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「母さん」と呼んでも返事がないのです。どうすることもできない虚しさ。いつか人は死ぬ、それまでが大切だと。とうとういなくなった母の遺影に向かい、心細さが襲ってきます。
そうか、あなたはいないんですね
母の化粧した顔「きれいだなぁ」と思いました。まつ毛が長いこと、髪の毛が多くてふさふさです。
母さんごめんなさい。心配ばかりかけて……。働き者の母でした。老人ホームに入って退屈だったかもしれません。じっとしている姿を思い出せないくらい、よく動く人でした。
教育熱心で、授業参観には一番早く見に来てくれました。日頃見ない着物姿で……。うれしかったです。
農作業の傍ら着物を縫ってくれました。成人式の写真を見て、思い出します。着物を着るような生活をして欲しかったんでしょうね。穏やかな生活ができなくて悪かったなーと思います。私も行き急ぎのように生きていました。
親孝行もできませんでした。沖縄に一緒に行ったとき、病気に気がつかなかった。三叉神経を患っていたなんて。そりゃあ楽しい顔できないね。言ってくれれば良かったのに……。
もっと話したりできたはずなのに、どうしてだろうか。
老人ホームの面会時間には、若い頃の話をしてくれました。
その頃は楽しかったんでしょう。時間も忘れてお喋りして、母のことが少しわかったように思ったものです。
「また来るからね」と言うと一緒に帰りたそうでした。
慌てて施設の方が玄関ドアを閉めました。心苦しかった。涙が出ました。ごめんね。母さんひとり残して。
母の人生は幸せだったのだろうか
子供3人の手を引いて、村外れまで行ったけど引き返したって言ってた母。自分で身の振り方を判断することが難しい時代でした。女性が子どもを育てる生活力、仕事さえなかった。
暗い夜空に深呼吸して明日から一人です。ぽっかり穴が開いたようです。やっぱり死んでしまうんですね。最後の2か月、足にまで点滴していました。痛々しい。つらかったでしょう。
とうとう、自宅に連れて来ることができなかった。
どうしたら良かったのか。今頃になってなぜかいろいろなことを後悔しています。もう遅いのに……。取り返せない時間を失ってしまった自分に腹が立つんです。
粛々と執り行われるお通夜、火葬、お坊さんのお経、日頃見ない親戚一同、遠くから来てくれたんです。それなのになんともいえない疲労感が襲ってきます。時に任せよう。それしかない。
人は大事な人を亡くしたとき、その人の存在が自分を輝かせていたことに気付くのかもしれません。
母の生まれ変わり、一時もじっとしていない赤ん坊が生まれたんだ。きっと。
やっとこさ涼しくなり、服の入れ替えに精を出しています。何が忙しかったのか色褪せたのも気づかずにタンスにある服、もう来年まで取っておかなくてもいいよね。
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