怒りや不安…苦しい感情をコントロールする方法#3

下園壮太|不安の連鎖を断ち切る「ありがとう瞑想」

下園壮太|不安の連鎖を断ち切る「ありがとう瞑想」

更新日:2024年01月17日

公開日:2020年08月16日

苦しい感情をコントロールする方法3
苦しい感情をコントロールする方法3

「不安」を感じたらどうしますか? さらに不安になる情報を集めてしまい、自ら不安の連鎖に陥り疲弊してしまう……。不安の悪循環から抜け出す方法は「感情を認めて、触れること」。自衛隊初の心理幹部 下園さんに、感情のコントロール術を教わりました。

何の行動もしていないのに「不安」が拡大する理由

不安の連鎖

トラブルやショックな出来事に遭遇して感情が高ぶったときに、その感情の勢いをうまく鎮める「DNA呼吸法」について、このシリーズの第2回でお話ししました。

大きい呼吸をゆっくりと繰り返すことによって心が少し落ち着きを取り戻したら、ぜひ行ってみてほしいのが、感情そのものに“触れる”というプロセスです。感情に“触れる”、一体どういうこと? と不思議に思うかもしれませんね。

実は、私たちは、自分自身が思っている以上に、自らの感情としっかり向き合えていないことが多いのです。そのことが、怒りや不安といった感情をいつまでも長引かせたり、過剰にふくらませる要因となっています。

例えば、「不安」という感情を入り口にして考えてみましょう。Aさんが、夫から「勤務先の会社で近々リストラがあるかもしれない」という話を聞いたとします。Aさんの心の中では、どんどん不安が拡大し、「リストラ」以外にも不安が飛び火します。問題はここからです。
        

不安要素

Aさんはこれらの「不安要素」を1つずつつぶしていこうと、情報を集めることにしました。まずは、インターネットでリストラというキーワードを検索。するとリストラによる苦労話、老後破産の話など、不安をさらにかきたてる情報が飛び込んできます。それもそのはず、そもそもインターネットでは、安全な情報よりも「こんなことが起こって大変だった」という危険情報の方が多く読まれ、検索結果の上位に挙がってくる傾向にあるからです。

さらに、不安という感情は「これから必ず悪いことがある」というふうに、その人の思考を強烈に方向づける特徴を持っています。ですから、不安を感じているAさんは、「安心していい」と思うような情報に触れてもそれを信じることはできず、不安をあおる情報ばかりを選び取ってしまいます。

安心するために集めた情報によって、不安がより拡大する。こんなふうに人はどんどん不安に「かきたてられて」いきます。その結果、特に何の行動もしていないのに、消耗してしまうのです。

 

不安を無理に「忘れよう」するのは、逆効果

不安を無理に「忘れよう」するのは、逆効果

不安を感じて苦しくなると、人は「忘れる」という対処をとろうとします。「考えてもつらいだけ。とりあえず忘れよう」というふうに。しかし、そうやって置き去りにされた感情はくすぶり続け、逆にじわじわと勢いを増してくるのです。

なぜなら、感情は「主(あなた)の権利や安全を守る」という目的を持っているから。「危機が迫っているかも。何らかの対策を」とメッセージを発しているのに、主がそのメッセージを「なかったこと」にしたらどうでしょうか。

感情は、大切なメッセージを届けなければと、より必死になるのです。つまり、忘れようとすればするほど、そのことを思い出すようになり、結局、気付けば常に、夫がリストラされることを考えてしまう。このように私たちは、「感情にかきたてられ、疲れる」→「忘れる」→「感情がくすぶり、さらにつらくなる」という悪循環に陥りがちです。

 

不安の悪循環から抜け出す方法は「感情を認めて、触れること」

不安の悪循環から抜け出す方法は「感情を認めて、触れること」

では、どうしたらこの悪循環に陥らずに、穏やかな日々に戻れるのでしょう。

感情は、あなたを守るために存在している。だから、邪険にせずに、まずその言い分をしっかり聞くことが重要なのです。つまり、積極的に“感じて”、そのことについて考えるということ。

ただ、これが難しい。「忘れてしまいたい」くらいのことですから、そのことを考えるには勇気がいるし、考えることによって、苦しさも湧いてきます。

苦しみを大きくしない範囲で、感情のメッセージを受け取るには、感情との微妙な距離感が必要です。それを表現したのが、感情に“触れる”という方法です。ここでは比較的簡単で、効果的な方法をご紹介しましょう。「ありがとう瞑想」です。

「ありがとう瞑想」とは、呼吸を組み合わせながら、感情に触れていくワークです。

少し背すじを伸ばして楽な気持ちで座り、呼吸を観察してみます。呼吸をコントロールしようとしないで、ただ観察します。そして「い~ち」「に~」と呼吸を数えましょう。

途中で、今悩んでいる事柄や、物音や体のかゆみなど、いろいろなことが気になってくるかもしれません。それらを邪念のように感じるかもしれませんが、原始人的感覚として、それらは実はあなたに危険を知らせたり、対処を訴えてくれているもの。

ですから、まずそれらのすべてに「ありがとう」と感謝します。そして、「だけど、今は呼吸に戻るよ」と、呼吸を数えることに意識を戻します。

悩み事が浮かぶと、「そのことは考えたくない、消えて」と否定する気持ちが一緒に湧いてくるかもしれません。でも、心の中でこんなふうに話しかけてみてください。「私に、このことをしっかり考えるように教えてくれているんだね。教えてくれてありがとう」。

そうやって感情の存在を認めた後は、呼吸に戻ります。これは、これまで否定されていた感情を尊重する態度です。だからといってその感情を考え続けるわけでなく、呼吸に戻る。だからこそ“触れる”距離感なのです。

 

感情を認めて、触れる「ありがとう瞑想」のやり方

感情を認めて、触れる「ありがとう瞑想」のやり方

1 ゆったりと呼吸をする。
どんな呼吸でもよい。ただ呼吸を数える(数息観)。40回まで数えたら、再び1に戻る。やめたいときにやめてよい。

2〈感情が湧き出てきたら……〉「その気持ちを教えてくれていたんだね。教えてくれて、ありがとう」
湧き上がった感情を否定しない。変えようともしない。ただ、お礼を伝える。

3 ゆったりと呼吸をする。
数息後に戻る。

<行うときのポイント>

  • 姿勢や呼吸をリセットしたくなったら、無理せず適宜行い、呼吸を数えます。
  • ありがとうと伝えている間は、呼吸から一時的に意識がそれても構いません。

 

不安に「ありがとう」と言えると、生きていることも楽になる

感情は否定され、追いやられると、より主張をし始めますが、宿主に近いところで、そのメッセージをある程度の時間届けられると、落ち着いてきます。「ありがとう瞑想」によって感情の波が収まってきたら、その雰囲気をキープしながら、今悩んでいるテーマを思い出してみましょう。少し「何とかなるか」「焦らなくていいかな」となってきたら、感情のケアのプロセスが進んでいる証しです。

それだけでも、十分ケアになっているのですが、Aさんのような不安の場合、もう一歩進めてもいいでしょう。

不安という感情は、「危険があるかも。それを避けるために行動して!」というメッセージを発しています。そこで、冷静になった頭で、「不安」が心配していることをきちんと見つめ、何らかの対処まで考えておくことです。すると不安はぐっと落ち着いてきます。

さらに「不安」を落ち着かせるなら

  • 「ありがとう瞑想」の体と心の感覚を維持したまま、不安なことを考えてみましょう。何が不安の原因だろう? どうして今、不安になったのだろう? 何が変われば落ち着くだろう? などと自問自答してみてください。
  • このシリーズの第1回で紹介した「7つの視点」をこの段階で試みると、発見やヒントが得られやすいです。
  • ただし、考えているうちにまた不安な気持ちが強まってきたら、再び「ありがとう瞑想」の呼吸に戻りましょう。

感情のケアには、何らかの明確な解答があるわけではありません。このように何度か、ほどよい距離感でしっかり考えていくうちに、自分なりの「落としどころ」を見つけていくことが、ケアのゴールになるのです。

この「ありがとう瞑想」を練習していただくと「こんなに自分に『ありがとう』って言ったのは初めてです」と驚く人が多い。自分の感情に、ありがとうと言えるようになると、今、自分が生きているということへの感謝も湧き上がってきます。

心のストレッチにも効果がある「ありがとう瞑想」。ぜひ試してみてください。

下園さんから、あなたへ、贈る言葉

感情は否定するともっと訴えかけてくる。
邪険にせず、存在を認め
「ありがとう」と伝えよう。


■教えてくれた人
下園壮太さん

下園壮太さん

しもぞの・そうた メンタルレスキューシニアインストラクター。1982年、防衛大学校を卒業後、陸上自衛隊入隊。心理幹部として多くの隊員のカウンセリングを手掛け、2015年に退官。現在、講演や研修会を行う。近著に『自衛隊メンタル教官が教える 50代から心を整える技術 』(朝日新書)https://www.yayoinokokoro.net/


取材・文=柳本操

下園壮太さん|苦しい感情をコントロールする方法《全3回》

  1. 怒り、不安…感情をコントロールする心の取説7
  2. 負の感情に飲まれない距離の取り方、鎮め方
  3. 不安の連鎖を断ち切る「ありがとう瞑想」

※この記事は、雑誌「ハルメク」2016年11月号に掲載した「こころのはなし」を再編集しています。


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HALMEK up編集部
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