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- 令和の美容は「心のためのスキンケア」が主流に!?
今では当たり前の習慣となった「スキンケア」という言葉が定着したのは、平成になってからだった!? 化粧の歴史をひも解きながら、これからの時代に求められるスキンケアのあり方を、化粧品心理学を研究する阿部恒之さんの講演から考えます。
東北大学教授・阿部恒之さんによる「化粧品心理学」を学ぶ
2019年4月から、東京理科大学のオープンカレッジ講座・化学シリーズとして「化粧品の概要」「化粧品の基礎」「化粧品の肌への作用」の講座(全12講座)が開講しています。WEB編集部では「化粧品をより深く知ることできれば、賢く使うヒントになるはず!」と早速聴講してきました。講座で紹介された内容には、化粧品の「知らなかった」驚きの真実が満載!
今回は、東北大学大学院文学研究科教授 阿部恒之さんによる「化粧品心理学」の一部を紹介します。化粧の歴史を西洋対日本という比較文化的視点で振り返り、スキンケアとメイクの区別、その心理効果などから、日本人のスキンケアについて考えていきます。
意外!スキンケアは平成生まれだった!?
今やスキンケア大国と言っていいほど、肌にこだわる日本人。日本製のスキンケア商品は海外でも高く評価されています。ですが、意外なことに日本における「スキンケア」の歴史はまだ浅く、一般的に「スキンケア」という言葉が使われるようになったのは昭和の終わりごろからで、平成になって定着したそう。
「海外では古代ギリシャの時代からスキンケア的化粧を”コスメティケー・テクネー”、メイキャップ的化粧を”コモティケー・テクネー”などと呼び、概念が言語的にも区別されていました。
日本では平安時代の書物に、美しくすること指して”けさう(化粧)”という言葉が記されています。江戸時代に書かれた『都風俗化粧傳』では、同じ「化粧」の漢字を使いながら、おしゃれ全般を「けわい」、メイクを「けしやう」と読み分けています。洗顔料の処方は「化粧下(けしやうした)あらい粉の傳」と記されています。つまりメイクの下準備として捉えられています。昭和になって”基礎化粧”と言葉が使われるようになりましたが、これも化粧のための基礎工事というニュアンスとして使われたもの。
「日本において肌の健康のために行う”スキンケア”の概念や言葉が一般的に広く認識されたのは、平成初期といえるでしょう」(阿部教授)
ベタつきが嫌だから、日本人は乳液を使わない!?
言葉の違いのほか、阿部さんによると、日本と海外ではスキンケア化粧品に使われる基本材料にも違いがあるそう。とくに油への意識の違いが顕著で、日本人はベタつかない使用感を好み、化粧品の油分を敬遠する傾向にあるとか。
「経済産業省の発表(2016年)によると、日本における化粧品の出荷金額は化粧水が1644億円に対し、乳液が695億円、クリームが783億円。このデータを見ても、日本人が化粧水を中心にスキンケアを行っていることがわかります。また、1つの化粧水に“しっとりタイプ”“さっぱりタイプ”など複数の商品があったり、テクスチャーにこだわるのも、油の苦手な日本人らしい特徴です」
この傾向は「日本が湿度の高い風土であり、油をつけなくても肌が乾燥せず、潤いを気にしなくてもよかったことが影響している」と阿部さんは続けます。
「江戸時代の化粧水は、白粉のノリを良くするための下地のようなものでした。明治時代に西洋の化粧品が入っても油分の多い乳液は好まれず、”栄養化粧水”というネーミングで普及が試みられていました。このような油分よりも水分を好む傾向は現代でも続いています。化粧水で保湿剤を、乳液で油分を補うのが肌のモイスチャーバランスを保つ秘訣です。しかし、化粧水しか使わない方が多いのが残念です」
この日本人の油への苦手意識はそろそろ見直すべき、と阿部さんは指摘します。
「地球の温暖化など環境は変化していますし、紫外線や冷暖房でも肌は乾燥します。欧米に比べて多湿とはいえ、現代の日本の肌環境を考えると、一年を通じて乳液で肌に油分を補うべきでしょう」
化粧水を中心とした水のスキンケアが好まれる日本に対し、欧米では拭き取り化粧水と油分(乳液やクリーム)のスキンケアを行うのが一般的です。これは日本の水が主に軟水なのに対し、ヨーロッパの水が硬水で、洗顔すると肌がゴワゴワしてしまうため。また、紫外線から肌を守る理由からも、諸外国では古くからこめ"油”を重用していたそうです。
「古代エジプトの記録によると、マッサージオイルが労働者の給料の一部になっていたそうです。漫画『テルマエロマエ』でもよく知られる古代ローマの公衆浴場でも油を使ったお手入れが行われていて、以降、西洋社会では油(乳液・クリーム)をスキンケアの中心に捉えてきました。古代エジプトの有名なツタンカーメンの王座には、太陽の下で妻に香油をつけてもらう姿が描かれています」
日本人の清潔志向は宗教的なもの?
西洋で発展した”油”を重用したスキンケアの歴史は、キリスト教の普及に伴い停滞期を迎えます。これは、「神の与えたもうた身体に人為を加える」教義に反するとして、清潔・衛生(化粧や入浴)が抑制されたため。
「日本の神道では体の浄化に心の浄化を重ね合わせた禊の神事が行われていました。仏教も清潔・衛生を尊んでいたことから、清潔を重んじています。日本人が潔癖なまでに清潔好きなのは、このような宗教的背景も影響しているのでしょう」
スキンケアとメイクの心理的効果
宗教的にも抑制を受けなかった日本において、スキンケアが近年まで発達しなかったのは何故なのか?これには、スキンケアとメイクの心理的な効果が影響していると考えられます。
「スキンケアの一環である美容マッサージ、いわゆるエステティックは、リラクセーション効果が立証されており、気持ちを落ち着かせ、生理的な鎮静作用もあります。つまりスキンケアは、肌と心の健康を維持・増進するために自分「私」に向けて行う行為であり、自らを慈しむ「いやし」の化粧と言えます。
一方メイクは、錯視などの知覚心理学的な効果で容貌の印象を変えるもので、外見を好ましく演出する”飾る”化粧。他者・社会から自分がどう見えるかという意識を高める「公」の行為であって、社会と対峙する「はげみ」をもたらす化粧です」
そして、この「私」と「公」の切り替えの契機となるのが、スキンケアでありメイクだと、阿部さんは言います。
「スキンケアを行うと心のアンテナが私に向き、メイクでは外向きになります。朝にメイクをしてオン(公)の顔をつくり心を外向きにする、夜にメイクを落とすことでオフ(私)に戻る。この心理的変化を起こすスキンケアとメイクは、感情調整装置であると言えるでしょう」
平成は女性のライフスタイルが変化した時代でした。雇均法(*)や労働法が改正され、女性が結婚や出産をしても社会で働くことが一般的なことに。女性が家から外へと社会進出した結果、外向きの心やストレスからの癒しの「スキンケア」が求められたのは必然だったのかもしれません。
そして、このスキンケアによる癒しは、女性のライフスタイルがますます多様化するであろう令和の時代、より一層求められるようになると考えられます。
「心のアンテナが自分に向くスキンケアは、ストレス解消にもつながります。光や音などの刺激を遮断したり、深呼吸をするとより効果的ですし、アロマなどの香りを取り入れるのもリラックスできるのでおすすめです」
これからの時代、心の癒しとしてのスキンケアはどのような発展を遂げるのでしょうか? 水分重視、テクスチャーにこだわるスキンケア商品の進化にも注目したいところです。
(*)雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等女子労働者の福祉の増進に関する法律
阿部恒之さん
東北大学大学院教授 東北大学を卒業後、(株)資生堂ビューティーサイエンス研究所に心理学研究員として勤務。在職中に、東北大学大学院文学研究科の社会人研究者コースに編入学し、2005年より現職。著書に『ストレスと化粧の社会生理心理学』(フレグランスジャーナル社)、『化粧品科学へのいざない』シリーズ第1巻 文化・社会と化粧品科学(薬事日報社・共著)など。
東京理科大学のオープンカレッジ講座・化学シリーズは、「化粧品の概要」「化粧品の基礎」「化粧品の肌への作用」の講座(全12講座)は、一般の方も聴講が可能です。興味のある方は、公式ホームページでチェックを。
取材・文=田中優子
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