インタビュー:自分で自分を応援して生きる
俳優・倍賞千恵子!80代の今「一生かけて二兎を追い続けたい」
俳優・倍賞千恵子!80代の今「一生かけて二兎を追い続けたい」
公開日:2026年02月08日
倍賞千恵子さんのプロフィール
ばいしょう・ちえこ。1941(昭和16)年、東京生まれ。60年、松竹歌劇団(SKD)に入団。61年、松竹映画「斑女」でデビュー。62年「下町の太陽」でレコード大賞新人賞受賞。「男はつらいよ」シリーズのさくら役に代表される庶民派女優として、また歌手としても活躍。2022年「PLAN 75」でブルーリボン賞主演女優賞受賞。2025年に映画「TOKYOタクシー」(監督:山田洋次)で木村拓哉とダブル主演。
山田洋次監督と「お互い年取ったね」って笑い合う

映画「TOKYOタクシー」(2025年11月公開)で私が演じたのは、ネイルサロンをやっていた85歳の金持ちのおばあちゃん。
自分の家も店も全部売り払って、東京の柴又から神奈川の葉山にある高齢者施設までタクシーに乗っていく。そのタクシーの運転手さんに扮するのが木村拓哉さんで、二人でいろいろ寄り道しながら葉山に向かう、たった1日のお話を2か月半かけて撮影しました。
山田監督とまたお仕事ができたのは、うれしかったですね。お互いに「年取ったね」って(笑)。私がこれまで出演した映画178本のうち3分の1くらいが「男はつらいよ」。「下町の太陽」でレコード大賞新人賞をいただいたとき、山田監督により映画化され、私は“庶民派スター”と呼ばれるようになりました。
“その人になって演じる”という役者としての形
役者として一番いろんなことを考えたのは、映画「家族」(1970年)です。山田監督がドキュメンタリー風に撮った作品で、私は乳飲み子を背負い、幼い男の子の手を引いて、夫とお義父さんと九州から北海道へ日本を縦断していくんです。雑踏の中での隠し撮りも多くて、地元の人もたくさん出演し、私たち役者はそれをアドリブで受けて演技しました。
私が演じる民子さんは言葉が九州弁だから、セリフはもちろん、隠し撮りしているときに話しかけられても九州弁で答えなきゃいけない。だから休憩中も必死になって九州弁で話し、子どもたちとずっと一緒に過ごして……。
そうするうちに、どんどん民子さんという人が自分の中に入ってきて、どこから話しかけられても九州弁で答えられたし、「母ちゃん、母ちゃん」と子どもが懐いて、私から離れられなくなっちゃうくらいでした。とてもしんどかったけど、“その人になって演じる”という役者としての自分の形を得た作品でした。
誰もが切ったら血が出る人間であり、平等なんだと学んだ
「男はつらいよ」をはじめ山田監督の映画が深く躍動しているように感じるのは、画面にいるすべての人が生きているからなんだと思います。
例えば、寅さんとさくらさんが手前で芝居をしていて、その後ろを通行人が歩いていく場面では、その人が家族のために家路を急いでいるのか、別に誰も待っていないからぶらりぶらりと歩いているのか、それによって歩き方が変わってくる。
そういうピンボケで映る人たちにも、どんな暮らしをして、今何を思っているのか、山田監督はちゃんと息を吹き込んでいくんです。
渥美清さんもそうでしたね。ピンスポットの当たらない人たちの気持ちをいつも考えていました。だから私にとって、映画というのは人間の見方を学んだ学校でした。誰もが切ったら血が出る人間であり、平等であることを学んだ“人間の学校”だったなあと思います。
歌は語るように、セリフは歌うように

私は映画のイメージが強いんですが、もともと童謡歌手をしていて出発点は歌なんです。映画の世界に入ってからも「下町の太陽」がヒットして、「歌と映画、どちらが本業ですか?」とよく聞かれ、「両方本業です」と答えると、「『二兎を追うものは一兎をも得ず』になりませんか」と言われたこともありました。
あるとき、「歌は語るように、セリフは歌うように」という山田監督の言葉を聞いて、歌うことと演じることが自分の中で響き合うようになりました。歌うときは言葉を伝えることを心掛け、演じるときはセリフにメロディーをつけて心を伝える。両方とも、私が一生追い続けていく仕事だと思っています。
歌手活動としては、毎年6月にバースデーコンサートを開いています。映画の中で歌った曲を、ステージではまた違う表現で歌ってみたり。歌と演技を両方追ってきたからこそできる演出で、“私って結構面白いじゃん”って自分で自分を応援しているの(笑)
反戦の思いを込めた「死んだ男の残したものは」(作詞:谷川俊太郎、作曲:武満徹)も、ずっと歌い続けたい歌です。
私は声高に「戦争反対!」って言える性質じゃないんですが、歌うことで人が人を殺す戦争は絶対にやめなきゃいけないというメッセージを伝えたい。キーが高くて長い歌で苦しいんですが、この歌を歌い続けなきゃと思うから私もがんばれるんです。
自分をちゃんと全部使い切ってから死にたい
滑舌をよくするために、毎日お風呂の中でやるのが「パタカ」。パパパパパ、タタタタタ、カカカカカと言って、最後に「パタカ、パタカ」と繰り返す。それから朝晩、歯を磨きながら必ずスクワットをします。あとは近所をよく歩いて、プールで泳ぐ。
これまで私は肺がんの手術をしていて、肺が小さいんですが、毎日いろいろしているからか、主治医から「肺は再生しないのに、なぜか少し大きくなってる」と驚かれて(笑)。あちこちパーツは傷んでいますが、自分をちゃんと全部使い切ってから死にたいなと思っています。
取材・文=五十嵐香奈(ハルメク編集部)、撮影=中西裕人、ヘアメイク=徳田郁子
※この記事は、雑誌「ハルメク」2025年7月号を再編集しています。




