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「折り句」を続けるからには「いい句」を作れるようになりたいと、先生の評と雑誌『ハルメク』で入選した句から、「いい折り句」のポイントについて考えてきました。今回は、ポイントその3と、折り句の魅力について書きたいと思います。
ポイントその3、「平易な言葉」で
雑誌『ハルメク』2021年9月号のお題「たうえ」で、私はこんな句も詠みました。匠繰る 鵜は何思う ゑひもせす ゑひもせすはいうまでもなく、いろは歌の最後「ん」の前の部分です。
実は、いろは歌も「折り句」になっているという説があるそうです。いろはにほへ「と」 ちりぬるをわ「か」 よたれそつね「な」 らむうゐのお「く」 やまけふこえ「て」 あさきゆめみ「し」 ゑひもせ「す」
7音ずつに区切って、終わりの言葉を繋げると、「咎(とが)なくて死す」つまり、「私は無実の罪で殺される」となります。
もちろん鵜飼の鵜が殺されるわけではなく、それどころか鵜匠との絆はとても強いそうなのですが、私は鵜飼の季節が来るたびに、鵜はどんな思いで自分が食べるためでもない魚を懸命に取るのだろうかと不思議な気持ちになるのです。
これだけの説明を要する私の句。説明なしで心に届く、「平易な言葉」で景が見える「折り句」を詠めるようになりたいものです。
「折り句」の中で私は自由になれる
9月号で示された次なるお題は「ゆかた」。悪戦苦闘中に大失敗をしそうになりました。「折り句」に季語は不要。その代わり、「お題」の1字目と2字目、2字目と3字目とを続けて使ってはいけないと言う決まりがあるのです。
その点で、作りかけたこの句は✖。ゆかいげに かけとびはねる ただ夢で そこで詠み直したのが、夢の中 駆けて踏み切り 高く跳ぶ 脳出血後遺症による半身麻痺で、駆けるどころか歩くことさえままならない私ですが、「折り句」の中でなら走り高跳びだってできるのです。
連綿と続く「言葉遊び」としての「折り句」
ところで「折り句」はいつ頃から始まったのでしょうか。
9世紀には既に書かれていたといわれる作者不詳の日本最古の歌物語、「伊勢物語」にこんな「折り句」が登場しています。唐衣 着つつなれにし つましあれば はるばる来ぬる 旅をしぞ思ふ
5・7・5・7・7の冒頭の文字をつなげていけば、「かきつばた」と言う言葉が表れます。この歌は「古今集」の中にある在原業平(ありわらのなりひら)のもの。「伊勢物語」は、モテ男として知られる「在原業平」の一代記だとも言われています。
10世紀初め頃に編さんされた、日本最古の勅撰和歌集「古今集」にはこんな歌もあります。小倉山 峰立ちならし 鳴く鹿の 経にけむ秋を 知る人ぞなき 紀貫之(きのつらゆき)作のこの歌には、「をみなへし(女郎花)」が折り込まれています。
これらのことから、平安時代には盛んに「折り句」が詠まれていたであろうことが想像できます。
時代は進んで14世紀。鎌倉時代から南北朝時代を生きた「徒然草」の作者、吉田兼好(よしだけんこう)には、「折り句」での親友とのやりとりが残っています。
〈兼好〉 よもすずし ねざめのかりほ た枕も ま袖も秋に へだてなきかぜ 冒頭の文字をつなげば、「よねたまへ」となります。よねとは米のこと。「米をください」というのです。さらに各句の最後の文字を後ろからつなぐと、「ぜにもほし」すなわち「お金も欲しい」となっています。
兼好の親友で、歌壇の中心人物でもあった頓阿。さすが親友と言うべきか、歌の名人と言うべきか、何の説明も無しに兼好の「折り句」を読み解き、同じように冒頭とお尻の文字を「折り句」にして返事を送ったのです。
〈頓阿〉 よるもうし ねたくわがせこ はてはこず なほざりに しばしとひませ 「よねはなし」「米は無い」が、「ぜにすこし」「お金は少しある」となります。お見事! 兼好と頓阿がやりとりしたこの「折り句」、歴史に残る名作となったのだそうです。
古(いにしえ)の人々の言葉に対する感覚の鋭さと機知にとんだやりとりに、すっかりハマってしまった私です。
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