前向きに生きる「自分の感情との付き合い方」#1

自衛隊メンタル教官・下園壮太さん|心の疲れをとる術

公開日:2022.12.04

更新日:2023.08.20

マスクの着用が個人の判断になり、日常が戻りつつある今。一方でコロナ禍における心の疲れを引きずっている人も多いのではないでしょうか。弱ってしまった自分を受け入れ対処する方法について、心理カウンセラーで元自衛官の下園壮太さんにお聞きしました。

心を疲れさせる、2つのストレスとは?

心を疲労させる、2つのストレス

※このインタビューは2022年4月に行いました。

2020年に初めて新型コロナウイルス(以下、コロナ)の感染拡大による緊急事態宣言が発出されてから、みなさんは心に疲労をためてしまったことにお気付きでしょうか?

心を疲労させるストレスは2つあります。それを私は、「不快感情の苦」と「エネルギー苦」と呼んでいます。どちらも、人間が原始時代から感じてきたものです。

「不快感情の苦」は、怖い、暑い、寒い、痛いなど、明確に嫌な感情になるストレスのことです。猛獣が来たら早く逃げられるように、あるいは、腐った食べ物を口に入れたら吐き出すように、原始人が命を守るための信号になっていました。

命と直結するものなので、危険があった場合に、「瞬間的」に「大きく」発生するのが特徴です。一方で、「もう危険はない」と原始人的感覚が判断をすると、一気に小さくなってしまいます。

「エネルギー苦」は、自分のエネルギーが減っていくことに対してのストレスです。食料や水場を求めて一日中歩いていた原始時代。移動のために使うエネルギーが減ることには警戒が必要でした。

ただ、不快感情の苦のように命と隣り合わせの危険ではないので、ストレスに感じづらい特徴があります。言ってみれば、「わかりにくいストレス」です。

心を疲労させる、2つのストレス

それでは、この2つのストレスをコロナ禍にあてはめてみます。

コロナは生命に直結する不安なので、不快感情の苦はとても大きい。ですから、2020年の緊急事態宣言では、多くの人の心が一気にざわつきました。

しかし、最初の緊急事態宣言から時間が経過し、コロナによる生命の危険を感じなくなってきた人たちの不快感情の苦が小さくなったと言えるでしょう。

ところがエネルギー苦の方は、不快感情の苦が終わっても、変わらず私たちを疲労させます。コロナでのエネルギー苦は、「我慢」「運動不足」「孤立」「日常の喪失」など、さまざまです。

コロナ禍が長期で続いている今、これらの“わかりにくいストレス”こそが、私たちを疲労させ続けて危険なのです。

わかりにくいストレスが蓄積!こんな感情はありませんか?

  • 罹患(りかん)することへの不安
  • 社会への不安
  • 自由の制限
  • ストレス解消法の制限
  • 人と会えない孤独感
  • 生活環境の変化
  • 新しい生活様式への対応
  • 自分も周囲もイライラ
  • 楽しむことへの罪悪感
  • 何もできない無力感

自分の疲労段階を確認して、ストレス度を把握

自分の疲労段階を確認して、ストレス度を把握

ストレスは、心にも体にも疲労を蓄積させていきます。

そして、疲労が蓄積された状態は、3段階に分けられます。

健康な人は、「第1段階」にいます。理性的な判断ができ、冷静に生活を送れている状態です。そこから疲労が蓄積され「第2段階」になると、さまざまな不調が出てきます。

また、常に緊張状態にあったり、自分の弱みを認めたくなかったり、楽しいという感情が少なくなってきたりなどの特徴があります。

そして、「第3段階」になると、うつ状態です。別人のようにイライラして、とても感情的です。自分へのダメ出しが増え、他人のアドバイスを受け入れなくなります。

あるストレスを感じたとき、第2段階の疲労状態であったら、体の疲れやすさや心が受けるダメージは第1段階の2倍になります。回復にかかる時間も同じく2倍。そして、第3段階になると、それらは3倍になってしまいます。

コロナによるストレスが続き、今は4割程度の人が第2段階にいると私は考えます。第2段階の人は受けるダメージも回復の時間も2倍ですから、疲労が次々と蓄積されます。

いつ第3段階になってもおかしくない状態です。ご自身の疲労の段階を認識しましょう。下記のような兆候があったら要注意です。

自分のストレスレベルを簡単チェック!

  • 不眠である
  • 食欲不振である
  • 頭痛や腹痛などの身体症状が続いている
  • 病院で対処しても治らない体の不調がある
  • いつもならやり過ごせることが、やり過ごせない
  • 好きなことから遠ざかっている

1つでもチェックがついた方は、疲労の第2段階にいるかもしれません。次に紹介する対処法を取り入れてみてください。

蓄積疲労を解消するには休むことが重要

蓄積疲労を解消するには休むことが重要

蓄積された疲労を取り除くのに、すぐにできて効果的なのは寝ること。体の疲れと心の疲れは表裏一体です。3日間くらい何もせず、しっかりと寝られたらベストです。

普段の生活を送りながらでしたら、毎日最低8時間は寝ること。一度に8時間でなくてもいいので、寝られるときに寝られるだけ寝てください。

また、家族や気の置けない友人と、少人数で出掛けたりしてコミュニケーションをとりましょう。特に女性は、原始時代よりコミュニケーションを積極的にとり、「孤立」のエネルギー苦を防いできました。

他に、体を動かす、規則正しい生活を送るなども効果的です。睡眠の改善にもつながります。スマホゲームをしたり、YouTubeで好きな動画を見たりして、自分なりの静かな楽しみを見つけるのもいいでしょう。

ぴったり合う対処法は人それぞれです。正しいストレス解消法に、こだわり過ぎてはいけません。それがまたストレスになってしまいますから。

わかりにくいストレスへの対処法

  • 8時間以上は睡眠をとる
    眠れなくても気にしない
  • 自分なりの楽しみを見つけ、それを前向きに捉える
    “正しい”ストレス解消法にこだわらない
  • 人と会話する
    孤独とのバランスをとる
  • 体を動かす
    睡眠のリズムをつくる
  • 規則正しい生活を送る
    生活リズムをつくると不安や迷いが減る
  • 医師や専門家に見てもらう
    早め早めに対処する
  • ストレス解消法をやり過ぎない
    特に、運動のし過ぎやスケジュールを詰め込んだ旅行などは要注意

「自分も大丈夫」は禁物!疲労を受け入れて

「自分も大丈夫」は禁物!疲労を受け入れて

最後にもう一度お伝えします。

コロナ禍では、次第に慣れてしまうものの、ベースとして「不快感情の苦」があります。そこに「エネルギー苦」が重なってきます。さらに、年を取るとエネルギーは回復しづらくなってきます。

疲労の第2段階にいる人は、自分がそうであることを認識しづらく、かつ認めたくないもの。兆候を感じ取ったとしても、「他の人はできているし、自分も大丈夫」と思ってしまいがちです。

だるかったり、さまざまなことが億劫になったり、イライラしても、がんばれば表面を取り繕うことはできますから。でも、それでは、心も体も持ちません。

この数年の疲れは誰にでも出ているものと思い、自分の疲労を受け入れてあげましょう。コロナ禍のストレスを甘く見てはいけません。

次回は、40代以上に多いという「自分を責めすぎてしまう人」について。人の心の「15の特徴」と、責めすぎない気持ちの持ち方を紹介します。

下園壮太(しもぞの・そうた)さんプロフィール

1959(昭和34)年生まれ。心理カウンセラー。防衛大学校卒業後、陸上自衛隊入隊。心理幹部として多くのカウンセリングを手掛ける。現在は、NPO法人メンタルレスキュー協会理事長。『50代から心を整える技術』(朝日新書)他著書多数。

取材・文=井口桂介(ハルメク編集部)
※この記事は「ハルメク」2021年6月号掲載「こころのはなし」を再編集しています。


下園壮太さん|前向きに生きる「自分の感情との付き合い方」《全3回》

  1. 「見えないストレス」自己診断&心の疲れをとる術
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  3. ポジティブ思考が身につく朝と夜の簡単習慣

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  1. 怒り、不安…感情をコントロールする心の取説7
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  3. 不安の連鎖を断ち切る「ありがとう瞑想」

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