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人生をどこかで切り替えて今までとは違う自分になれるチャンスがあったとしたら……。チャレンジしますか? 古今東西、昔からそんな場面があったのではないかと想像してみました。
神社にて
日本各地にあるいろいろな神社、町はずれの変哲もない神社でのお話です。
仕事が終わってお昼過ぎに職場を出ます。朝、簡単に作って持ってきたお弁当を神社の石段に座って食べる事が度々あります。人様の視線が届かない神社の一角、社の前の石段に日が当たりポカポカの特等席です。
食べ終わって周りを見てみると、一抱えの石が置いてあります。「ああ、そうね、これが力石だわ」と気が付きます。見慣れていそうで、どこにでもありそうな力石です。思わず時間を忘れてちょっと時空を飛び越えてみると……。
力石って?
「力石」って知っていそうで知らなかった気もする。力比べでもしたんだろう……くらいの知識の私です。
「力石」の始まりは、古くは石占(いしうら)から始まったようですが昭和の初めくらいまで続いたといいます。全国には約1万4000個の「力石」が存在しています。重さは、75kg~110kg。石に掘り込んである一番古い年号は、西暦に直すと1632年のものが埼玉県にあります。
神社の祭りや行事などで人が集まる折に、力比べをしたのだろうと思われます。「かたげ」「盤持ち」「番持ち」と村の中での力持ちを競ったものです。また、村一番になった折には「石担ぎ」「耐え比べ」「強力」などと呼ばれたようです。
ひと昔前であれば、労働力はすべて人力であり、力持ちであることが誇りでもあった時代です。
お話を一つ
村の美人の娘に想いを寄せる男二人、祭りの夜に力比べで勝ったものがその娘の婿になれると……競争したとしましょう。
いつも村の中では真面目でおとなしく、意気地なしとみんなに思われていた小柄な男性と、普段は力仕事が得意で誰もが認める大男が力石で競うことになりました。村中のみんなは、大男が必ず勝つものと思って、小柄な男が勝つとはだれも思っていなかったのです。
しかし、小柄な男がどうしたことか、この日はすごい力を出して力石を持ち上げたのです。かたや、みんなの応援があった大男は力石を落してしまい持ち上げることはできませんでした。
大男は悔しがりました。しかし約束通り勝った小柄な男が婿になりました。
しかし、婿になってみると……、力石を持ち上げてから腰を傷めており、畑仕事などの力仕事ができなくなりました。そのうちにだんだん体が弱り、寝たり起きたりの生活になりました。でもその美人の嫁さんは心優しい女性で、夫になった男をいたわりながら看病し一生懸命働きました。
力石の試合に負けた大男、実は見るに見かねてその夫婦の畑を耕したり、水汲みなどを手助けするようになりました。体の弱った男も大男に感謝し、自分の体調の良い日には草履を編んだり、蓑傘を作ったりなどの座り仕事を丁寧にするようになり、それを美人の嫁さんは売り歩いて生計をたてました。
かつては競った相手でもこの二人の男は一生涯、助け合い協力し合って村の中で暮らしたのです。
と、いった話があったかもしれません。
新たな展開
力比べで思いがけずに村一番の力持ちと称される立場に立ったとき、今までとは違った人々の賞賛、喝さいを浴びる立場になったものも多数いたはずです。
弱虫、情けない奴、と言われていた若者がある日の村の祭礼で力石を持ち上げたことから、誇らしい日々が開かれ、新たな仕事を得ることができたかもしれません。「大したもんだ、これじゃよく働くだろう」と一転して英雄のようにこの先の日々を過ごせたかもしれません。
神社の中にそっと置かれている力石に、そんな物語や人生の展開があったかもしれない、などと想像してしまう私です。
力石にふと心が立ち止まってしまってからは、神社を見れば立ち寄って境内をきょろきょろと力石を探してしまいます。そして、この地ではどのような物語があったのだろうと、想像がどんどん広がります。
しかし、私が持ち上げてみようとは思いませんので、あしからず。
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