母の遠距離介護の経験を経て、始めた私の終活

2021年08月08日

母を見送って思うこと

母の遠距離介護の経験を経て、始めた私の終活

身近に起こる父母などの介護、みなさんどんな選択をしていらっしゃいますか。私は子供たちも独立し、介護に時間を割くことができたのは幸いでした。母の病気、日々の過ごし方、介護してくれる人への気遣いなど。そうした中での私の経験を聞いてください。

母の病状

母は50代で盲腸、その後も心臓の手術をし、1年後には胆石の手術を受けています。60歳半ばには、WPW(ウォルフ・パーキンソン・ホワイト)症候群という心臓の病気で大手術を受けました。長年苦しんできた不整脈がかなり改善され、普通の生活を続けることができました。父は慣れない家事で、一生懸命に母の手助けをしていました。

母の病状

78歳のときに父を亡くし、80代になって主幹狭窄症で両手の平を切開しての手術を受けました。その後も、庭仕事や俳句、和紙のちぎり絵などをして元気に一人暮らしを続けていました。

母の病状

遠距離要介護の始まり

91歳まで何の問題もなく過ごしていましたが、次第に手がしびれて包丁がうまく使えない、腰が痛いなどなど言うようになりました。気になるので月に2回、1週間ずつ世話をしていました。

聴覚の具合が悪く、通院回数が多くなり、体力的にもかなり苦痛だったと思います。家計簿の数字がうまく書けなくなると、煩わしいと思える銀行、証券、もろもろの家庭事務は私に一任されたことで、弟妹のねたみをかうことになり、つらい思いをしました。

要介護の段階ですから、一人でほとんどのことはできていました。脚はしっかりしているので、一緒に散歩に出たり、庭の草取りをしたりと、ともに行動できました。過ぎた日の思い出話もたくさんしました。

本格的遠距離介護の始まり

92歳の春頃、不整脈がひどくなって入院。誤嚥肺炎になって2度目となる入院です。

93歳の冬、誤嚥肺炎で入院中「もう病院にいるのは嫌だから、自宅で療養したい」と言い出し、ドクター、介護士さんたちと相談の上、訪問診療と訪問ヘルパーに切り替えることになりました。

94歳の1月に退院。そこから本格的な自宅介護が始まりました。妹と1週間交代です。妹は新幹線、私は高速バスとJRで通いました。

父の介護の反省から、将来母のときに役立つようにとすぐホームヘルパーの講座を受け、2級の資格を取っていましたので、(世の中の人には一度も役立てていませんが)今回は少し落ち着いて介護にあたることができました。

本格的遠距離介護の始まり

自宅では、おむつでなくできる限りポータブルトイレを使用。横になる時間が多いので、足が弱っては困ると本人は言います。母のプライドもあったと思います。食事のメニューは、いつも変えることで残さず食べてくれました。ベッド上での小さな運動も、欠かさず努力してくれました。

あるとき母は「ずっとベッドに臥せっている病人は、どんなふうに日々を過ごしているのかしら?」と問うてきました。これを機に、私は母が有意義な一日一日を過ごせるよう、気を付けなければならないと思いました。

ずっと続けてきた趣味の俳句を口ずさんだり、私の句を添削したり。近年始めたパステル画を描いてみたいと言うので、庭に咲いたバラなどを描いて楽しんでくれました。30分もすると腰が痛くなって横になり、また起きて描くことを繰り返して完成しました。

本格的遠距離介護の始まり

耳もかなり難聴になり、補聴器を付けていても聞き取りが難しくなってきたので、B5サイズの電子黒板を使い会話を続けました。母はしゃべれますから、黒板を使うのは私です。

母が目を閉じているときも、できるだけベッドのそばで読書や手仕事をするようにしました。目覚めると、すぐそばに寄り添っている人がいれば、母はずいぶん安心した顔をして、「あら、そこにいたのね」とうれしそうでした。

本格的遠距離介護の始まり

ベッドのそばに呼び出しベルを置き、私がどこにいても受信できるようにしておきました。これはかなり役に立ちました。耳が遠くなってからは、電話より携帯(孫からのプレゼント)で孫たちとメール会話を楽しんでいました。

母の終活準備

私自身の終活準備

私も今、終活なるものを始めようとしています。母は私たちが困らないようにと、着々とすべての準備をしてくれていたことに感嘆しました。

  • 葬儀場を決め予約金を払っていた(その場になって慌てないため)
  • 生前戒名をもらっていた(自分の死後、どんな名前で供養されるのかを知っておきたかったため)
  • エンデングノートを作成していた
  • 公証役場の遺言書を作成していた
  • 見舞いに来た子供たちに要るものを持ち帰るようにと勧めていた

最後まで思考能力は劣ることなく、しっかりしていたのは本当に幸いでした。亡くなる2か月前から、ときどき、「もういいでしょ?」と問うてきました。これは、もうあの世に行ってもいいでしょ? と私に問いかけていたのです。

8月近い頃にも問いかけてきたので、私は「この暑いときは何かと大変だから、もう少し涼しくなるまで待って」と答えて、2人でクスりと笑いました。母は困った顔をして、「もう早く逝きたいわ」と。

それから4週間後、母は朝の洗顔と化粧を済ませ、ほんの少し食事を摂りました(このときすでに意識がもうろうとしていた)。それでも排便を済ませ、ほっとしたのか、横になり目をつむっていたので、私は別の部屋の掃除をしている間に、眠るように逝ってしまいました。

すぐに気がついたので、脈を取り、血圧を測り、時間を確認し、医師に連絡を入れた後は母の手を握り、思いっきり泣きました。

幼子を抱えて戦後の不自由な生活を乗り越え、父とともに3人の子供を育て、大学教育の機会を与えてくれたことは感謝です。私なりに親孝行ができたかどうか分かりません。

母のように賢く、この世での区切りができるよう努力しようと思います。

 

■もっと知りたい■

いしだて まさこ
いしだて まさこ

京都府舞鶴市生まれ。’75年、趣味で染織を始める。’02年よりカルチャーセンターの染織講師になり個展は10回開催。趣味はクラッシック音楽を聴く、読書、墨彩画、パステル画、トレッキング、グランドゴルフ。計画~乗り物・宿の手配まで自分で手がける個人旅行も得意。

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