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2024年06月22日

シリーズ彼女の生き様|坂東眞理子 #4

自分らしさを生かすのに本当に必要な「女性の覚悟」

一つ一つは特別ではなくても 手持ちの得意技を組み合わせると 自分ならではの仕事ができるものです

目次

自分らしさを探しても
答えは見つからない

第1回でお話ししましたが、35年近い公務員生活を経て、57歳で大学という新しい世界に飛び込んだときは、不安と自信のなさでいっぱいでした。今、当時の私と同じように、50代以降の人生後半期をどう生きたらいいかと、不安や迷いを抱えている女性も多いのではないかしら。

この年代に必要なのは「覚悟」ではないかと思うんです。

例えば50歳の女性の場合、平均余命は約40年。余生としてのんびり過ごすには長すぎる後半生が待っています。しかも残念なことに、日本の国力は衰え、経済的にも厳しい時代に入って、長い老後を好きなことだけして過ごすことは、もはや不可能に近い。

だから50代以降も、もちろん定年後だって、働くのは当たり前。少なくとも70代は働き続けるという覚悟が絶対に必要だと思います。私は今77歳ですが、定年退職を意識したことはありません。働ける限り働こう、それが当たり前だと思っています。

かといって、これから私にはどんな仕事ができるのかしら、何をやりたいのかしら、そもそも私って何に向いているのだろう……などと自分を深掘りして考えてしまう方もいるかもしれませんが、おすすめしません。こういうことをするのを、私は「玉ねぎの皮をむくみたい」って言うんです。私も若い頃はさんざん自分をむきました(笑)。でもね、皮をむいてもむいても、答えは絶対に見つからない。

それよりも、まずはやってみる。たとえ失敗してもいいんです。失敗したら、ああ、こんなふうにやったからダメだったんだなとか、こ の仕事は自分にはあまり向いてなかったんだな、ということがわかります。その方が、何もしないでいるより、ずっと役に立ちます。

あなたの手持ちの才能を
次のステージで花開かせて

もちろん、できないこともあるんですよ。能力がないとか、これまでの経歴が大したことないとか、家族の理解が得られないとか、できない理由を数えていけばあっという間に10や20出てくるかもしれません。でもね、「それが自分なんだ」とまずは受け入れるのです。現実を受け入れるのも、「覚悟」なんじゃないかしら。

そして受け入れた上で、“手持ちの得意技”で何ができるかを考えていきましょう。何か一つ特別に突出した才能を持っている人というのは、本当にひと握りです。多くの女性はそういった突出した才能は持っていないけれど、そこそこの得意分野をいくつも持っています。

私は研究者として調査・研究は一応実績がある、局長や副知事として組織を動かしたことがあるとか、本を書くのが好きだとか、海外経験があるといった、まあ80点くらいのものが3つ4つあって、それらを組み合わせることで、大学でも他の人とは違ったことが結構できています。

一つ一つはそれほど特別なことではなくても、手持ちの得意技を組み合わせると、自分ならではの仕事ができるのです。

昭和女子大学の総長室の棚には、
写真や資料、著書や取材の掲載誌、海外での思い出の品など、
これまでの仕事の思い出が飾られている

これまで社会で働き、家族の面倒をみて家庭を切り盛りし、いろいろな人と付き合ってきた私たちは、そういう社会経験の中で身に付いた生活の知恵や働き方の勘やスキルといったものを、いくつも持っているはずです。

例えば、きちんと約束を守るとか、誰かが大変なときは手助けするとか、そしてまた、その手助けしたことがいつか自分に返ってきて困ったときには手助けしてもらえるとかね。気付いていないかもしれませんが、多くの女性がそういった知恵や経験を持っているんです。それも立派な手持ちの才能です。

「私にはできない」「今さら無理」「ついてない」「家族の理解や支えがない」などと嘆くのは、もうやめましょう。50代以降ともなれば、それはもはや“甘え”です。あなたの手持ちの才能をこれからの新しいステージでぜひ生かしていってほしいと思います。

人生後半、必要なのは
貯金や家よりも「無形資産」

この年代だと子育てや教育費、家のローン返済などから解放されている方も多いでしょう。ならば、「少しでも収入のよい仕事を」とか、「ステイタスの高い仕事を」といったところからは少し離れ、世のため人のためというとちょっと大げさですが、“人の役に立つ”という意識を持って働くようにしていくのもいいですね。

そういう気持ちでいると、仕事に対する見方が違ってきて、気持ちにも余裕が生まれてくるものです。

例えば、介護や育児といった分野は慢性的な人手不足です。多くの女性が家庭の中で行なってきた温かいケアの経験は、家庭の外でも生かすことができます。もちろん、介護や育児以外にも役に立てること、できることはたくさんあるはずです。

これからの人生後半期を生きていく上で大切なものは3つあります。第一は健康、第二はお話ししてきた「働く力」と「稼ぐ意欲」、そして第三が縁あって知り合った人たちとの「ネットワーク」です。ネットワークがあれば、困ったときに話を聞いてもらったり、逆に相談に乗ってあげたりして、助け合うことができます。

これらはまさに“無形資産”。これからの人生を生き抜いていくには、貯金などの“有形資産”よりもずっと大事なものだと私は信じています。3つの無形資産を持っていれば、60代でも70代でも無理せず自分のペースで働き続けられるはずです。

取材・文=佐田節子 写真=林ひろし
構成=長倉志乃(ハルメク365編集部)

坂東眞理子

ばんどうまりこ

 

1946(昭和21)年、富山県生まれ。東京大学卒業。69年、総理府入省。内閣広報室参事官、男女共同参画室長、埼玉県副知事などを経て、98年、女性初の総領事(オーストラリア・ブリスベン)。2001年、内閣府初代男女共同参画局長を務め退官。04年、昭和女子大学教授となり、07年、同大学学長。16年から理事長・総長、23年から現職。06年刊行の『女性の品格』(PHP新書)は320万部を超えるベストセラーに。最新刊に『幸せな人生のつくり方――今だからできることを』(祥伝社文庫)など著書多数。

HALMEK up編集部
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