公開日:2019/10/06
山梨県甲府市にクリニックを構え、4000人近くの命を看取ってきた在宅ホスピス医・内藤いづみさん。日本の医療政策が病院から在宅へと転換期を迎える中、患者とのエピソードを綴った著書『死ぬときに後悔しない生き方』に込めたメッセージとは?
本著は冒頭、在宅ホスピス医・内藤いづみさんの読者へのこんな投げ掛けから始まります。「想像できないという人もやむを得ません。半世紀前まで人が死ぬ場所は『自宅』だったのに、それが『病院』へと変わっていった。それに伴い、身近にあった『死』に私たちは触れることがなくなってしまったのですから」と語る内藤さん。
しかし今、日本の医療政策は、在宅や地域での看取りを推し進め、「病院では死ねない時代」へと転換期を迎えています。「自分の死、家族の死を家で迎えることになる。『死は暗い話』と目を背けている場合ではなくなってきているのです」と警鐘を鳴らします。
「幸せなエンディングのために、どんな最期を迎えたいのかをゆるやかにイメージしておく。この本が、そんなきっかけになればうれしい」
自分の余命を知ったとき「家族の洗濯物を畳みたい」と願い、家で愛する家族とともに穏やかな日々を過ごした女性、花が咲く頃に自分はこの世にいないことを知りながら、「孫のために」と庭に球根を植え続けた男性――。本著では、親交のあった永六輔さんをはじめ、内藤さんが寄り添ってきた21人の命との向き合い方を紹介。死を考えることは、生き方を見つめ直すこと。自分らしく生を全うしていった一人一人のエピソードから、そんなメッセージが伝わってきます。
エピソードにも登場する母・富士丸(ふじまる)さんを本著の上梓直前に看取った内藤さん。「97歳の大往生。家族に見守られ、最期に『はぁーっ』と大きく息をして旅立っていきました。まるであの世への扉を力強く開けるかのようでした」と振り返ります。
「母は身をもって『死は怖くない、とてつもない大冒険だ』と私に教えてくれました。私の理想の死に逝く姿は、母のような最期なのかもしれません」
内藤いづみ(ないとう・いづみ)
1956(昭和31)年、山梨県生まれ。ふじ内科クリニック院長。福島県立医大卒業後、東京女子医大などに勤務。86年からイギリスに渡り、プリンス・オブ・ウェールズ・ホスピスで研修を受け、95年、甲府市にふじ内科クリニックを設立。『笑顔で「さよなら」を 在宅ホスピス医の日記から』(KKベストセラーズ刊)など著書多数。
取材・文=小林美香(ハルメク編集部) 撮影=中西裕人
※この記事は雑誌「ハルメク」2019年4月号に掲載された内容を再編集しています。
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内藤いづみ著『4000人のいのちによりそった“看取りの医者”が教える 死ぬときに後悔しない生き方 』(1300円・税別 総合法令出版刊)
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