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壮大な物語『勇者たちへの伝言 いつの日か来た道』

公開日:2024.04.16

歳末福引に参加するため、商店街でこの本を買いました。芥川賞作家 又吉直樹さん絶賛の文字が、目に入ったからです。2016年暮れのことでした。

壮大な物語『勇者たちへの伝言 いつの日か来た道』
『勇者たちへの伝言 いつの日か来た道』増山実 (著) 角川春樹事務所

阪急ブレーブス

舞台は兵庫県西宮市、30年程前に家人の転勤で、私は神戸・大阪・京都と移り住んだので、西宮北口はなじみの場所でした。

西宮北口には、阪急ブレーブス(現オリックス)の本拠地西宮球場がありました。主人公が亡き父と、初めてㇷ゚ロ野球を観戦した思い出の地です。

1969年の阪急ブレーブスの事は、読んでいる私も鮮明に覚えていて、球場や選手たちの描写に心が躍りました。これはブレーブスの思い出話なのだと思いましたが、父の秘密を知ってから、一転、在日コリアンの北朝鮮への帰還事業や、壮絶な戦後史が繰り広げられ、それらが阪急ブレーブスと見事に絡み合います。

人気テレビ番組「ブーフーウー」

1960年~67年まで放映されたテレビ番組「ブーフーウー」の、狼の声で活躍した永山一夫さんも登場、懐かしくて胸がいっぱいになりました。主人公の父の初恋の人は1960年に、永山さんも1971年に、人気俳優の座を捨て、新潟港から万景峰号に乗り、祖国北朝鮮へ渡りました。

心に響いた言葉

「ブレーブス いうのは 勇者たちいう意味や 勇ましい者と書いて勇者や ~中略~ 勇気を持ちや 生きていくには 勇気が必要や」

主人公の父が小学生だった頃、近所の優しいおじさんに言われた言葉です。少しの勇気で変えられたはずの人生、勇気がなかったために、その後の父や初恋の人の運命が、大きく変わってしまいます。

心に響いた言葉

1等当選⁈

物語は、終盤で全ての人々が鮮やかにつながり、感動のうちに終わります。

ブレーブスの代打の神様高井保弘氏や、キューバからの助っ人として活躍したロベルト・バルボンさんを巻き込んで、思わぬ方向に展開をするストーリーに、心が震えました。もう何年も前に読んだのですが、大好きで時々読み返しています。

福引に参戦したいために衝動買いした本でしたが、素晴らしい作品に出会え、1等に当選した気分になりました。ちなみに、福引は参加賞の台所洗剤でしたが(笑)。

全作品読了

​​​​​​​1等当選⁈
『ジュリーの世界』(ポプラ文庫)『百年の藍』(小学館)
『風よ僕らに海の歌を』(角川春樹事務所)『勇者たちへの伝言 いつの日か来た道』(角川春樹事務所)『波の上のキネマ』(集英社)
『甘夏とオリオン』(KADOKAWA)『空の走者たち』 (角川春樹事務所)

作者の増山実さんは、1958年大阪生まれ。出版社に勤務後、放送作家となり、関西の人気番組「ビーバッㇷ゚!ハイスクール」(朝日放送系)のチーフ構成や「探偵ナイトスクープ」を担当。この番組は私も見ていました。

『いつの日か来た道』は、2012年松本清張賞最終候補となり、その後『勇者たちへの伝言』と改題し、大阪ほんま本大賞を受賞。

この本がきっかけとなり、最新作「百年の藍」まで、増山作品は全部読みました。

■もっと知りたい■

さいとうひろこ

趣味は落語鑑賞・読書・刺しゅう・気功・ロングブレス・テレビ体操。健康は食事からがモットーで、AGEフードコーディネーターと薬膳コーディネーターの資格を取得。人生健康サロンとヘルスアカデミーのメンバーとなり現在も学んでいます。人生100年時代を健康に過ごす方法と読書や落語の楽しみ方をご案内します。

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