎週配信。




