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木曽三川と薩摩藩
濃尾平野(名古屋から西方面の平野)を、とうとうと流れ行く大河。濃尾平野には、大きな三つの川が流れて肥沃な平野を形作っています。
木曽川、揖斐川、長良川が近寄ったり離れたりしながら、河口に向かって流れ行く様は雄大な景色です。
至る所に輪中(わじゅう)を形成し、畑作にとっては養分を含んだ土が堆積している場所です。しかし、一度台風などにより水嵩が増せば、大きな濁流となり入り乱れて三つの川が暴れだすのです。
江戸時代・宝暦4年(1754年~1755年)幕府の命令により、雄藩であった薩摩藩に治水事業の下命がおります。
これは薩摩藩にとっては否と答えれば合戦覚悟、諾と答えれば藩の財政を益々ひっ迫させることになります。が、ここで否やはならず、へりくだりつつもありがたくお受けしますと答えるほかありません。
薩摩藩は平田靱負(ひらたゆきえ)を筆頭に、大阪・堺により借財を負いつつ濃尾平野にやってきます。最終的には薩摩藩士974名になります。
治水工事に用いる杭、松の木など運び込むという命令で、その上当地の農民を規定賃金よりも高い賃金で雇い入れ工事を進めよという過酷な命令です。かかったお金は、最終的に今の値段で300億円とも言われます。
悲劇が続く
宝暦4年2月、土手を築き始めると幕府側の妨害があり、堤が3回も破壊される事件が起こります。これは幕府側の役人による陰謀であり、4月14日ここで初めて薩摩藩士の中から抗議のための自害2名が犠牲になります。
しかし、途中幕府側からも自害するもの2名、人柱1名が犠牲になります。最終的には工事終了後の責任を取り、平田靱負も含めると53名の自害者が出るのです。
また雇い入れる農民の治水工事には不向きな働き方、高い賃金などにも苦しめられます。
また一汁一菜と言う栄養不足、過酷な労働、夏の季節には赤痢が発生し157名が罹患、33名が亡くなります。
治水工事完了
治水工事は、多大な犠牲者を出しながら1755年5月22日に完了。平田靱負は、5月24日に薩摩に向けて報告をし、5月25日全責任を取り自害して果てます。
治水後の借財22万298両は大阪からの借財とのことですが、その後の返済としては薩摩で収穫されるサトウキビに多くの税を課したとされます。その後の薩摩の民は、その税によっても多くの犠牲と過酷な生活を強いられたと言います。
木曽三川公園と治水神社
今は木曽三川公園(愛知、岐阜、三重の3県にまたがる日本一広い国営公園)近く、当時の薩摩藩士が植えた土手の松の木がどっしりと立っています。
明るい公園内、見事な春のチューリップ祭には、かつての薩摩藩士の悲願も忘れ去られているようですが、横断歩道を渡ると立派な神社があります、それが平田靱負を祀る「治水神社」です。
豊かな流れと平和な光景から少し目を向けて、かつての薩摩藩士の姿をどうぞ偲んでほしいと思います。
脈々と歴史の中に消えていった人々の労力の上に現在の大河の治水、平和な世の中ができているのだと痛感しつつ、かの地を離れました。
稲荷社隣の神社に藩士の墓がありました。
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